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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「スパングリッシュ」
親のせいにするのは簡単だし、気が楽です。だって本当のことなんだし。でも責めっ放しでいいの?責めっ放しだから、あの時の大嫌いなママと同じ女に自分がなっていると、デボラは気づきません。自分と母の関係が、次は娘と自分に受け継がれているとは知る由もないデボラですが、エヴェリンの深い愛情で、きっとバーニーに心から謝る日がくるだろうと思わせます。必ずバーニーは許してくれるはず。彼女ほど親が誇りに思える優しい娘はいないのですから。
「あんな良い亭主はどこを探してもいない。早く目を覚ませ。」とエヴェリンが娘に言うジョン。腕の良いシェフ、仕事場でも人望厚く、家庭に置いては信頼の置ける大黒柱である彼。しかし彼が以前の高級四星ホテルを辞めたのは、忙しすぎて妻が崩れていく時支えてやれなかったので、家庭がこのようになってしまったとの悔恨があるように感じられました。でないと説明が付かないほど良い人なのです。演じるのが人気者になってもやぼったさの取れないアダム・サンドラーなのが、ジョンをより誠実で正直な人に見せていました。
いくら亭主がおとなしいからって、こんな若くて綺麗でグラマーな家政婦さん、あんた夫をバカにしすぎよ、何があったって知らないからね、と思った通りのことも起こるのですが、常に娘にとって正しい親たる自分を一番にしてきたフロールの選択は、正しいけれど切ないものです。エヴェリンが「私は自分のために生きた。あなたは娘のために生きた」のセリフの後、フロールに語る言葉は、てっきり「あなたは立派よ。」だと思っていた私は、「両方ダメね」に思い切りニヤリ。さすが婆ちゃん、年季が入ってる。自分を一番優先する母はもちろんダメ、しかし子供しか目に入らぬ母もいけないと思います。そんな母を持つ子は、親の恩の重さに、飛びたい時飛べぬように思います。必ず母も子供も、両方幸せに生きていける道はあるはずですから。
しかし長い親子関係の間、母親が子供だけを見つめ、子供だけのために生きることは、二方にとって必要なことだと私は思います。それが小学校卒業までか、15歳か18歳か、それはその親子それぞれでしょう。それを立証しているのが、ナレーションを務めた成長したクリスティーナであったと思います。「親には冒してはいけない罪がある」。このフロールの言葉は忘れないでおこうと思います。
パス・ベガはスペインの女優さんで「トーク・トゥー・ハー」での「縮みゆく男」に出ていた女優さんです。とっても素敵!心身から健康と美しさの溢れるラテン女性を大変好演していて、これがハリウッド・デビュー作です。文明の遅れているメキシコの田舎出身の彼女が見せる、人として正しい姿は、豊かになり価値観が多様化していくと、誠は何かわからなくさせるような気がしました。ベガ以上と言っていい好演がティア・レオーニ。何も賞を取らなかったみたいですが、すごい大熱演です。少々暑苦しくもありますが、私はすっかりレオーニを見直しました。そしてもう死んだと思っていた(すみません、すみません!)オスカー女優のリーチマン。齢80にしてアル中のお婆ちゃんを愛を込めて演じて、これまたすごくチャーミングでした。他は「恋愛小説家」に続き、犬の使い方が楽しいです。
多分地味過ぎてヒットしません。でも私にとっては過去も現在も愛しく抱き止められ、未来に希望をもたらす一生忘れられない作品です。映画をたくさん観るのは、名もないこういう一本に出会うため、そんな気にさせる作品です。
01月31日(火)
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