あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 2006年12月31日(日)

方角、なんて忘れてしまった

ただ私は穴を掘りたかった
明日のとか昨日のとか関係なく
ただ白い腹の上に
スコップを突き立てて
ひらいてしまいたかった

せわしなく降るくせに雪は
静かで静かで
なおさら焦ってしまうのだった
来てしまう
来てしまう
来てしまう
逃げられずに穴を掘ることしか
出来ないのだ


なんど言っても貴方は
雪が溶けてしまうと
わたしの手の暖かさをなじるのだった

ようやくひらいた穴は
私をおさめるには小さすぎて
詰め込んだこどもを吐き出すと
むっつりと口を閉ざした
なきがらを拾うこともせず
わたしは貴方の手をおそれていた


 2006年12月27日(水)


恋なんかしないと言った唇が
 さみしいと君にくちづけをねだる


直裁で陳腐な言葉を並べ立て
 愚かさに溺れ我を忘れて


一人でも立てるのならば今すぐに
 放してしまえ 繋いだ指を

過ぎた日を送る宴に降る雪よ
  道なき道を真白に閉ざせ


 

 2006年12月23日(土)

あなたに向かった雨が
 何か を

  撃ち抜かなかったこと

陽だまりを満たした背中に
気づいた

  もっと 
  砥いでおけば
  よかったのだろうか
  それとも

雨の
言葉を聞くすべをあなたが持たないこと
を忘れていた
ただ
すがればよかった

てのひらがこごえている
湿った水は
名残だろうか



 2006年12月17日(日)


「どうしてみんな昨日になってしまうのかしら?」

娘が言うので、扉を閉めた
かんぬきを掛けた鎧戸に隙間はなく
こうしておけば
怖い明日は入ってこれないでしょう
厚くカーテンを閉ざして
朝陽も拒んであげましょう
あなたは今日の夢だけを
大事に守れば良い

けれど

娘よ
全てが過ぎてしまい
手の内に今日すらも残らない事を
望むものもいるのですよ
同じように明日を拒んではいても

だから暖炉の炎に焼かれましょう
煙になって過去になり
今日というお前の部屋から去って
お前の手放す日々となりましょう

そうね、もっと早くこうすればよかったの
忘れた夢の見かたを
お前にねだったりなどせずに



 2006年12月11日(月)


あなたに、届いただろうか

   わたくしの喉を濡らした  水


あなたの 指から生まれて
      ここへ帰る
     私の うちへ 何度でも

     帰ってくる

       水
         雨

      あ め

 
届いただろうか
  私の肌から奪った 熱と 共に

 2006年12月10日(日)

踏みはずすように

わたしは貴方を呼んだのだった
夜のくさむらから手を伸ばし
貴方の足に触れ

降りてくる

夜は欠片となって
草の上で光っている
ひそめた私の声を貴方は拾う

一歩

冬の草はもう香らない
折れた私の腕も匂うことはなく
ただ指先で

くるぶし、を 骨ばったすね、を

暖めることはできぬかと
祈りながら
元いた道の事を思ったのだ


 2006年12月04日(月)


つまづいたのだ

夜のことだった
一寸先も見えぬ夜のことだった

いや

夜であっても光はあり
わたくしの足元で草は露をおびて
濡れていた、ひかりは
小さな滴にあつまり、繊毛の上で輝き
道は見えていた、僅かではあっても

つまづいたのだ、だから

見えている石につま先を添え
私はそこから歩き出そうとしたのだ
逃げることの出来ぬ朝とやらの
容赦ない光の方角へ、
荒れ野である道のない方角へと

そしられることなど覚悟の上で

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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe