...ねね

 

 全てフィクションです

【DRESS】 - 2003年12月22日(月)

しばらく木戸の話は続いたが
話は僕の右耳から入ったそばから左耳に抜けた。
木戸が頼んだ僕の分のウーロン茶もすっかり氷が解けている。
正直言って奴がどうやって女装の世界に入ったかなんて興味無かった。

気になるのは、奴が僕を好きだったという事と、顔。
なんでこんな顔違うの?
しかし木戸の顔についてはすぐに謎が分かった。
なんの事は無い、少し鼻を細く高くして目を二重に大きく、
顎も細く尖らせたんだそうだ。
つまり整形。
まぁ今時珍しい事でもない。
言われてみれば昔の面影はあったが、歳を重ねたせいもあるのか
以前の木戸のイメージは皆無だった。

だが女物が似合うよう、整形までしたというのは頭が下がる。
奴はオカマではない。
特に男が好きという訳でもないようだ。
心底体も心も女になろうというわけではないのだ。
(だったらなぜ僕の事が?と不思議に思いはしたけど)
なのになぜそこまで?と思った。
性的倒錯なのかもしれない。
別にそこの所を詳しく聞きたいとも思わなかったが。

木戸自身の事には興味は無かったが
奴の話に出てきた、女装クラブというものには興味を引かれた。
どうも、同じ趣味の男たちが集まる場所だそうで
そこに行くと人目が気になる人でも思う存分女性の格好が出来るらしい。
僕は「さっきの話に戻るけど・・・」と、その話を再度聞いてみた。
すると木戸は得意そうに「じゃあ連れてってやるよ!」
と言って立ち上がった。

その場所は、さっきのビルからそれほど離れていない所にあった。
普通のビルのスナックにあるようなドアには看板は何も無い。
木戸はそのドアを開けて中に入り、僕を促した。
普通のカウンターと数個のボックス席。
そこらの飲み屋と同じだ。
違うのは、店員も客も全員女装をした男性だらけだという事だった。

「凄いな・・・」

再び、僕の中で燻っていた火がが燃え上がるのを感じた。


-

【DRESS】 - 2003年12月18日(木)

木戸は振り向きもせずに僕を引っ張り
そして薄暗いビルの階段を上り喫茶店に入った。
「まったく・・・エレベーターくらいつけて欲しいよ」
と木戸はふーと一息吐いて椅子にドッカリ座った。
その木戸の顔をしみじみ眺めてみる。

なぜ昔苛めていたはずの僕をこんな所に連れ出すのか
あれほど馬鹿にしていた女装を、なぜ彼がしているのか
僕は冷静な顔をしながらも頭の中は錯綜中だ。

「久しぶりだな」
そう言って木戸は微笑む。
僕は、実は先日オカマバーで木戸を見かけた事を話した。
すると木戸が
あそこの店には自分の父親の友人の息子が居るのだと言った。
小さい頃からの付き合いで、この世界(女装の事だろうか)に入る
決心をつけてくれたのも彼女の存在が大きかったと言った。
多分あの時僕と話していた人だろう。

そして、女装を始めたきっかけになったのが
「藤沢、お前に近づきたかった」

どうして、僕・・・?

「俺はゲイじゃない。ストレートだ。だけど、
 中学の頃、なぜか藤沢が好きだったんだ」

え・・・ええっ!?

「好きだからこそ嫌がらせをしたかったのかもしれない。
 夜、お前が女の格好をして歩いてるのを見つけたとき、
 俺は やった!と思ったよ。
 お前の弱みを掴んで、秘密を共有した気になった。
 結局周りにばらしちゃったけどな。
 藤沢の秘密を知ってるんだぜって自慢したかったのかもな。
 ・・・なぁ、今でも怒ってるのか」

中学の頃に酷い目に遭った事を思い出した。
学校中からの中傷、そしてあのホモ野郎に襲われた事。
もう怒ってない、とは言えずに黙っていた。
木戸はそんな僕を構う事無く
自分が女装に嵌まっていくまでを語り続けていた。

