2002年03月04日(月)  感想

■実弟でも義弟でもない弟君から「ネット上で『彼女たちの獣医学入門』の感想を見つけた」とメール。家に帰ると、母からも「見た人たちからの感想を送ります」と葉書や封書のコピーが届いた。いい感想にしろ悪い感想にしろ、「見て思ったことを書く」という行為を取らせること自体が「作品が人を動かした」ことになる。「見ました」という一言だけでもありがたい。■函館のラッキーピエロからは「アンケートをホームページに掲載させていただきました」と葉書が来る。映画祭のときに人見店で書いたもの。思いっきり年齢が出ているんだけど、まあいっか。


2002年03月03日(日)  文京区のスポーツクラブ

肥満と花粉症を運動不足のせいにしているダンナが「スポーツクラブ!」とうるさいので、インターネットで調べてみると、わたしの住む地域には二つあることがわかった。ひとつは月額15000円。もうひとつは月額2500円。なんだこの落差はと思ったら、後者は区の運営だった。1回ごとに利用料を払う場合は、たったの520円。「別途ロッカー代が10円かかります」と言われ、安さに腰を抜かしそうになる。「会員制で、講習を受けるのが条件」とのことで、善は急げと夫婦の休みがそろった今日、講習会に参加する。

行って驚いたのは、施設の新しさと設備の充実度。エアロバイクもランニングマシンも物々しい筋トレマシンも何だって揃っている。全身マッサージ機まである。講習は2時間。マシンの説明が1時間、残り1時間で実際に使って慣れる。ランニングマシンで5分ほど走っただけで汗が噴き出す。走るのなんて、通勤の階段ぐらいだから、地面を蹴る感覚すら快感。ダンナもうれしそうに筋トレマシンはしごをし、「ワンセットこなすだけで効くぞ」と早くも効果を実感している。ついでに、家からは歩いて往復1時間ぐらいの距離なので、行き帰りもいい運動になる。「これで税金の元を取るぞ!」「週末は早起きするぞ!」と張りきっているが、飽きっぽい二人なので、いつまで持つやら。


2002年03月02日(土)  手づくり

■友人たちに紹介された映画評論家や映画ライターの方に、パコダテ人マスコミ試写の案内を出す。年に何十通という試写状を受け取る方々だから、その一つに紛れてしまう恐れがある。少しでも心に留めてもらいたい。自己紹介も兼ねて、作品の生い立ちを紹介する。紙切れでしかなかったシナリオが前田監督に見出され、プロデューサーを巻きこみ、映画化にこぎつけ、多くの人の情熱に支えられて、予算やスケジュールの制約を感じさせない作品に仕上がったこと。大人も子どもも笑って泣けるファミリーエンターテイメントであることなど、作品に込めた思いを手紙に託す。ひさしぶりのペンだこの痛み。封筒に「パコダテ人試写の案内」とピンクのペンで大きく書き、色紙を切り抜いてしっぽを張りつけ、「ハッピーが生えてきた」とキャッチコピーをつける。切手は、ちょうどいいのがあった。シッポをピンと立てた犬の変形シール切手。わたしのことなど知らない方々に、作品の持つ手づくりのあたたかさが伝われば、いいなと思う。


