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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年09月26日(木)
『いつもと違う』(笑)同窓会

 時期は高1の冬です。
 えー。
 今日はいつもと違ったテイスト。
 違いすぎるので、読みたくない人は読まないほうが良いかも。
 というか、リク?ですし(笑)

−−−−−−−−−−

 田中安田市立 田中安田第三中学校、三年一組の第一回目同窓会が開かれたのは、中学を卒業して九ヵ月後 ―― 卒業と同年の年末、という実に気の早い話であった。

「お前どうするんだ?」
「ああ、その日はどうしても外せない用件があるからな。後から行く」
「へぇ・・・そうか。じゃ先に行っとくぞ」
「そうしてくれ」

 という会話を交わしたのが前日のこと。
 用件を済ませ、元級友の親が経営する喫茶店へと向かった鈴木が目にしたのは ――

「おそいぞ、すずきー!」
「・・・・・・」

 佐藤を取り囲み、なぜかきゃあきゃあと盛り上がっている女子たちと、上機嫌ですっかりできあがっている佐藤であった。
 幼馴染の前には、空になったワンカップが三本。そして今もその手に一本。
「・・・」
 どうやら、誰かがアルコールを持ち込んだらしい。なにをしている未成年ども。
 しかも、

「なぜフリル・・・」

 びらびらのブラウスとスカートを装備させられている佐藤少年。そしてたった今、リボンが追加装備された模様。
 本人素面なら、このような格好に仕立てさせるなど到底許すものではない。

「あ、鈴木君ー! 見て見て、似合うでしょー!」
 という女子からの問いかけに、
「―― そうだな」
 としか言いようがないというのは、どうしたものか。

「あははははは、すずきへんなかおー!」
 ピンクのリボンで髪を結われたまま、大笑いして鈴木を指差す佐藤。
 いつもの突っ込み屋?な姿は影も形もない。
「佐藤、お前酔ってるな」
「そうかー? あーうま・・・しちゅーおかわりー」
 ニコニコと空になった皿を差し出す佐藤。
 それこそ、何かのタガが外れたように笑顔全開である。
 鈴木はこっそり息を吐いて、机の上に並んだ空のカップをもう一度確認する。
 空は三本。
 そして、手の中にはカップに残り三分の一。
 長年の付き合いから佐藤の酒量を把握している鈴木 ―― だからお前ら未成年じゃ・・・―― は、シチュー皿を抱え込み黙々とスプーンを動かす幼馴染へ控え目に声をかける。
「佐藤、お前そろそろ ―― 眠くないか?」
「・・・しちゅー、ぜんぶたべたらねる」
「いや、ここでは寝るなよ?」
「・・・うごくのめんどくさい」
「・・・・・・・・・・・連れて帰ってやるから」
「ん、わかった」
 天井を仰いだ末の鈴木に、スプーンをくわえたままで佐藤がコックリ頷いた。
 すっかり退行している佐藤に遭遇するのは、年に一回程度とはいえ ―― 毎度手間がかかる。大弱りするようなだだをこねないだけ、助かるかもしれない。
 慣れもあるが、いつも色々巻き込んでしまう・・・らしいことへの礼もある。
 一応。
 ・・・よくわからないのだが。

 そうして、ほとんど意識のない佐藤を背負う鈴木に、元クラスメートの一人がしみじみと頷いた。
「お前らって、卒業しても変わんねぇよな。相変わらず名物コンビだぜ」
「そうか?」
「ああ。お前らの面倒って、やっぱお前ら同士にしか見れねぇよな」
「・・・俺たちはそこまで問題児か?」
「いや、問題児じゃねぇよ。ほらあれだ・・・一歩違う世界の人間ってやつだな」
「・・・・・・」
「おっ、気をつけて帰れよ」
「ああ、またな」
 軽く手を上げて店を出て行く二人を見送った少年が、ふと呟く。

「で・・・鈴木(あいつ)何しに来たんだ? ていうか、そういや佐藤あのまま帰ったな・・・まいいか」



2002年09月20日(金)
『他力本願』なのです(笑)

えーとですね。
今現在、信井の創作活動のメイン「ウィルトゥース・クロニクル」の新作にかかっております。
「鈴木君と佐藤君」は、あくまでも合間を見て書くモノ扱いです。
・・・最近、一番集客力がありそうだ、というのはさておき(笑)

