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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「嫌われ松子の一生」
笙の彼女(柴崎コウ)が語る「人生の値打ちって、相手に何をしてもらったかではなく、どれだけの人に何をしたかってことだよね。」との、お若いのにわかっていらっしゃる言葉に、尽くしても尽くしても、どんどん泥沼に落ちる松子を重ねて、涙涙の私。柴崎嬢はこの言葉を残し海外青年協力隊へ。平成の若い女性だなぁと、感慨深い私。

この作品は注意深く観ていると、「裏昭和史」みたいなのも見えます。作家崩れとの同棲は、薄汚い四畳半で「同棲時代」や「神田川」の世界だし、愛人となるや、そこは花柄の壁紙、カラーテレビや電子レンジなど、ある程度行き渡った「憧れのアメリカ」です。玄人トルコ嬢として活躍していて松子を蹴落としたのは、素人が売りの若い子。この頃は空前の女子大生ブームで、「夕暮れ族」だったっけ、女子大生が愛人契約するのしないのが話題だったような。こんなの視点を変えれば、体売ってまで向学心があるのなら天晴れですが、女子大生が先か娼婦が先かって問題ですが。この頃から段々世の男は頼りなくなってきて、「私を守ってくれる王子様」は、そんじょそこらにはいなくなってきます。そして今や女子大生どころか、女子中学生が持てはやされる幼稚な時代です。

そうやって自分の夢見ていたことが幻だと認識した松子は、あの無気力な生活に突入。あれは引きこもりを描いていたのか?アイドルにだけ熱を上げる様子も、上手く機能していました。汚い部屋は汚ギャルの走りというより、ゴミ屋敷の住人にも、その人なりの哀しい人生が隠されているのかと思いました。そして松子が殺された理由。松子が殺人を犯した如何にもな昭和の転落した女を象徴した理由だったのに対し、こちらはあまりに殺伐とした、平成の理由です。

松子に愛情薄く見えた寡黙な父親(柄本明)の、生前の日記にしたためた松子に対しての記入に、私は堪らず号泣。病弱な妹(市川日実子)は、自分が病弱なため何も出来なかった分、松子は妹の夢だったのです。誰も妹の心がわからなかった。哀しい。冷たく見えた弟ですが、「家」を守るのに精一杯だった彼を、誰も責められません。それに弟がいたから、初めて松子を理解してくれる血の繋がった笙が生まれたのですから、やはり縁は切っても、血は切れないものです。

悲惨な話に華やかなミュージカル場面の挿入は、ちょっと「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思わせますが、「ダンサー〜」より作品を引き締め、
きちんと見せ場にもなっており、楽しい出来です。賛否はあるかもしれませんが、この試みは成功だったと思います。元々私は中谷美紀が大好きなのですが、よくここまでやったなと思うほど、いつもの彼女をかなぐり捨てての大熱演。年末の賞レースが楽しみです。他にもドンピシャの配役の、超豪華キャストが奏でるこの大傑作、どうぞご賞味あれ。ご鑑賞の節はハンカチを忘れずに。

05月30日(火)
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