初日 最新 目次 MAIL HOME


鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
MAIL
HOME

My追加

2003年08月23日(土)
夏の盛りのロボ疑惑

 えー。
 多分中学時代です。

∞・∞・∞・∞・∞


「うえーーーーーあーつーいぃぃぃぃぃぃーーーー」

 開け放した教室の窓から、生温い風がゆるゆると流れてくる。
 たまに、さわ・・・と梢が鳴り空気が一気に動くと、蝉時雨も止み、わずかな涼が体と心に潤いをもたらしてくれる。
 が、それもごく数瞬のこと。
 すぐにまた窓の外で混声大合唱の始まりである。
 シャワシャワジージーと腹が立つほど賑やかな窓の外をボーッと眺めつつ、でろでろと机の上にのびた山本は、斜め向こうの席に座った友人の涼しげな顔を半眼で見上げた。

「すずきクンさぁーーあせかいてないけどあつくないのぉーーーーー?」

 いつものように肺活量の限界に挑むがごとき口調、そして暑気あたりからか、語尾の間伸びしまくったこのうっとうしさときたら。
 真後ろから聞こえる声に精神的暑気あたりを感じ、佐藤はじっとりとにじんだ汗をぬぐうと深く息を吐き、自習プリントを終えて読み始めていた本から目を上げて振り返る。

「止めろっての。
 お前のその声聞いてる方が、暑っ苦しいぞ」
「えぇーーーーーーーっひどいなぁーそのいいかたぁぁぁぁぁーーっ」
「・・・・・・だから、止めろって」

 狭い机の上をゴロゴロと転がることで不満をアピールする山本に、またため息をつく。
「・・・で?
 鈴木が何だって?」
「うんあのさぁーすずきクンってぜーんぜん汗かいてるように見えないからさぁー。
 あつくないの?」

 ふと目を転じると、渦中の人物は目を閉じてなにやらブツブツと呟いている。
 何を呟いているかは知らないが、山本の指摘通り、ぱっと見たところでは額にも首筋にも汗一つ浮かんですらいない。さすがに、半袖シャツのボタンを一つ外してはいるものの、それ以外で暑さを感じているようには見うけられなかった。
「・・・・・・」
 佐藤からすればある程度見慣れているとはいえ、知らない人間が今の鈴木を見たら一種独特な印象を抱くだろう事は容易に想像できた。
「鈴木・・・おい、鈴木」
 わずかに強い口調で呼びかけられ、鈴木がようやく目を開ける。
「どうした、佐藤」
「どうしたじゃねぇよ。ていうか、何をブツブツ言ってるんだ?」
「ブツブツ」
「鈴木クンそれ読経マシンみたいだよーーあはははは」

 ・・・いや、それはちょっとシャレにならない。

 声質が良いくせに抑揚が乏しい鈴木の喋りは、一歩どころか半歩間違えると即座に『読経』状態に陥る。
(読経マシン・・・、上手い表現っていうか・・・うーん)
 黙り込んだ佐藤に比べて、山本はケラケラ笑い転げ・・・余力を消費したか再びでろ、と机の上にへたった。
 笑う山本を瞬いて眺めていた鈴木は、何を思ったかひとつ頷く。
「テスト範囲の教科書暗記をしていたんだが、読経マシンか。
 なるほどな。
 本当にやってみようか、読経マシンモード」
「シャレにならねぇから止めてくれ。ていうか、笑えねぇ冗談は止めろって言ってるだろ。
 ところで山本」
「んーーなにーーーー」
「こいつのシャツ、握ってみろよ」
 鈴木の悪い冗談に顔をしかめた佐藤は、後ろの半腐乱死体に目線で軽く隣を指してみせる。
「えーシャツーー?」

 いささか不満げな響きながらも、瞳を好奇心でキラキラさせつつ山本が斜め前に手を伸ばした。


 ギュ、べしゃ
「うわー?!!なにこれなにこれ!
 なんでこんなに湿っぽいのーーていうより絞れるよこれーー!おもしろーーい!


