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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「イン・ハー・シューズ」
エラはローズをひとめ見てすぐわかり、年月を感じさせずすぐ祖母と孫に戻る二人に、いちまつの寂しさを見せるマギー。子供の頃の2〜3歳は大きく、下の子の宿命で自分は覚えてもらっていなかったのにと、哀しかったでしょう。しかしローズはローズで、マギーの知らない辛い思い出を、妹には教えず一人胸にしまっていました。姉妹それぞれの寂しさ哀しさを平等に表現していて、とても胸に染みました。
私の母は2人の息子を連れた父と再婚、のちに私と妹が生まれました。母の親兄弟を養っていた父に気がねする母は、連れ子である兄二人を育てていることを盾にして、その気がねをプラスマイナスにしたかったようです。しかしそんなこと計算どおりには行かず、我が家はいつもけんかばかりで、しわ寄せは当然私と妹に。暗い部屋で二人で手を握り合いながら声を殺して泣いた日もあります。プライドが高かった母は人には家の恥は言えなかったのでしょう、子供には普通言わないようなことも全部私に話します。母を可哀相だと思っていた私ですが、ある日大爆発。鬼のような形相でそれでも母親かと食ってかかった時の「あんたの気持ちが父親のところに行くのが怖かった。」という母の言葉を、昨日のことのように思い出します。私が母に頼んだのは、妹には何も話してくれるなということでした。私は私なりに妹を守ったつもりでしたが、私が21歳で結婚、5才離れた妹は母が亡くなるまで8年間、気がきつくプライドの高い世間知らずの母と二人暮らしで、心細い思いをしたことでしょう。ローズとマギーを見ていて、自分の過去も走馬灯のように浮かんでは消え、泣かないような場面でも涙が浮かんで仕方ありませんでした。
なんと頼りない父親だと観客に思わせる姉妹の父親ですが、娘達を見ると亡き妻を思い出すから、深くはかかわらなかったのではないでしょうか?妻の自殺をエラのせいにしたかっただけで、本当は彼女の病を承知で結婚しながら、理解出来ず守れなかった情けない自分から逃げたかったのではないでしょうか?母が兄たちに辛くあたるのを見て見ないふりをし、外に女を作っては家庭を省みなかった父を持つ私には、そんな気がします。誰にでも人生には触れられたくない部分があるはずで、それが姉妹の父には亡き妻であったのでしょう。その気持ちを慰めてくれたのが、俗人丸出しの後妻だったのでは?尻に敷かれているというより、彼に取って娘より生きて行く上で必要だったのでしょう。
傷ついた男性の心には、女性の愛が必要です。大人になり母に仕返しのような仕打ちをした兄たちを恨んでいた私ですが、心から愛してくれる母親のいなかった兄たちの哀しさ侘しさを、私は息子を生んで初めて思いやったものです。父も5歳の時に母親を亡くしており、子供の理解がなくては愛情のわかりづらい私の父の人生は、ここから始まったのです。ローズやマギーにも、父を理解する場を与えるシーンを用意していたのが嬉しかったです。
「イン・ハー・シューズ」とは、単に靴のことではなく、その人それぞれに合った人生があるという比喩だそうで、同じ親に生まれ同じ環境に育った姉妹が、ゆっくりと地に足をつけて、それぞれ自分なりの人生を歩き始めたことを表す言葉なのですね。「ママの代わりにおばあちゃんに甘えたかった」のマギーの言葉に、日本もアメリカもいっしょなのだなぁと感じます。大人になると個が強く尊重されるように感じるアメリカでも、親子や兄弟、祖父母の情は健在なのだなぁと、違いのなさに嬉しくなります。
それにしてもシャーリー・マクレーンはチャーミング。手や胸に染みが浮き上がろうが、ホームのダンディなおじいちゃんを虜にする魅力がいっぱいでした。老いても女性としての愛らしさは失わず、お手本にしたいです。私も夫が亡くなった後、見初めてくれるおじいちゃんが現れるよう、今から頑張りたいと思います。
12月10日(土)
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