ま、あまり放りっぱなしというのもなんなので。
ここはひとつ・・・That's『他力本願』!(笑)

ということで、皆様おなじみ「いきなり次回予告」さん利用です。
どうなるやら。

−−−−−−−−−−

 佐藤「臨兵闘者皆陣列在前!」
 取り壊し前のアパートで怪現象がという依頼を受け調査に出向いた佐藤。
 そこに憑いていた地縛霊・山本は、これまでにない強い怨念を持っていた!
 佐藤に乗り移った山本が語る鈴木の隠された悪事とは!?
 次回「除霊ディティクティブ 佐藤」、
   「恨みつらみの山本」に…「怨霊、退散!」


・・・・・・佐藤君、霊能者でしたか?!(笑)
鈴木の隠された悪事って、考えるだけで膝から力が抜けそうです。
違う意味でロクなことしてなさそうだ・・・。

−−−−−−−−−−

 恋人の復讐に生きる男佐藤……
 エイリアンの死体から再生された巨人鈴木……
 鈴木と唯一対話出来る少女山本……
 彼らの見る未来は………
 アルジェント佐藤リリース開始

エ・・・?!
鈴木の正体って、そうだったのか!(笑)<もちろん冗談です

−−−−−−−−−−

 佐藤に振られた鈴木は毎晩泣き続けていた。
 そんなある日、枕から新種のキノコ山本が生えてきて・・・?
 部屋の中のモノを取り込み、日に日に成長を続ける山本。
 ついに鈴木にも危険が!
 次回『合法ドラッグ山本!?幻覚が鈴木を襲う!?』

鈴木、ついに佐藤に見捨てられましたか(笑)
ていうか、山本・・・(遠い目)

−−−−−−−−−−

 「許してお母ちゃあんっおねしょしたオレが悪かったよォォ!」
 ぺこぺこと土下座しながら謝り続ける勇者山本。
 「いやぁぁぁっ!アフロが・・・っアフロの大群が来るゥ!!」
 頭を抱えながら泣き叫ぶ聖戦士佐藤。
 二人に術をかけた魔術師鈴木は嘲笑を浮かべた。
 次回「きゅうり鈴木襲来!!」
 きゅうりの着ぐるみを着た鈴木のニヒルな笑みの真意やいかに!?

・・・・・・。
『きゅうりの着ぐるみを着た』『魔術師』鈴木・・・。
妙に説得力あるのはなぜ?

−−−−−−−−−−

 やあ!僕は山本。アイドルグループ、ミラクル・ボイスのメンバーさ。
 けど僕たちの本当の正体は、正義の味方ボイスレンジャー!!
 佐藤と鈴木と一緒に悪いやつらをこらしめてやるぜ。
 新番組「ボイスレンジャー」僕らの『声』が悪を裁く!!

・・・違和感なさ過ぎ(笑)
さて、佐藤君一言どうぞ!
佐藤「俺を巻き込むんじゃねぇっつったろーが!」



今回はこのあたりで。
・・・ってまたやる気?(笑)
ちなみに「いきなり次回予告」さんは、信井のリンクページから行けます。
興味ある方はどうぞ〜。



2002年09月16日(月)
= 設定 改訂版? =

毎度、信井です。

「適当」「行き当たってバッタリ」がテーマの創作帳・・・なのですが。
なにやら、随分と気に入っていただけた気配がありますね(笑)
ありがとうございます。

ですが。
「鈴木君のシュールな一日」
(もしくは「佐藤君とシュールな友達」?!)
・・・これの、信井に与える影響は大したものでして(笑)

これ書こうとすると、脳内から「VC」が吹っ飛びます。

いや、冗談抜きに。
ぼちぼち新作を書かねば、なのですが・・・のっとられるんですよね。
くらくら。

ということで今回は、当初思いついたままに書き連ねていたモノ以降に変化した部分、そして追加?されたコトについて。



◎鈴木君
 身長:180くらい?
 両親とも元々は田中安田市の出身。市外で結婚し、後に田中安田市内にマンション購入。鈴木君は幼少期・・・おそらく幼稚園入園直前に引っ越してきた。
 ・・・のではないかと推察(笑)

