きりんの脱臼
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2006年11月03日(金) なかはられいこ

もうひとひ眠れば初夏になりそうな陽射しを束にして持ってゆく  笹井宏之





渡したいものがある


というメールがきたのででかけた

いち、に、さん、し、と
いっぽずつ数をかぞえながらあるく
十七歩目で止まる

「一句どうぞ」

とまどいながら
一句のかわりに
はいていた靴下を脱いでさしだす

ふたたび数をかぞえながらあるく
ふたたび十七歩目で止まる

意志に反して足はうごかない

「一句どうぞ」

意志に反してあたまもうごかない
ためいきをつきながら
片ほうの耳をはずしてさしだす

十七歩目で止まるたび

「一句どうぞ」

わたしは
じゅうまいの爪をはずし
にまいのまぶたをはずし
かかとをひきぬいてさしだした

そして
温度と匂いだけのものとなって
渡したいものがあるひとのところに
ようやくたどりついた


渡したいものがあるひとが
渡したかったものは
ちいさなひかりと
ひそやかなせせらぎの音だった

ちいさくてひそやかなものたちは
受け取ったとたん
あたりいちめんにあふれ
空気のなかに満ちた

ちいさなひかりは
マッシュポテトのように
やわらかくて
せせらぎの音は
梨の花の匂いがした


温度と匂いだけのもの
になったわたしが

あたたかくて
いい匂い
と言うと

渡したいものがあったひとは
しずかに笑った



あなたから芒を抜いてねむらせる        なかはられいこ


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