 面白いんかい。


 佐藤は遠い目をして、パタと本を閉じると本格的に椅子に座りなおし、友人たちに体を向けた。
 面白い連呼をしつつ笑い転げている山本に、苦笑交じりで説明してやる。
「こいつはさ、服の下だとか、そういう外から見えないところで汗かいてるんだよ。
 おかげで、シャツのたぐいだけがすぐにベシャベシャになっちまうって、おばさんが嘆いてたよな。
 洗濯物が増えるのが早いって」
「へーーーーーーーーーーーーーっ絞ってみて良い?」
「今か?」
「うん」
「よしやってみるか」
「止めろって!ここで脱がす気か!
 ていうか、鈴木も冗談に悪ノリするんじゃねぇよ!」
「あはははははは冗談だよーーー。でもその汗のかき方ってなんだかモデルさんや役者さんみたいだよねぇー」

 そう言ってカラカラ笑い転げていた山本が、ふと笑いを引っ込めた。

「でもさー暑さしのぐのにソレだけで足りるの?」
「そこはそれ。
 髪の毛一本一本から熱を放出して、体内の温度調整を・・・
(・・・・・・おい)

 あまりの内容に佐藤が突っ込みかけたところで、ピタリと会話が途切れ鈴木本人が首を傾げた。
「というのは、さすがに無理がありすぎるか」
「たりめぇだろうが」
「えーーーー冗談なんだーー鈴木クンならできるかもって思うんだけどーー」
「いや、さすがに無理だ」
「そりゃそうだろ、さすがにそれは」
髪の材質に問題があるからな
「・・・髪の毛がそういう材質だったら出来んのかお前」
「可能性の問題だ」
「・・・」

 シレッとそういうことを言うから・・・慣れていない人間に、冗談と本気の区別をつけてもらいにくいのではなかろうか。

 佐藤は思わず頭痛を覚える。
「・・・お前なぁ、そういう冗談を真顔で言うから、ロボだとかアンドロイドだとか色々言われるんだぞ」
「ほほう」
 いささかの疲労を覚える佐藤に対して、鈴木は面白がっている風でもある。その上、山本まで鈴木の「噂」を指折り挙げていく。実に楽しそうに。

「あーーそれ知ってるよーー、あとねー『マシノイド』とか『ターミネーター』とか『リーサルウェポン』とかー」
「最後のはちょっと意味が別じゃねぇか? まぁ、ある意味では間違いじゃねぇと思うけど」
「あとはー『ひとがた細工』とかー」
「・・・どう転んでも生身じゃねぇんだなお前」
「面白いな、そういう話は」
「・・・アホか」

(今年の夏もやっぱりこうかよ・・・)
 夏と冬は、たいていの場合『鈴木ロボ疑惑』が周囲を席巻する時期であり、今年の夏もそれは変わりない様子であった。



2003年08月22日(金)
ネタを色々と。

 サイトの日記でもチマチマと書いています。
 ええ。

 思い出したように。
 まるで闇討ちのように

 そういうのが、こういうの や こういうの だったり。

 そして、こういうネタ と こういうネタ から発展したのが、次の23日分にUPしたネタだったり。

 コレ、日記の方に書いてたんですよな。
 ミニネタのつもりで書いてたんですけど、なんでこんなに長くなってるんですか。
 更新一回分はあるぞ・・・。



2003年08月17日(日)
「学園祭」編(高二)  その11<暴走は終わらない>


「何が・・・何が私に足りないと言うのだ!!
 私は、ひとつ向こうの国の第一王子。
 富も権力も申し分ないはず。
 一人息子で競争相手もいないから、姫は間違いなく王妃になれる。
 そのうえ、母は既に亡くなっているから、下々で言うところの『嫁姑の関係』も心配はない。
 姫を花嫁として迎えるのに、申し分ないではないか!」

 ブブーッ

「まだ足りないか?!
 私自身もこの通り、容色に不足はないはず。
 なにしろ、ダンスの申込を断られた経験はな・・・あいや失敬。
 とにかく!
 王族として当然ながら教養もある。
 そしてなにより、姫よりも私の方が身長が高い!」


(待て!! なんでセリフがそっちに流れるんだ!!!!)
 と、約1名の無言の絶叫はさておき。
 なるほど。
 
『あのさぁ・・・イインチョーって白雪姫の王子に偏見持ってない?』
『そうね、否定はしないわ』

 あの時の会話も、もっともと頷ける内容である。
 高橋女史・・・彼女は一体「白雪姫」にどういうイメージを持っているのだろうか。奥が深い。


 舞台の上では王子のボルテージがますます加速し、正比例で白雪姫の不安がいや増していく。
 高橋王子はクッと唸り額を押さえると、さも悔しげに嘆いた。
「ああ・・・どうすれば私の気持ちは伝わるというのか。
 私の想いの証明は・・・!」
 胸を押さえてうつむく王子。
 しかし、すぐさまハッと顔を上げる。
「そうだ!
 私の愛で彼女に奇跡をもたらしてみせよう!
 彼女に命の目覚めを・・・私のくちづけで!」