僕は・・・上の空だった。



-

【DRESS】 - 2003年12月17日(水)

どうしてコイツは僕の名前を知っているんだろう。
僕は知らない、こんな奴。
いや、多分知らないと思う・・・
でも、どこかで会ったような気はする。
思い出せない。
脳みそをフル回転させて記憶をたどったが、
こんな顔の男は知り合いには居ない・・・と思う。
段々自分の記憶に自信が持てなくなってきた。

混乱する僕に、彼は動揺しながらも口を開いた。

「藤沢、俺。俺だよ。木戸だ」
「木戸!?」

あまりに驚いて、僕は唾を飛ばして叫んでしまった。
周りの通行人が変な目で僕たちを見る。

「ずっと藤沢に会いたかった。
 俺、謝りたかった。酷いことした。ずっとずっとお前に会いたかったよ」

木戸は突っ立ったまま、周りの視線も気にせずに涙を流した。
予想外の出来事に僕はただ面食らってしまった。
女装の男を泣かせている僕に人々の目が集中する。
しかし、木戸と名乗るその男の顔に見覚えは無かった。
いや確かにそう言われれば似てる。
だけどあいつの顔はもっと・・・こう・・・
大体僕の女装姿を見つけてあれほど馬鹿にした男だ。
なぜ彼はこんな格好で街をうろついている?
そして今更謝りたかったとは一体・・・

「とりあえず、座って話さないか」

そう言われて、僕は木戸に腕を引っ張られながら付いて行った。
あまりに変わってしまった木戸の後姿を
まぬけ面で見つめながら。


-

【DRESS】 - 2003年12月16日(火)

歩道でカラオケ屋のビラを受け取るその男の顔。
間違いないと思った。
この前とは雰囲気の違う長いタイトスカートをはいていた。
ビラ配りの男の子は彼には何の興味も無いように
次の歩行者にビラを差し出していたが
道行く人々の視線は、彼に釘付けだ。
化粧も無しにただ女性服を着る彼の姿が異様なのだろう。
通り過ぎざまに振り返ってまで彼の顔を見ようとするものまでいた。

まるで、昔の自分を見ているような気分だ。
中学生の頃に女装で外を出歩いたときに木戸に見られたあの夜。
それから奇異の目でクラスメートに馬鹿にされた日々を。

通り過ぎた若いカップルが、その男を見て「キモイ」と罵声を浴びせた時
僕は思わず彼の肩を叩いてしまった。

「はい?」
と振り向いた彼の顔にはあからさまに動揺の色が窺えた。
無理も無い。この前は僕の方からは彼を見ていたが
彼に話しかけたわけでもなく、当然彼は僕の存在など知らないからだ。
やっぱりいきなり話しかけたのはまずかっただろうか。
あの店にに通って再会を待ったほうが良かっただろうか。


しかし、彼の口から出た言葉に、今度は僕の方が驚いたのだ。

「藤沢・・・」


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【DRESS】 - 2003年12月15日(月)

女装の男を眺めているうちに
どこかで見た顔だ、と感じた。
誰だったか知りたいような思い出したくないような
変な感じに囚われて、その男から視線を逸らした。
丁度その時同僚たちがテーブルで会計を始めたので
僕はそのまま仲間のほうへ向き直り
財布を出して自分の割り勘分を支払った。
財布を仕舞いながらも、視線の端であの男を気にしながら。


その後数日、僕は悶々としていた。
男ながらに煌びやかにドレスを纏った彼女達の事が
頭の中を埋め尽くしている。
ドレスへの激しい思いが頭の中を揺さぶっている。
我慢の限界がもうすぐそこだと思った。
綺麗な服を着て普通の顔ですまして座っていた
あの女装の男の存在が、大きく圧し掛かってくるようだ。


自分の欲望に押しつぶされそうになりながら
僕は週末のススキノに繰り出した。
すぐにあのオカマバーに入ろうとしたわけではない。
だけど地下鉄の駅から中島公園に抜ける道を歩いていると
どんな運命の悪戯か、あの女装の男に会ってしまったのだ。



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