僕らの日常
 mirin



  PEACE@晴臣

バニラタイプの香料が使用されて独特な濃い
味わい、口当たりはクリーミーでまろやかである。

『ッ...ゲホッ、何コレ・・・キツっ』

そんな人を魅きつける宣伝文句とは裏腹に頭の中まで
くらくらする程キツイこの煙草は一時期生徒達の間で
流行ったことがある。咳き込みながら馴れぬ手つきで
煙草を吸う生徒達とその様を傍観してみつめる生徒達。

ちなみにボクはどちらかと言えば傍観方だ。だけど、
煙草の匂いと煙が鬱陶しく思えて、近くで見てるのも
嫌ですぐその場から、姿を消していた。だから・・・

"吸うのは嫌だけど、匂いは好き"

そう言って、笑うキミを見て同じじゃない事が寂しく
思えた。あの貴公子様でさえ煙草の存在自体が嫌い
だと言うのに、だから、意外だね。って言ったら

"明兄達がたまに吸ってるから"

すぐ傍に愛煙家が居たら、ボクも彼同様にこの匂いに
馴れていたかもしれない、少なくともあと何年後か、
彼も2人の兄同様に吸い始めるんだろう・・・
この先の未来でも、キミの隣を歩けるなら少しくらい
馴れてもいいと思えた。(かもしれない)

2002年05月26日(日)



  この存在@終司

暗い視界、漆黒色の獣がオレの手から溢れ出した。

『      』

・・・やめろ。
赤い液体をそこら中に撒き散らし獣は、人は食い荒す

『      』

オレのせいじゃない。オレがやったんじゃ
人が泣き喚き、お前のせいだ殺してしまえと叫びだす

『・・ゅ・・ぅ』

・・・一瞬、誰かに呼ばれた気がした。
この闇から、オレの救世主・・・また、あの時と同じ
あいつの声と手がまたここから救い出してくれるんだ。

「柊ッ!」

右の耳に衝撃。肩を揺すぶられて目を開けると、
そこはいつもの図書室だった、隣には呆れた様な不安
そうな、複雑な表情をしたあいつが立っていた。

「やっと起きた。もう5限目始まっちゃったよ」
「・・・・夢、か」
「柊、どんな夢だった?何か、うなされてたけど」

肩に置かれたままの手から伝わる体温にオレの意識は
覚醒していった。

「最初は、悪夢だったな。」
「最初だけ」
「あぁ...」
「ふーん...どうする、今から遅れてく?」
「冗談」
「だね。じゃ、また散策にでも行くとしますか」

宇宙は、あまり人に多くを聞かない。必要だろう情報
それだけを容易く選び出して、それが人にとって何か
重いものだろうと、自然に口に出す。

カタン...

オレは椅子から立ちあがると、いつもの様にあいつの
夜の学校散策に付合った。

2002年05月25日(土)



  フィルター2@暁生

げ。

ドアを開けた瞬間、そのまま速効で閉めて帰りたい衝動に
かられた。普通に出したはずの2歩目の右足が妙に重くて
一瞬、スローモーションでもかかったような気がした。

俺のすぐ目の前に見えるのは、いつも鳥羽が言っている。
月色の髪…なんで、昼間に居るんだ!?喉まで出かかった
声をなんとか飲み込んで俺はなるべく見ないようにした。

カタン...

席を立つ音がして、邪魔になるとか思ったのか、そいつは
俺を背にしてそのまま扉へと向かう。そのすれ違いざまに
夜いつも見る印象とどこか違う感じがするのに気づいた。
別に鳥羽じゃないけど、妙に気になった。だから・・・

「お前、あの時、何で怒らなかったんだ」
「・・?・・・ぁぁ...怒る理由ないでしょ?」

唐突に話しかけた俺を振りかえり、一瞬だけ、怪訝そうな
顔をすると、「ぁぁ」と思い出したように声を出し言った。

「今日みたいな例外がないと、僕本当に夜しか来ないし」
「例外?」
「そそ。自由参加の化学の実験、アレ夜はやらないから」

そういえば、今日は校内のいたる所に暗幕が貼られてたな
ふと思い出したら、自然とそいつから目をそらせていた。

「それとも、怒った方が良かった。かな」

クス...小さく笑った声が微かに聞え、俺の眉間にしわが寄る
人が他人のことを気にして言ってやったっていうのに、その
対応はないだろ?そう思って、キッとそいつの顔を直視して
気づく・・・銀色フレームの薄いレンズのメガネ。

「メガネ?」
「気づかなかったんだ」

レンズの向こうから見える目が明かに笑っていた。呆れとか
変だとか、そういうものじゃなくて、ただ面白がって笑った。

・・・でも、たしかこいつの視力は、2.5と馬鹿高い数字を
叩き出したことがあると、同級の生徒達が騒いでたような。

2002年05月24日(金)



  フィルター@宇宙

透明な薄いレンズが白く曇る、僕から見る視界は世界に
1枚の白いフィルターをかけ、一線を引いていた。

「おはよー」
「おぉ。おは・・・」

たまにある、こんな朝も日常茶飯事だから、何も言わない。
驚き絶句で、互いの顔を見合わせるクラスメイトを背にして
僕は陽の当らない日陰側の廊下を突っ切った。

そこかしこにあるカーテンは化学実験の授業に使う暗幕で、
見事に日光を遮断している。ちょっと、つまらないなとか
思ったけど贅沢なことは言ってられない。
たまにカーテンを捲りたい衝動にかられるけど、ヘタに騒ぎ
を起こしたくないから、今日もただ裾を掴んでみただけ…