2002年03月01日(金)  『たまねぎや』と『サムラート』

■昨晩、大学時代のクラスメートI君行きつけの『たまねぎや』というお店で飲んだ。自称「神楽坂のおしゃれでない一杯飲み屋」で、自慢は日本酒。『美丈夫 舞』という発泡日本酒にはじまり、『蘭者侍(らんじゃたい)』『磯自慢』『醸人 九平寺(かもしびと くへいじ)』と飲み進み、気がつくとすごい時間になっていた。最後は「漂流」をテーマに店のおやじさんと三人で盛り上がった。■いつも以上に起きるのが辛いが、朝いちばんに新製品開発のアイデア出し。変なものを思いつくまま言っていけばいいので、得意分野だ。みんなも面白がって聞いてくれるが、得意先に持っていくまでに幾つものふるいにかけられて、ほとんど消えると思われる。お菓子、ジュース、お酒……口に入れるもののアイデアを思い巡らすのは楽しい。もちろん薬は除く。■会社近くにインドカレーのサムラートが昨日オープン。先輩お姉さまたちと行ってみると長蛇の列。開店早々で慣れていないのか、インドの言葉で怒号が飛び交い、カレーも飛び交い、注文するほうまでジェスチャーが大きくなる。なんとかテイクアウトし、オフィスの一角の丸テーブルで食べる。「いやあ、どっと疲れたねえ」「片手でナン3皿どうやって運ぶんだろうと思ったら、ナンの上に皿重ねてたよねー」と戦場さながらだった店内を振り返るお姉さまたち。わたしがインドで遭った『髪の毛事件』の話をする。レストランで注文した鳥の串焼きと平行に、針金かと見まごう剛毛が横たわっていた。ボーイを呼び、「別の皿を持ってきてくれ」と言うと、真っ白な皿が恭しく運ばれてきた。「そうではない!これじゃあ食べられないから作り直してくれ」と言い直すと、串焼きが煮こみに化けて戻ってきた。話に笑ったお姉さまたちは、「でも、その店の人たちも、噂してるんじゃない?髪の毛一本で大騒ぎした変な日本人がいたって」。そうかもしれない。あんな大らかな国で、髪の毛ごときに目くじら立てるのは、場違いな気もする。本場のインドカレーを口に運びながら、ひさしぶりにインドのことを思う。


2002年02月28日(木)  ヘンな弟よっくん

6つも年下のくせに、わたしを呼び捨てにする男がいる。弟だ。義弟(こちらは大学の応援団の後輩でもあるので、礼儀正しさも気合いが入っている)ではなく実弟のほうである。9年前に高校を卒業したが、いまだに学生をやっている。長らく家族の関心事だった「いつになったら(大学に)入るんやろ」は、今は「いつになったら出るんやろ」へと移り変わっているのだが、その一方で「あの子は天才かもしらへん」と密かに思っていたりする。

弟が小学校低学年のとき、図工の授業でステンドグラスに取り組んだ彼は、「火星人しゅう撃か?」というおよそ子どもらしくない文字を切り抜き、「真面目にやれ」と先生に叱られた。そのとき「文字をアートにするとは斬新や」「ピカソも生きてるうちは評価されんかった」と両親はささやきあった。弟が高校生のとき、彼の部屋に置かれた『ソフィーの選択 読書感想カード』(出版社あてに出す葉書)には「1500円は高い」と書いてあった。かと思うと、「すごいことを発明した」と、電気ポットで煮込みカレーを作りだしたりする。天才なのかアホなのかよくわからないが、変人であることは確かだ。

その弟をひさしぶりに電話でつかまえ、「パコダテ人の宣伝して」と言うと、「どんな映画かもわからんものを無責任に人に薦められへん」。「お姉ちゃんの書いた映画がヒットしたら嬉しいやろ?」と言うと、「人の喜びを自分の喜びにする趣味はない。ごめんやけど」と謝った上で「雅子って自分が作ったものはみんなが好きになってくれると思ってない?」と核心を突いてくる。「それって変やで」と言う弟に、「そっちこそ変や。さめすぎや」と反論し、変人対決になる。

「よっくん(わたしは敬意を込めて君づけで呼ぶ)、料理にポテトチップス入れるやろ?」「オムレツにカラムーチョ入れると激ウマなんや。それより雅子、親子丼作るとき、いきなり鳥肉に唐揚げ粉つけたなあ」。それは確かに変だ。よっくんは言う。「世の中みんな雅子みたいにおめでたくないんや。こういう奴のほうが多いぐらいや」。同じ家で育って、こうも対照的に育つのは面白い。人をケチョンケチョンにけなしておいて、電話を切る直前、「たまには電話してや」とよっくん。ほんとにわけがわからない。しかし、こういうヤツこそ、とんでもないことをしでかすのではないのかとやはり期待してしまう姉である。


2002年02月27日(水)  世の中は狭い。いや、世界が広くなったのだ。

窪島誠一郎さんの言葉に、やられっぱなし。『信濃デッサン館日記』を読んでいると、思わずうなってしまう発見がそこかしこにある。サンフランシスコを訪れた窪島氏は、次々と信州人に会い、中には共通の知人でつながっている人もいた偶然に「世の中は狭い」と驚くのだが、その後に「いや信州は広いというべきか」と続ける。鮮やかな視点の変換。