◎佐藤君
 身長:167.7。
 引っ越してきた鈴木と知り合い、それ以降・・・切っても切れない関係。
 『天然マイペース』でなければ鈴木と付き合い続けることなど出来ないだろう、という指摘があり(笑)、それじゃあそうなんだろうということで人物像確定。
 『突っ込み屋さん』と評判が高いですね(笑)
 ・・・最初は傍観に徹するはずだったのに、思い切り『巻き込まれ型』になってるし。いつのまにか『方向音痴』のスキルが付いてるし。
 おまけに、脇役筆頭からW主人公扱いになってるし!(驚)
 熱烈なファンがいるということは、彼にとっての幸か不幸か。
 ちなみに、なぜ彼だけ身長の値が明確(しかも小数点以下まで)なのか、理由は信井に個人的に訊いてください。ここで書くには・・・(笑)

◎山本君
 身長:170前半?
 いつのまにやら弟がいる山本君、バイトを続けているのは・・・はて?<オイ
 どこかしらの「なり茶」で『人助けみたいで楽しい』などと言っていたので、趣味の範疇かもしれません。
 とりあえず、まともなバイトは数えるにも足りないほど。
 一度、ある後輩に「鈴木君」を読み聞かせ(笑)したところ、彼のセリフで息が上がったのはある意味予想通り。

◎小林君
 予想外キャラ。
 ある茶室で「小林は(でないの)?」とリクエスト(?!)があり、突然誕生。
 ちなみに大方の予想通り、正体は『地球人外』(笑)
 それでも、時折主人公より常識的、もしくは人類らしく見えるあたり・・・鈴木の人間人類としての存在意義がピンチ。
 というか、ヤツにあるのかそんなもの(笑)

◎高橋女史
 予想通りキャラ(笑)
 信井がメインで書いている(はずの)「VC」シリーズの某お姉さんキャラと似ていることについては、
『非常識キャラの中で叱り役ともなれば、この程度のこと仕方あんめぇ』
 と店長からのコメント。ていうか、店長あんた何者。

◎学校
 変り種教師陣を放し飼いしてるは、卒業制作とはいえ『グ○コ』もどきを校内に放置しているわ、小林が転入しても何の問題はないわ・・・。
 以上の点からして、私立高校と推察。
 男子の制服は学ラン。
 というよりも、ヤツらにブレザー・ネクタイのイメージがなく(笑)

◎遠藤先輩
 いまだ未登場(笑)
 佐藤の先輩。
 いや、正確には鈴木の先輩でもあるんですが。
 家が近いらしいので小学校からの。
 ちなみに道場の息子。の予定。



今のところは、こういう感じで。
今後もまだまだ変わったり増えたりするでしょうが、そのときはそのときということで(笑)



2002年09月11日(水)
昔のこと そのに

『おのれ、悪のニクキュウ星人め! もう逃げられないぞ、観念しろ!』
『がはははは・・・! それはこっちのセリフ。
 カニサラダン、今日こそキサマとの決着をつけてやるわ』
 怪獣の高笑いに、対峙する影はくっと奥歯をかみしめる。
『いくぞ! とぉ!』
 人間のものとしてはいびつなシルエットが宙を飛んだ。
 ボコンという音を立てて顔面に命中した蹴りによろめき、怪獣は「ぐぅ・・・!」と唸った。
『やるな・・・だが!』
 カッと口を開き咆哮する。

  GAOOOOOO・・・!

 衝撃波がカニサラダンを襲った!
『しまった!』
 左腕が半ばから外れ、コトンと足下に落ちる。
 深刻なダメージを負いながら、彼は諦めなかった。
『くっ、まだだ・・・・・・まだ戦える!
 私は決して悪に屈しない! この命に代えても!』
 キッと目を上げ、最後の力を振り絞る。
『正義の力思い知れ! くらえ! カニサラダン、スーパーファイナルアタック!
 叫ぶと同時に、残った右腕を高く掲げ怪獣に突きつけた。

 ――BEEEEEM!!

 腕の先から、光線が迸る!
『ぐわあぁぁぁぁぁぁ・・・!! オノレ・・・・・』
 断末魔を残し、怪獣は炎上した。
『はぁはぁ…ふっ、よかった。正義は・・・守られ、た――』
 炎上を見届けたカニサラダンもその言葉が最後だった。
 片腕を失った身体は、ゴトンと音を立てて倒れこみ、それきりピクリとも動かなかった。

 そして残ったものは――。



「センセー、佐藤くんの貯金箱が燃えちゃいましたー」
「うわあぁぁぁ! おれの自由研究がー!!」
 謎の炎上を遂げた佐藤(小五)の夏休みの宿題――牛乳パックで作った怪獣型貯金箱と、同じく謎の損傷が見られる鈴木の作品、フィルムケースなどでかたどられた人形「鈴木二号」の姿だった。



