ミドルエイジのビジネスマン
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| 2005年03月12日(土) |
夜行特急でカラオケバーに駆けつける |
金曜の夜、特急列車でなければ行けないその街に降り立ち、冷たい小雨の中、居抜きで借りたという店のドアの前にようやくたどり着いた。中からはカラオケの歌声がする。力を込めて開けてみると、そこには銀座のカラオケバーと同じ光景が繰り広げられていた。携帯電話のカメラで撮られた小さくぼやけた顔しか知らない彼女は、店の主(あるじ)として大きな笑顔で迎えてくれた。彼女のご主人も若い衆と連れ立って来ており、互いにぎこちなく挨拶した。
あれほど心細そうに開店前の不安を日記につづっていたのに、彼女は10年前からずっとこうだったのよと言わんばかりに店内の雰囲気を堂々と支配し、一方、顔なじみの客たちは何度も通い慣れた常連のようにくつろいでいる。新規開店は、どうやらうまく滑り出したようだ。日記仲間の「マキュキュ」のお店がとうとう3月9日にオープンし、開店3日目に客として訪問したのだ。
カウンターの隅に座り、IWハーパーのボトルを入れて、おとなしく飲んでいると、ハンサムな男の人が友人と一緒に入ってきた。彼はマキュキュと何年も付き合いがあり、ときどきおいしいお米を分けてくれるのだそうだ。少し経つと、やせて背の高い男が現れた。店の中でもマフラーを取らず、矢沢永吉になりきって歌い続けた。さらに暫くすると、小学生の子供がいるという女の人がやってきた。彼女はマキュキュよりちょっと若いが、どうも彼女のお目付け役らしく、自分が高校生のときから付き合いがあると言っていた。
初めての店、どの人とも初対面、それどころか店の主(あるじ)とも初めて会ったのだ。この日、この瞬間に、バーチャルな日記の世界が現実の世界と融合したとも言える。顔を合わす前から、相手がどんなことを考えているか知っている間柄。
約束どおり、マキュキュはテレビ番組「優しい時間」のエンディングに流れる「明日」(あした)という曲を歌ってくれて、予告どおり間奏の間に涙があふれてきたようだ。仲間が集まって協力してくれた店がようやく開店にこぎつけ、新しい「明日」への出発だ。おそらくそればかりではなく、自分が若いときにこの街にやって来て苦労した事ごとをこの歌を歌うと思い出すのだと思う。もしかしたら、遠い昔、歌詞にあるような別れと新しい旅立ちがあったのかもしれない。
少し前の時間帯には、知り合いの地元の新聞社の人も客として来てくれていたという。そういう好ましいお客様が、また知人を紹介してくれて、良質の客層が拡がっていけばいいと思う。
彼女は酔った客がカラオケだけ歌うただのカラオケスナックにはしたくないのだという。男も女も、年配も若い人も、知り合いも初めての人も、様々な人が寄り集まり語り合って楽しみ、時にはマキュキュが悩み事も引き受ける。そうして、ちょっとした工夫が生きている彼女自慢のお料理も楽しんで欲しいのだそうだ。彼女自身は洋風居酒屋と言っていたが、少なくとも店の雰囲気は最新鋭カラオケ装置が鎮座している立派なカラオケバーだ。店の風格は、マキュキュ自身と集まってくるお客様が、これからゆっくりと形造っていくことになるだろう。
しばらくは店を軌道に乗せることが肝心、忙しいとき以外は一人で切り盛りしていくというのだが、お客様の何気ない言葉や仕種(しぐさ)に込められているリクエストや批評を謙虚に感じ取って、小さなことでもできることはすぐに改善し、満足して帰ってもらえるようにしていただきたい。どんな商売でも、「何も不平を言わず、ただし、二度と来ない客」を出さないようにすることが肝要なのだと思う。
(これまでの経緯については2004年11月7日、2005年1月23日の日記もご覧いただきたい。)
| 2005年03月06日(日) |
エスタブリッシュメントの狼狽 |
またしても、お騒がせホリエモンことライブドアの堀江社長が、今度はこともあろうにニッポン放送を買占めにかかった。