 握りこぶしで宣言するやいなや王子は身を翻し、黄色い悲鳴が錯綜する中、白雪姫のそばにひざまずいた。
 まさかまさか・・・と青ざめながら目を閉じたままの『白雪姫』に影が落ちる。
 と。

「ーーーーーーーーーっ?!!」

 王子が離れた瞬間、ガバ!!と効果音が聞こえそうなほどの速さで白雪姫の体が跳ね起きた。
「あーーーーーー起きたねーあはははは。すんごい勢いーーーー」
 のんきに構えるナレーション山本。
 が、体育館で渦を巻く悲鳴にかき消され、誰の耳にも入っていないだろうことは確定的だった。

「な・・・・・!!!」
「ああ、姫!!」

 硬直から解けて苦情の絶叫が放たれる直前、機先を制して王子がすばやく動く。
 白雪姫をヒシと抱きしめる王子の姿に、観客席ではまたしても悲鳴がこだまするが、それにも構わず王子のテンションは高い。
 そして、白雪姫のテンションは低い。
 というより、暴発しかけた途端に急降下したと言った方が適切かもしれない。

「私の愛が天に通じたに違いない!
 さあ、姫!
 私と永遠の愛の誓いを!!」

(いや・・・・・・・あんた、誰
 呆然としたまま小さく呟く佐藤。
 舞台はそこでいったん暗転となった。


−−−−−−−−−−


「えーーーー、こうして白雪姫はめでたく仮死状態から回復し、見事王子様に拉致られーじゃない、攫われーでもない。えーー保護されて、あれよあれよという間に結婚式の日取りまで決まってしまいました。
 段取りいいんだもんなー王子サマ。
 ていうか、スキモノのちゃっかりものっていうかねー」

 ナレーションに後を任せて、劇は場面が変わる。
 暗幕を引かれた体育館の薄暗い舞台の上では、半ば放心状態の白雪姫が簡易寝床に乗ったままで舞台袖に片付けられていくところであった。
 びしばしアドリブだらけの進展ではあるが、お約束のシーンを終えてセット変更のために舞台が暗転したのは、一応段取り通りではある。
 が、それ以外は一体どうしたことか、と佐藤は聞きたかった。
(・・・一体、俺が何したって言うんだ)

「何をボーッとしてるの佐藤君。
 早く動いてくれないと、対決シーンに間に合わないわ」

 先程のテンションの高さはどこへやら、ほぼ普段通りの冷静な声を耳にして、佐藤はようやく我に返る。
「た・・・たーかーはーし〜〜〜〜〜っっっ」
「何?」
「お前なぁっ、こういう段取りならそう言っといてくれねぇと、こっちにも心の準備ってやつが・・・!」
 最大限に声を殺しつつのやりとりだが、それだけの理由にとどまらず佐藤の声は低い。
 それに対して、女史はどこまでも冷静だった。
「一応、生は避けたんだけど、そっちの方が良かったってことかしら。
 私は別に気にしないけど」

 いや、あなたが気にしなくても、あなたのファンは別だと思うんですが。

 劇の後のことを考えて、佐藤の顔が引きつる。
「よせ止めろって!
 俺はまだ死にたくねぇぞ!」
「・・・さりげなく失礼な気がするんだけど、まぁいいわ」
 ふと息を吐き足元に目を落とした女史が、何かを拾い上げる。
 そこで初めて彼女の口元に笑みが浮かんだ。


「つかみは上々」


 キスシーンで使用した小さな薄いビニールを手に、次の準備に入るため意気揚々と下がっていく彼女の背を見送り、疲れたようにセットの寝台から降りる佐藤の耳に、相変わらずのんきなナレーションが聞こえた。

「さて、その頃お妃サマは何してたんでしょうねー。
 現場を呼んで見ましょうかーお妃サマーーーー」

「・・・どっかのワイドショーかよおい」
 反射的な突っ込みの響きに、力はなかった。


 <・・・>