そうか、最近やたらと世の中狭いなあと感じるようになったが、それは世間が狭くなったのではなくて、わたしの世界が広くなったということなのだと膝を打つ。顔見知りが増えると、友達の友達や知り合いの知り合いに遭遇する確率は高くなる。年は取ってみるものだ。とすると、まだまだ世界は広くなるのかな。


2002年02月26日(火)  数珠つなぎOB訪問

■数年前、就職活動雑誌の座談会に出席した。広告業界に興味を持つ学生二人の質問に、広告代理店社員でバリバリ働くお兄さんお姉さんが答える企画だった。そこで会った学生君から数日後、OB訪問希望のメールが届いた。なんでも「仕事の話をする今井さんがとにかく楽しそうだったので、もっと知りたくなった」のだとか。前向きで爽やかで、かわいがられる素質十分の男の子だった。わたしの会社への就職はかなわなかったが、「すごくいい会社に出会えました」と、文具会社への就職を知らせてくれた。商品開発もするので、アイデア出しを楽しみにしているとメールに書いてあった。会社名を聞くのを忘れたが、文具店に行くと、このどこかに彼が関わった商品が並んでいるのかなと思ってしまう。■去年の就職活動シーズンに、別々のルートで二人の女の子に会って欲しいと頼まれた。ちょうど忙しい時期で、同じような話をするわけだしと思い、二人一緒に会うことにした。どちらもわたしの会社とは別の会社で、広告業界で働く夢をつかんだ。一期一会がほとんどのOB訪問だが、会ったほうとしては「あの子どうなったかなあ」と気になるものだ。「就職決まりました」の報告はうれしい。そのときの女の子の一人から、しばらくして「同じゼミに御社への就職が決まった男の子がいるのですが、会っていただけますか」とメールが来た。現場の社員に一人も会わないうちに内定をもらってしまったので、職場の雰囲気などを聞きたいと言う。やってきた男の子はわたしの話を聞くと、「安心しました」と言って帰って行った。そして、今日、さきの女の子が今度は同じクラブの男の子を送りこんできた。長身で甘い物とカメラが好きな子だった。「自分がどんな仕事につきたいのか、今ひとつわかんないですよね」と言う彼に、「いろんな会社の人に会っているうちに、見つかるかもしれないよ」とか「どんな会社に入っても、必ずそこで学べることはあるよ」などと話した。OB訪問というより人生相談みたいだ。学生の頃は就職した先は一本道だと思っていたけれど、脇道にそれたり二本の道を行ったりきたり電車を乗り換えたりする可能性だってある。あの頃それを知っていたら、もっと楽だっただろうなと思う。


2002年02月25日(月)  信濃デッサン館

■昨日の夜から窪島誠一郎さんの『信濃デッサン館日記』(講談社文庫)を読んでいる。先日、義父と話していて画家の村山槐多(かいた)の名前が出たので「その人のことが書かれた本を読みました」と言うと、「窪島君のじゃないかな」と奥の部屋から持ってきたのが、この本だった。わたしが読んだもの(夭折画家たちの人生に光を当てた『わが愛する夭折画家たち 講談社現代新書』)とは別の本だったので、借りて読みだしたのだが、これが実に面白い。「火の玉のように燃え尽きた早死にの絵描きたちの燃焼力やいちずさ」に魅かれ、彼らのデッサンばかりを集めた美術館を作ろうと思い立った窪島氏は、多くの人の手あつい力添えを受け、夢を形にした。「小さな過疎地の美術館だけれども、全国でこんなに幸福なあたたかい境遇にある美術館も少なかろう」と誇り、経済の工面から生まれた連帯感とそれぞれが抱いた完成への情熱が「貧しい掘ったて小屋美術館に一流のハクをつけた」と言う。■『パコダテ人』完成までの道のりと重ね、読んでしまう。15秒CMで使い果たすような低予算であれだけの作品が仕上がったのは奇跡に近い。広告関係者は誰も信じないだろう。たくさんの人の時間や場所や物や気持ちをいただき、お借りし、お礼を言うべき人々に逆に「ありがとう」と温かい言葉をかけられる幸せな作品である。何億という予算をかけた大作の派手さはないけれど、注がれた愛の総量だったら負けないと胸を張れるし、それは観る人にも伝わるはずだと思う。だが、北海道先行公開5か所のうち4か所で予定日より早く上映が終了するとの知らせ。聞こえてくる評判に気を良くしていただけに、面食らう。わかってもらえるというのは甘えなのか、それとも時間が足りないだけなのか。信濃デッサン館日記の続きを読みながら考えてみる。