2002年09月09日(月)
山本クン、バイト中

 ――カランカラーン

「いらっしゃいま・・・あー鈴木クンと佐藤クンだー!」
「よう、労働中だな」
「・・・客を指差すんじゃねぇ」
 土曜日の午後。
 たまたま予定の空いた鈴木と佐藤は、そういえば近くだっけ、と二人連れ立って
山本のバイト先に来ていた。
 いつもは得体の知れないバイトが多い山本だが、今回は喫茶店のウェイターである。
「珍しく普通の仕事だな」
「えーっ鈴木クンなにそれー珍しくってなんだよーっ!ボクいっつも普通の仕事してるじゃんかー」
「宇宙人相手のツアコンは、普通とは言わねぇんだ」
「あーっそれ差別なんだーっ」
 ぶいぶい言いながらも二人を席に案内し、水を運ぶ。
 コップを運ぶところを見る限りでは、なかなか手馴れている様子だ。無駄にバイトを重ねているわけではないということか。
「あ、別のテーブルで呼んでるなー。悪いけどメニューそっちにあるから見ててくれるー?また来るしー」
「おう、客は待たせるなよ」
「ふーんだ」
 笑いながら山本を見送った佐藤は、一足先にメニューを開いていた鈴木の「むぅ」という唸り声にひとつ瞬いた。
「・・・どしたんだ」
「いや・・・見るか?」
「? ああ」
 メニューを受け取り、ペラリとめくった佐藤は――思わず突っ伏す。
「お待たせー二人ともオーダー決まったー?」
「・・・・・・」
「あれー佐藤クンどーしたの」
「佐藤、何をしているんだ」
「・・・どうしたもこうしたもねぇ」
 佐藤が机の上に開いたメニューには――



・軽食
『フレンチトースト パワーボム風味』
『レモンパスタのハラペーニョソース』
『メロンとブルーチーズサンドの三色盛』

・ドリンク&甘味
『アイスコーヒー(レインボー・フラワー)』
『アイスティ(黒・白・煉瓦)』
『抹茶クリームソーダのカラメルソース』
『黒蜜豆と練乳のトロピカル風』
  etc・・・



「・・・ゲテモノ屋かここは」
「しっつれいなこと言うんだもんなー佐藤クン」
「山本」
「なにー鈴木クン」
「俺、マンドラゴラ風フレンチサラダ」
「食う気かお前は!」



2002年09月07日(土)
二年五組

「なぁ、さっき教生が泣いて逃げてったけど、お前今度はなにやらかしたんだ?」

 廊下ですれ違った教育実習生の様子に、佐藤は顔をしかめて教室に戻ってきた。
「・・・開口一番、俺に尋ねるか?」
「お前以外に、誰が何やるってんだ」
 冷静な反応に、周囲の級友たちが揃ってコックリと頷く。
「鈴木クンいわれちゃったねアハハハハハ」
「お前が言うなお前が」
「えーっなんでだよーっ!」
 ぶーたれる山本をサクサク無視して、
「で?」
 佐藤は改めて問を重ねた。
「ああああ、あの・・・」
「なんだ小林」
「と、特に悪いことしたってわけじゃないと、僕は思うんだけど・・・」
「何言ってるのよ」
 とりなそうとした小林に、高橋女史が呆れて口を挟む。
「あんなのに遭遇したら、免疫ない普通のヒトって逃げるものよ?」
「そ、そうかなぁ・・・」

「普通はね、標本の課題として提出された植物って閲覧者を攻撃したりしないものなの」

 柳眉を逆立て委員長が指し示した方向には――標本とされながらもなお、威嚇のためか、近くの指にかぶりつこうとする意気盛んな謎の植物があった。
「・・・なるほど。課題が近くの植物、ということだったからな。アレは下校途中に発見して・・・先生にみてもらえれば、元がどういう植物だったかわかるかと思ったんだが」