今回の騒動で大部長が一番驚いたのは、普段、証券取引所の規則など興味もないであろう経営者や政治家がほとんど反射的に法律違反だなどとコメントしたことだ。
この問題はあちこちで関心を呼んでいるようで、大部長も出張先でどう思いますかと聞かれたものだから、思っているとおり「ホリエモンに理があります」と言ったら問いかけをした人は不機嫌になってしまった。聞いてきた人は堀江社長の経営者としての品格と規則の隙を突くような行動を問題にして、「拝金主義で礼儀知らずの若者が社会のルールを破っている」と思っているに違いない。だれも堀江社長が崇高な理念に基づいて経営革命を起こそうとしているなどと擁護つもりはない。ただ、品位とルール違反は明らかに別の問題だ。
いつもは賢そうにしている人々が、思わずカッとして感情的な発言をしたのは、自分たちの足元が掬(すく)われそうになったことを本能的に察知したからに他ならない。金融庁も何日かしてから、やっと規則に抵触していないことを正式にコメントした。
そもそも、「一連の出来事の背景にはブッシュ大統領の弟分である小泉首相が、アメリカの企業が日本の会社を簡単に買収できるようにしろ、と命令されて様々の法改正をしているさ中に起きた。すなわち、こんなことはこれから日常的に目にすることだ」と言う人もいる。ブッシュの命令というのが真実かどうかは分からないが、確かに、日本中の大企業が自己防衛に本気で取り組む契機となるだろう。
肝心の買収劇には、とっくに退場したはずの創業者一族である鹿内家が登場して大和証券SMBCに株式を返せと捻じ込んだりして、ますます混沌としてきた。大部長はホリエモンの失敗は一撃で仕留められなかったことだと思うが、それでもまだ彼に勝ち目はあるのではないかと思っている。
こんな話を先輩と金曜日の飲み会で話していたら、ボソッと「エスタブリッシュメントの狼狽だよね」と言われた。核心をついていると思う。
| 2005年02月27日(日) |
ドキュメント「大部長、新生銀行本店に乗り込む」 |
新生銀行は送金手数料が無料だということは聞いていたが、大部長もネットバンキングを利用して割安料金を享受しているので、それがどうしたとあまり気にかけてもいなかった。先日、「住宅ローン金利1%」という新聞記事をきっかけにホームページを開くと口座開設をすれば噂の「iPod shuffle」が100名に当たる、と書いてあったので、早速口座を開くことに決めた。最近、銀座にキレイな営業所を開いたということで、そちらにも興味があったがせっかくなので日比谷公園の隣にある本店に乗り込むことにした。「私は新生銀行本店と取引がある」カッコいい台詞じゃないですか。
さて、旧長期信用銀行本店といえば、平民が訪れることなど畏れ多くて想像さえしなかったものだが、制服姿のガードマンの視線を平気な振りをして無視し、勇気を出して重い回転ドアを押して入ってみると、ガラス張りのオフィスの左手にはなんと大好きな「スターバックス」があるではないか。右手にはパソコンが数十台並んでいて普通の人が画面に向かっている。後でパンフレットを見るとヤフーのネットカフェらしい。しかも、普通なら銀行ロビーの奥にあるカウンターが見当たらないので、どうしたらいいか分からない。一回戦は大部長の負け。
仕方がないのでロビー中央、円形の受付カウンターにいるキレイなお姉さんに声をかけた。いかにも、外資系のできるキャリアウーマンという感じだ。「あのー、新規に口座を開設したいのですが」と聞くと、なんと「こちらで承ります」とのたもう。エッ、こちらでって立ったまま?そう、お互い立ったまま手続きをするのだ。A4の紙に住所やら名前やら書き込んでいくとサインと印鑑を選ぶことができるようになっている。先ほどから銀行印を握り締めているのにキャリアウーマンは全然関心を示してくれないと思ったらハンコではなく、サインでも取引ができるのだという。オーッ、カッコええ。古い頭が一瞬、本当にハンコなくてもいいのかなとためらわせたが、かろうじてカッコいい方を選んだ。二回戦は引き分けかな。
