ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[928103hit]

■「紙屋悦子の青春」
もうひとり印象的だったのが、兄嫁の本上まなみ。陽気で思ったことはすぐ口に出てしまう女性で、ちょっと気が利かないところもありますが、とても愛らしいです。しかし兄嫁らしく悦子を気遣う気持ち、愛嬌のある憎まれ口を利きながらも、夫を愛する様子がとてもわかりました。「お赤飯とらっきょ」は、一家の主婦とはそんなものです。どんな馬鹿馬鹿しくとも、それで家族が無事なら藁をもすがる気持ちになり、私だってやったでしょう。夫の帰郷がたった一日とわかり、「なら帰ってこんでも良かった」の言葉には、「数日いっしょに居られると楽しみにしていたのに」と共に「一日だけなら、私を気遣わず体を休めて欲しかった」の気持ちも含まれています。素直に「しんどいのに帰って来てくれてありがとう」の言葉は、若妻の時は意地が先に立って、なかなか出てこないものです。若い時の自分みたいで(あんなに美人じゃなかったが)、つい微笑んで見てしまいました。

そんな兄嫁の「もう戦争に負けてもよか・・・」というつぶやきは、社会としがらみのない主婦ならばこその本音なんだと、しみじみしました。本上まなみも、とても自然に兄嫁を演じて好演でした。

ひとつだけ苦言を呈せば、老いた悦子と永与には無理を感じました。日本には老名優がたくさんいます。このシーンは別の俳優でも良かったかと、個人的に思いました。

鹿児島の方言がとても暖かく耳障りが良かったです。当時の家屋の風通りがよくしっかりした佇まいなど、美術的にも見所がありました(美術監督は「父と暮せば」の木村威夫)。庭に咲く桜が、戦時中でも桜は咲くのだなぁと、当たり前なことを感じさせてくれます。辛く厳しい様で反戦を描くのではなく、ゆったりとした時間の流れの中、暖かい人の心の触れ合いと強さで反戦を浮かび上がらせた、とても日本的な美しい作品でした。

09月08日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る