「んな無茶な要求、教生にするんじゃねぇ」

 佐藤から飛んだ鋭い指摘に、周囲も再びコックリと大きく頷いた。
「特にあのセンセ市外のヒトみたいだもんねー仕方ないかもしれないけどさー」
「やめてよ、それ! なんだか、田中安田市の市民って皆揃って変人みたいじゃないの!」
 なかなかに切実さのこもったセリフである。
 高橋女史の絶望的な叫びが響くそんな時、ガラッと扉が開いて新たな人物が姿を見せた。
「鈴木ぃ〜、お前また面白いもの拾ってきたんだって〜?♪」
「・・・げ。また出た」
 マッドと噂の生物部顧問である。
 生物部そのものはまともなのだが、この顧問と一部の部員が『裏生物部』を組織しているなどと、校内でまことしやかな噂が囁かれていた。
 ・・・いや、事実ではなかろうか。
「お、小林いたのかぁ! オレが熱烈に生物部に誘ってるのに、お前ちっとも来てくれないんだもんなぁ。センセーは悲しいぞ!」
「ああああ、あの、いえ僕は・・・」
「ちょっと先生?! 小林君が怯えてるじゃないですか!」
 教室の向こうで、委員長と生物部顧問のバトルが始まる。
 こちら側では、件の標本をしげしげと眺めながら、
「よく見たら愛嬌あると思わないか?」
 自分に同意を求める幼馴染みがいる。
「俺に訊くんじゃねぇ」
 一言で返しておいて、佐藤は遠い目で窓の外を眺めた。
 視線の先では、校庭で化学の教師が生徒を借り出してロケット打ち上げの実験に勤しんでいる。
「・・・なんでこの学校、変人ばっかなんだ」
 佐藤の呟きが、窓の表面を空しく滑った。
「あっれー佐藤君なんだかアンニュイだね」
「違う」
「わかったー!フトコロが寂しいんだーでも僕は今貸してあげる余裕ないからね」
「違うっつってるだろーが! お前も人の話を聞け!」



2002年09月05日(木)
昔のこと

「うわあぁぁん! すずきのバカヤロー! どっかいっちゃえー!!」

 泣きながら走り去る友人――佐藤少年を見送る鈴木少年、この時小学二年生。
「・・・いったい、どうしたんだ」
 ぼんやりと佇む少年の手には、ギチギチと凶悪な鳴き声をあげながらワシャワシャ暴れているカブトムシらしき甲虫が一匹。
 下校中の鈴木が見つけて捕まえ「めずらしいだろう」と佐藤に見せた。
 ・・・までは良かった(?)が。

 佐藤が覗き込んだその甲虫には――足が八本と鋭く小さな歯が生えていた。

 そのあまりの恐怖に泣きながら逃げた友人の心境を知ってか知らずか、鈴木少年、
「いえにかえったら、本でシラベてみよう」
 捕まえた虫を、あろうことか上着にくるんで持ち帰る。
 帰宅後その事実を忘れ、放置していた上着を広げた母親に、
「服が汚れるでしょう?!」
 と、雷を落とされることになるのはまた別の話であった。



2002年09月04日(水)
お見舞い  そのに

 ピンポーン

 ―――――――――――――
 ―――――――――――――
 ――――――――――カチャ

は〜〜いぃ〜〜〜・・・
「・・・大丈夫か、おい」

 相当待たされた挙句インターホンの向こうから聞こえてきた古い扉が軋む音・・・否、小林(びょうにん)の死にそうな声に、佐藤は顔をしかめた。
え・・・あぁ〜〜さとうくん、きてくれたんだぁ〜〜、っゴホゴホ
「あー、いいから喋るな。センセイに書類預かってきたんだ。あと見舞いもな。勝手に上がるから、カギだけ開けたらあとは寝てろ」
あ〜〜そうなんだ〜〜・・・ありが・・・ゴフッ
「だから寝てろって」
うん・・・そ〜するね・・・

 カチャリ

 小林との対話が終ると同時に、建物内への入り口のガラスが「ガーッ」と開く。
 未だに「西向本島」熱を発症している連れ二人を振り返り、佐藤は呆れて溜め息をついた。
「おい、いつまでやってんだ。行くぞ」
「ああ、すまない」
「えーっインタホン終ってるー! 僕やって見たかったのになー」
「おまえらが妙な話に没頭してるからだろ」
「妙ってなんだよもーっ。佐藤クンも見れば判るの――」
絶対にいやだね。ていうか俺を巻き込みたがるんじゃねぇ