お次は「お預けはいくらになさいますか」と来るぞと思って、さっきから内ポケット手を入れて、大枚10万円(iPod shuffleが当たる条件の残高)の入った封筒をパーンと叩きつけてきれいなお姉さんに「畏れ入りました」と言わせてやろうと待ち構えているのだが、それではカードを作ってまいりますのであちらのソファで20分ほどお待ちください、と言うだけで、これまた金額に関心を示さない。いくら預けるか聞かないんですかと言うと口座を作るだけだからゼロでもいいという。ハンコも要らず、お金も要らず、20分(実際には10分足らず)でキャッシュカードを渡す、しかも、そもそも通帳など元から無い、という手際の良さに、大部長は三回戦でノックアウトされた。いやいや、さすが外資系、やることがスマートだわ。
奥にあるATM(入口に無いということは入出金だけのやつは来るなということか)で、だれも驚いてくれなかった大枚10万円を入金しながら、カッコええ銀行やなあとなぜか大阪弁になり、いつしか、その銀行の、しかも本店で取引している自分もカッコええなあと思えてきたものだ。この乾いたクールな空気、きれいなお姉さんとの対等な大人の会話。そのまた奥にある秘密めいた、擦りガラスの「ゴールドデスク」には用事もないだろうが、全体として洗練されたアトモスフィア(雰囲気)を感じた。おお、感想まで自然に英語になってしまう。
ちなみに、送金手数料が無料なのを利用して特定の中小企業が何百件も送金するので今では「実質無料」は月間5件までに制限されているとのことだ。「実質無料」の意味は一旦手数料を引き落として、後で月に5回分までを入金してくるということらしい。もし、1千万円持っていれば30回まで無料という話だが、こういうのを無駄な情報という。
口先ではありがとうございますと言いながら、あんたみたいな小口は面倒なだけなんだよという雰囲気を漂わせ、奥で中年のワイシャツ姿のおっさんが偉そうにハンコを押してようやく口座を作らせていただく銀行が今もあるとしたら、少なくとも口座を作る段階では大口もゴミもなく、対等の人として扱われた感じがして重い回転ドアを出てきたときには自分が大物になったような気分になっていた。しかし、改めて考えてみると、将来このキャッシュカードの裏にカッコつけて書いたローマ字のサインを何がしかの契約書に署名する機会があるのだろうか。ま、はなはだ疑問だ。
新生銀行はATMの使用についてアイワイバンクと提携している。週末にイトーヨーカドーとセブンイレブンでお金を出したり入れたりして遊んでみた。他行ではあっても操作にストレスはなく、自分の銀行のように365日、24時間無料で入出金ができるのでこれだけでも口座を作る価値がある。アイワイバンクの申込書を手にしたこともあるのだが、時間によっては自行のATMも有料になる。素朴な疑問だが、それでは、新生銀行ではなく、アイワイバンクに口座を開設するメリットは一体何なんだろうか。次も余談だが、郵便局のATMも使える(引出しは有料)ので、地方に住む若い女性が他の銀行口座を整理してもっぱら新生銀行だけ送金に使っているという例もあるらしい。今や、銀行も消費者に選ばれる時代になったということを実感する。
はてさて、本日は新生銀行の回し者のような事ばかり書いてしまったが、もちろん大部長は新生銀行とは縁もゆかりも無いことをお断りしなければならない。最後に、きれいなお姉さんとの一番最初の会話を紹介しよう。口座を開設したいと申し出たときに最初に彼のキャリアウーマンはしきりと取引開始について説明したがった。こちらはただ口座開設に来ただけでそんなもんはいいと断ったのだが、「口座維持の条件についてご存知ですか」とのたもう。今は何の条件もついていないが、そのうち何らかの条件、例えば一定の残高がないと口座維持手数料を徴収するという類であろう。まあ、世の中こんなにおいしい話が長続きするわけも無いので、破綻した発券銀行から外資系のカッコええ銀行に変身して見事にイメージチェンジに成功した今、いつ強気に出てきてもおかしくはないと大部長は思うのであった。
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