ほんまに欲しいものは。守りたいものは。 自分にとって。そんなに多くないはずやのに。 そのかけがえないものを慈しむことが。抱き締めることが。 ときにほんまに難しいことを知る。
そうるとの生活は。何より輝いてて。愛しくて。 この人がそばにおってくれたら。もうそれだけでいいとすら思えたのに。 ほんまにあっけなく。それは終わりを迎えた。
あたしたちの同居は。解消された。
理由は簡単なことやった。 そうるの卒論発表が終わって。少し時間に余裕ができたこと。 あたしが学部の友達と海外旅行に行くことになって。その間そうるが1人になること。 それならもう家に帰ると言い出したのは。そうるの方やった。
なぁなぁの関係になるのが好きじゃないそうるは。 同居にしたって。最初から1ヶ月って決めてたみたいで。 あたしにちゃんとその間の家賃もろもろを渡してくれてた。 だからもともとは。2月の後半には家に帰る予定にしてたけど。 発表の日が予定より延びたから。ちょっと長く住んでくれた。
分かってた。そうるが自分の家に戻るのは最初から分かりきってた。 でも幸せやったから。ほんまにほんまに幸せやったから。 終わることを考えたくなくて。あたしはそれを口には出さんかった。 終わりが近づいてくるのを確実に感じながら。気づかんフリをしてた。 もしかしたら。もしかしたらって。僅かな希望にすがってた。
そうるの卒論発表とあたしの卒論発表は。偶然同じ日で。 違う場所でも同じ時間にがんばれることが。あたしは嬉しかった。 その日の夜には。お疲れさんパーティーをして。2人でお酒を飲んだ。 久しぶりにそうるの腕に抱かれて。あたしはほんまに幸せやった。
でもそうるは。次の日の朝に言った。 「今日あたり家戻ろうかと思うねん。」 「短かったけどありがとさんでした。」
分かってたことやけど。やっぱりショックで。 あたしはちゃんと受け止められんかった。 落ち着いてるそうるを見て。理解不能やと思った。
なんでそんな冷静でおれるんやろう。 あたしはこんなに悲しいのに。寂しいのに。 本気で離れたくないのに。もっと一緒にいたいのに。
やっぱりそうなんや。あたしばっかり好きなんや。そうるを必要としてるんや。 あたしがそうるを好きなほどは。そうるはあたしを好きじゃないんや。 そんな醜い感情が。後から後から溢れ出して止まらんくなった。 でもそんなこと言えるはずなくて。無理して全部飲み込んだ。
「分かった。しょーがないもんな。」 「もー。これでうさぎが死んだらあんたのせいやで。」 (うさぎ=寂しがり=あたし。そうるはたまにあたしをこう呼ぶ。)
そんなふうにごまかすので精一杯やった。 荷造りするそうるのそばで。くだらん話をいっぱいして。 出て行くそうるの背中を。笑顔で見送った。
そしてその後で。ひとしきり泣いた。
悲しくて悲しくてたまらんかった。 でも泣いてるうちに。こんなに愛しく思える存在がいる自分を。 ほんまになんて幸せなんやろうとか思ったりもした。 そしたらもっともっと泣けてきた。
いろんな気持ちをいっぱい含んだ涙やった。
ねぇそうる。1ヶ月とちょっとやったけど。 あんたと同じ家に住めた日々を。あたしは一生忘れんよ。 あんたがそばにおるだけで。あたしのところに戻ってくると思うだけで。 生活すべてがキラキラしてて。ほんまにほんまに愛しかった。
ひとつひとつあげていったらキリがない。 あんたのしぐさ。表情。言葉。そのすべてに。 いったいどれだけ好きやって思わされたか分からんくらい。 あたしはあんたのそばにおれて幸せやった。
手に入れてたものを手放すのは寂しいし。悲しい。 手を伸ばせばそこにあったぬくもりが。今はちょっと遠くて。 それだけのことと言われればそれだけのことやけど。 あたしにとっては。やっぱり大きな喪失やから。辛い。
でもそれだけですべての意味を見失いたくない。 愛しすぎたあんたとの1ヶ月を色褪せさせたくない。
精一杯のありがとうが。あんたにまっすぐ届くように。 ちょっとおなかに力を入れて。涙は見せんようにして。 笑顔でバイバイって手を振って。あたしはあんたを見送った。 その後で隠れて泣いたけど。あたしにしてはがんばったよ。
ねぇそうる。あんたは泣いてなんかないと思うけど。 抱えた気持ちが。あたしと同じやったらええなと思う。 楽しかったやんね。幸せやったやんね。 あの日々を失うことを。ちょっとは寂しいと思ってるやんね。
そうであってくれることを。切に切に祈るよ。
↑もうそろそろ。あたしは我慢の限界(涙)。 |