∞・∞・∞・∞・∞


「――ということだから、預かってきたこの書類、来週には提出だそうだ」
うん・・・ありがとう
 ベットに横になったまま、小林は力なく頷く。
「小林クン風邪ー?」
うん・・・たちのわるいカゼみたいでね。さっきも・・・うっかりゆだんしてまたうたいだしそ・・・ごほごほ
「・・・歌?」
ううん。なんでもないよ、さとうくん
「あ、そう」
 相手が否定したのを良いことに、佐藤もそれ以上の追求を避ける。
「おっと、そういやコレ冷やした方がいいんだっけ。冷蔵庫開けてもいいか?」
・・・・・・れいぞうこ?
「なんかマズイのか?」
そ・・・そんなことはないよ、うん。ありがとう
 微妙な間が気にはなるが――まぁいいだろう。
 佐藤は、ゼリーだのスポーツ飲料だのの入った買い物袋を提げて、小さいキッチンのすみに置いてある冷蔵庫へと向かう。

 チャ、バタ

「・・・・・・」
 扉を開けるなり、思わず閉めた佐藤。
 取っ手に手をかけたまま一つ深呼吸をして――もう一度開ける。
「・・・気のせいだな。うん」
 そう、きっと気のせいだ。
 開けた途端、得体の知れない何かと目が合ってしまったのは。
 一見、普通の家庭と変わらない冷蔵庫の中身を眺めながらそう判断を下し、不可思議な記憶は忘却の彼方へと流し去る。
 ガサガサと袋の中身を取り出し、適当に片付けていく。
 ――視界の隅でチラチラと控え目に存在を主張するものは無視しながら。
 と、後ろから覗き込んできた鈴木が手を伸ばした。
 ヒョイとそれを取り出す。
「なぁ小林。なんでインスタントコーヒーの瓶がこんなところにあるんだ?」
え・・・なにが?
「氷点下以下になるところでは冷蔵庫の中の方が暖かいから、凍り付き防止に色々しまうのは聞いたことあるが・・・今は氷点下とは縁がないしな」
そ・・・・・・そうなんだ。きっといままでのクセだとおもうよ、うん
「そうか。おや、通帳がこんなところに。なにかと思ったらアレは貯金箱か」
「へーっ小林クン貯金箱とか冷蔵庫にしまうんだー。でもそれってドロボウ避けにいいかもしれないねーこんなところにあるなんて思わないからさー」
そ・・・そうなんだよ、うん
「なるほど、確かに一理あるな」
「・・・そりゃ、誰もそんなこと思わねぇだろうなぁ」
 和気あいあいと語り合う三人を背に、そんなにすんなりと納得しないで欲しいかもしれない、と佐藤はどこか遠い目で、ポテトチップスの袋の陰からこちらを窺うピンク色の陶器のブタを眺めて溜め息をついた。



2002年09月03日(火)
お見舞い  そのいち

「えーと・・・。あそこに番地表示が出てるな」
「おっ、間違いないな。小林ってこのあたりに住んでんのか。へぇーっ」

 不案内な土地を連れ立って歩いていた鈴木と佐藤は、佐藤言うところの「野生の勘」――別名、方向音痴ともいう――を佐藤がいかんなく発揮したことから、ついうっかりと遭難の一歩手前であったのだが・・・どうやら見事に危機を脱したらしい。
 電信柱の番地を確認して一息ついた佐藤は、後ろからただついて歩いていただけの級友に視線を投げた。
「で、なんで山本(おまえ)まで一緒に来るんだ? 方向が全然違うだろ」
「いいじゃんかべつにー」
「おまえバイトはどうしたんだよ」
「今日は休みなのさー、たまには休養とらないと人間働き詰めじゃあ大事な時に力が出ないって言うからさー先輩が」
「先輩?」
「バイトの先輩だよ。イロイロ物知りでさーこの間はヒロエモンの攻略法教えてもらったんだよね」
「・・・何だそのヒロエモンって」
「坂田さんチの番犬なんだけどさー配達のたんびに自転車のタイヤに噛み付いてくるもんだからパンクばっかりするんだよ。いやんなっちゃうよホントに」
「番犬ねぇ。大きい犬ともなりゃ撃退もオオゴトだな」
「ううん、スピッツなんだー」
 勇猛果敢だな、と佐藤が呟いたその時、黙々と歩いていた鈴木がふと足を止めた。
「どうやら、ここのようだな」
 メモの住所と目の前の建物の名称を確認して頷く。
「へぇ・・・ワンルームか」
「しかもオートロックだよスゴイねぇ」
 ほぇぇと羨ましげな声を上げる山本は、さっさとロビーに入って行ってしまう。
「どんなトコロなんだろうなぁうわースッゴク楽しみだーっ」
「・・・おまえ、何しに来たんだよ」
「えーっ、だってビックリドッキリのお宅訪問なんじゃないの?」
「違う!」
 短く言い切り、ずいっと手に提げた買い物袋を鼻先に突きつける。
「見舞いだ見舞い!」
「予告なしっていう意味じゃどっちも変わらないよー」
「全然違うだろうが」
 インターホンを押す前にどっちもどっちの論戦を展開しはじめた同伴者を眺め、鈴木は手の中の封筒に目を落とした。
「いや・・・俺は、コレだけポストに入れてさっさと帰るつもりだったんだけどな」
 担任から預かった書類を手にしてなされた発言は、あっけなく無視されてしまったようだ。
 鈴木は重ねて呟く。