2002年02月24日(日)  PPK

■この週末の宿題は「風の絨毯シノプシス」と「ドラマの企画」。昨日頭の中で思い巡らせていたことを一気にワープロに打ちこんでいく。そこへ、一日中仕事に出ているものと思っていたダンナがひょっこり帰ってきてしまう。怪しい空想料理ならいくらでも思いつくが、冷蔵庫は空っぽである。気分転換も兼ねて、パスタ屋『こむぎこ』まで歩いて遅めのランチ。近所の人に愛されている小さなお店で、三時前という中途半端な時間にもかかわらず満席。パスタ二種類を分け合い、食後に「まだ食うか!」と呆れられつつバナナジュースに手を出す。隣のテーブルが頼んだ物が欲しくなる性格。ビアマグみたいな巨大なグラスになみなみと注がれたバナナジュースのてっぺんに、テニスボールみたいにデカいバニラアイスが乗っかっている。「ジュースを崩さずにどうやってアイスを食べようかねえ」と無邪気に格闘をはじめる。楽しい。おいしい。「これはバナナジュース王だ!」と宣言すると、「そんなに言うほど飲み比べてないくせに」とダンナは冷めている。そんなんで人生楽しいのか。■NHKのど自慢、今日は長野県佐久市から。トップバッター『春一番』を歌うお姉さん三人の背中に『P』『P』『K』の文字。会場にも『PPKの里』の横断幕。何の頭文字だろう。お姉さんたちは市役所職員で、お年寄りの健康を見守る保健関係の部署にいるらしい。「Pはパトロールか?」などと考えていたら、意表をついて「ピンピンコロリ」の略だった。ピンピン元気に長生きして、長患いしないでコロリ。こんな大胆な標語を掲げる佐久市は、高齢者の寝たきり率が全国平均の半分なんだとか。■パコダテ人のHP『パコダテ人ピロパ』に行ってみると、日曜なのに珍しくにぎわっていて、「パコダテ語を流行らせよう」などと盛り上がっている。パコパコ好調。


2002年02月23日(土)  連想ゲーム

■会社近くのデリが去年開いたレストラン『RISO』で友人たちと食事会。メンバーは、わたしの書いたものにビシッと的確な一言をくれるご意見番の元同僚アサミちゃんと公務員のダンナのトビちゃん。CMプロデューサーのヤマシタさんと、その大学時代のゼミ仲間でファッションメーカー勤務のタムラさん、フリーコピーライターのコウジモトさん。化粧品の広告を一緒に作ってた元同僚のユミちゃん。そして、うちのダンナというなんとなく接点のある8人。夕方6時半から4時間余り、よく食べてよく飲んでよくしゃべる。「ニュースステーションのビョークのインタビューは良かった」「ダンサーインザダークは感動した」「ビューティフルライフも良かった」「それを言うならライフイズビューティフルでしょ」「そういや北川江吏子が次の月9書くんだって」「キムタムとさんまでしょ」「今季のドラマ見てます?」「恋のチカラって仲畑広告が舞台なの?」「タグボートって聞いたけど」「公務員なら恋するトップレディーを見るべきですよ」「大河ドラマは?」「竜馬は出てこない?」「時代が違う!」「三谷さんの彦馬が行くは見た?」といった具合に、連想ゲーム状態で話が飛ぶ飛ぶ。レーザーで鼻を焼いてきたばかりのユミちゃんと先週からビービーいいだしたうちのダンナの花粉症コンビが鼻をかんでいる間に、スキー旅行の話から可愛いペンションの話になったかと思うと、松たかこ主演の嵐が丘の話題になる。こういう会話からわたしは刺激をもらい、ネタを拾っている。

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