「ビデオ予約してきたか心配なんだがな。今日放映の『哀愁の油壷が奇跡を招く』の回は本放送で録りそこねてるし・・・」

 先程よりもさらに小さい声だった。
 しかし、その呟きが劇的な効果をもたらした。
 唐突に訪れた静寂に鈴木が目を上げると――二人分の視線が痛かった。
「どうした」
「おまえ・・・なにソレ」
 しばし絶句の後、ようやく口を開いた佐藤に、鈴木は不思議そうな面持ちで瞬きを繰り返した。
「『それゆけ、名探偵 西向本島(にしむかいほんじま)サトル』っていう、今再放送してるドラマなんだが・・・知らないか?」
 聞いたこともない番組名に、知るわけないだろと言いかける佐藤。
 しかし、その佐藤を押しのけたのは、瞳を輝かせている山本であった。

「そうじゃないかと思ったんだけどやっぱりーっっ!!」

「・・・は?」
 ――なんですと?
「鈴木君も見てるんだー面白いよねアレ! 僕おととい分の話が大好きなんだよー! ゲストキャラが面白かったよね、話の途中で裏返るところとか」
「そうだな、あの回はヒロインの背面落しが決め手だったな」
「あれが事件解決のカギになるんだよねー。あのトリックには僕ビックリでさー!」

 どんなゲストキャラで、どういうドラマなんだ。しかもトリックって何。

 そんなツッコミを入れる余裕すら、今の佐藤には残っていない。
 ただただ、早く家に帰って常識の世界に戻りたい・・・と、ひたすらそれだけを祈りつつ、泣きそうになりながら無視されっぱなしのインターホンに手を伸ばす佐藤少年であった。



2002年09月02日(月)
誤植。

『なにしろ、キミはがんものカタマリだからね』

「・・・はぁ?」
 鈴木から借りた文庫本を読んでいた佐藤は、世界的に有名な名探偵のセリフに目を疑った。
 黒い魔犬の伝説が息づく荒れ野で、探偵と親友の医師とが感動の(?)再会を果たしたシーンである・・・のだが。
「がんも?」
「ああ、誤植だろう。その出版社の同じ版は、どれをみてもそこの部分が同じようになっているぞ」
 疑いの眼差しを向けられた鈴木は、誤解だと言わんばかりの表情で顔をしかめる。
「ああ、そうなのか。悪い悪い。いや、いつものコトがあるからな」
「・・・だからといって、いつものことも俺が仕掛けているわけではないんだぞ」
 鈴木のささやかな苦情を聞き流しながら、
「多分、がんこの間違いだろうな。うん」
 佐藤はサクサク続きを読み進める。
「・・・なんなんだよ」
 が、じーっと自分に注がれ続ける視線に、うっとうしげに目を上げた。
「面白いことを教えてやろ――」
「いらねぇ」
 にべもなく答えを返し、文面に再び目を落とす。
 しかし、鈴木はめげていない。
「その本を一回閉じてだな」
「いらねぇって言ったろうが――人が読んでるものを勝手に閉じるな」
「で、もう一度開くんだ」
「人の話を聞け!」
 お前はいつも勝手に・・・と文句を言ってみるものの、通じるわけはないと経験から把握してはいる。
 把握はしているが、面白いことではない。
「・・・で?」
 諦めたように溜め息をつき、面倒くさそうに鈴木に視線を投げる。
「まぁ読んでみろ」
 鈴木の指し示す通り、文章に目を走らせる。
「・・・・・・はぁぁ?」

『なにより、キミはがんものカマタリだからね』

「・・・おい?」
「もう一度閉じて、開く」

『なにやら、キブンはがんものカマありだからね』

「面白いだろう。読むたびに内容が変わるんだ。この本だけのオプションだ」
 誇らしげな鈴木。
 佐藤はガックリ肩を落とす。
「お前・・・マトモな本は持ってねぇのか。
 ていうか、俺、読んでる途中だったんだぞ?! ホラみろ、もう話の筋がわかんねぇじゃねぇか!!」



2002年09月01日(日)
口やかましい。

「なぁ、ちょっと辞書貸してくれ」
「・・・辞書?」

 自習中、佐藤は隣の鈴木に左手を差し出す。
「ああ、ちょっとココんとこがわかんねぇんだよ」
 プリント中のある問題を示し、再び鈴木の机の上を指差した。
「机の上のそれだよ。国語辞典。使ってないなら貸してくれてもいいだろ」
「ああ、これか。・・・別にいいけどな」
 カバーごと辞書を渡し、鈴木は肩を竦める。
「そこまで真面目にやってるのか」
「一通りざっと埋めておくんだよ。そしたら、騒ぎさえ起こさなきゃ後は遊んでても評価は付くだろ」
「詐欺師だな」
「せめて知能犯と言え。人聞きの悪い」
 軽口を叩きあいながら、佐藤は辞書を開こうとカバーを外す。
 その時だった――。

『愚民どもめ!』

「うっわあぁぁあっ!」
 突然、手元から不穏な発言が飛び出した。
 佐藤は、思わず手に持っていたソレを放り出す。

 ドサッ!
『何をするか! ――愚民どもめ!』

「ななな、一体なにが・・・」
 床に落ちてもなお不穏な発言を繰り返すソレを指差し、佐藤は本来の持ち主に引きつった顔を向ける。
「ああ。最近の口癖っていうか、流行りらしいんだ。
 その『愚民どもめ!』・・・ってやつ」
「流行りってそういう問題か?!」
 問題点を逸脱した会話が展開されているその間も、問題の品は床の上に落ちたまま、
『無礼千万であるぞ! ――愚民どもめ!』
『見世物ではないぞ! ――愚民どもめ!』
 静まり返った教室の中で、ただひとり(?)口うるさく苦情を並べ立てている。
 しかも――すこぶる偉そうに。
 壊れたカセットデッキのように、必ず語尾に『愚民どもめ!』と付け加える彼(?)は、その名も「明解 国語辞典 第三版」
 使い古されてしわのよった表紙が渋い個性を表現している、鈴木愛用の国語辞典である。
「使うには問題ないぞ。ちょっとうるさいけど」
「だから、そういう問題か?! ・・・って、小林なにそこで平謝りしてんだ」
「え、え? だだだ、だってすごく偉そうなんだけど。偉い辞典(ヒト)じゃないの・・・?」
「勝手に偉そうにしてやがるだけだ、気にすんな」
「そ、そうなの・・・?」
「そうとも小林、気にすることはない。今日はたまたま偉そうなだけだから」
 ・・・たまたま?
「もしかして・・・定期的に変わってんのか?」
「ああ。今回は『愚民どもめ!』が決まり文句だが、前回は『な〜にマジメにやってんだよーっ♪』だったし、その前は『どうか、死なせて下さい・・・』だったな――」
 あれはうっとおしかった。
 腕を組んでしみじみと邂逅する鈴木。
「しかも、ひとつひとつのセリフに表現力もある。真に迫っているだろう」
「ていうか・・・元々辞書は喋ったりしねぇ」
「そうだな。確かに昔は普通の辞書だったんだが・・・図書館で通りすがりの誰かに貸してから際立った個性が――」
「それは個性とは言わねぇ」
「それもそうか。で――」
 鈴木は、そう言いながら未だに喋り倒している床の辞書を拾い上げ、バシバシと軽く叩く。
 と、束の間静寂が戻った。
「さぁ、今のうちだ。何を調べたいんだ?」
「・・・いい。そこんとこは適当に埋めとくから」
「そうか、じゃあ片付けても構わないな?」
「ああ、そうしてくれ」
 なげやりに頷きながら、自宅に忘れてきた愛用の辞書を恋しく思い出した佐藤少年は、忘れ物などするものではない、そう深く心に刻んだのであった。