化学の授業にはまだ時間もあるし、そう思って僕は小走りに
美術室へと向かっている、日が射す方向とは逆で丁度、
四角となっている、あの場所は、前から結構好きだった。

「あ、あった。晴臣達の絵」

午前中の授業で描いて、乾かしている最中の絵を見渡して
僕は晴臣の絵を見つけた、郊外学習で出た時に描いたらしい
その絵の塗り方は彼の癖が出ていて、人一倍わかりやすい。

ガラッッッ__

絵の鑑賞なんかをはじめていると、美術室の扉が開き、
生徒が1人入ってきた。・・・顔見知りというか・・・
あの夜の奏者のお友達サン



2002年05月23日(木)



  時間よ止まれ@鳥羽

"時間よ止まれ"

思ったこと、今まで何回あっただろう。
小さい時、以来かもしれない・・・
こんなに時間を貴重だと思ったのは・・・

廊下に響く、チャイムの音にぼくは足を止める。次の
授業は生物で「人体の構造」だとか。思い出したら、
なんとなくやる気をそがれ、元来た廊下を引き返した。

"身体を動かすには、脳からの指令を受けて〜"

黒板の1スペースも使わない、この授業はまるで抗議。
聞いていると欠伸の一つも出てしまうから、今日は
サボりと決め込んで、先程まで居た図書室に戻った。
読んだまま、机に置いておいたの筈の本が消えていた。

「サボり?」

どこからともなく聞えた声に疑問マークを一つつけて
周囲を見渡す、誰も居ない?じゃ、今の声は何?そう
思っていたら、"上"と声が聞こえて、少年がハシゴの
上から降りてきた。・・・あの金色をなびかせながら…

「・・・。」
「受け取ってよ。探してたのこれでしょ?」

彼は小脇に抱えた本をぼくに向かって差し出す、ぼくが
ただ呆然としているのを見て、彼はその本を押しやった。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして。でもさ、次来るからっていっても
読んだ後はちゃんと棚に戻さないと貸し出し禁止になるよ」
「・・・ごめん・・・今度から気をつけるから」
「"今日"から、気をつけてね」

彼は今日を強調して言うと少しくすりと笑う、憧れていた
人がすぐ近くにいて、自然と顔が火照るのがわかった。

2002年05月22日(水)



  その声が@晴臣

「晴、いけっ!ダンクッ!!」
「んなのっ、出来ないよっっっ」

標準より、身長の低い自分にそんなもの出来る筈もなく
ボクはいつものようにジャンプシュートを決めた。
と、同時に笛の音が響いて、ゲームはボクらの勝ち
仲間が駆けよって来る、一人はボクの肩に纏わりついて
もう一人、宇宙は片手を高く上げてボクの手と合わせた。

"パチン"

正直に楽しいと思う。今は夜だから、昼間ほど暑くなくて
少し冷えるくらいだけど、こうして体動かしていれば幾分
あたたまってもくるし

「晴臣ジャンプ力また上がったんじゃない?」
「え…。そ、かな?わかんない、そんな意識してないし」
「へー、無意識かぁ。スゲーじゃんか、ハル!」
「ありがとっ。このまま、明日も連勝するよっ」

ただ少し軽く誉められただけなのに、それがただ嬉しくて
調子に乗って、そんなことを言ったら、隣のクラスの生徒に
睨まれた。そういえば、明日はA組と対戦するんだっけ・・・。

「ま、ま。お互い、そんな挑発してないで、お手柔らかに」

そんな空気を読んだのか宇宙が間に入って仲裁してくれた。
キミの声はいつも不思議、少年特有の変声期前の高い声で
ボクらと何ら変わらないはずなのに、聞くと落ち付けて、
いつもすぐ近くに居る、ボクはなんか得してる気になる。

2002年05月21日(火)



  発熱@宇宙

『そろそろ起きる時間だろ?』

部屋にバイト帰りの兄の声が響く、そろそろの登校時間。

『・・・今、起きる・・から』

夕刻。いつも起き出して、学校へ行く時間の筈
でも、今日は体がだるくて何をする気にもならなかった。

"何か、動きにくい"

頭がぼうっとして、身体に少しの力も入ってくれなくて
薄れていく意識の中、また布団に顔を埋めてしまう・・・

住み馴れた筈の静寂が支配する夜の部屋
いつも、この時間は家にいないせいか
どこか別の場所のように感じてしまう…。

「起きた?大丈夫?」
「・・うん、平気。あの・・母さんに」
「電話?…してないよ。宇宙そういうの嫌がるから
本当なら知らせるべきなんだろうけど」

額の濡れタオルを変えに来たらしい、明兄は横に座って
心配そうに僕を見下ろして言う、最後の言葉は自分自身に
言い聞かせているようにも聞えた。

「宇宙!」ガコンッーーー

けたたましい騒音とともに開いた僕の部屋
そこには騒音を起こした張本人が立っている。

「もう少し静かに開けなよ、足使ったろ?今」
「あ・・・悪ぃ。勢いづいたから、つい」

足でドア蹴破るっていうのはどういう勢いなんだろう…
はぁ...と軽く息をついた明兄は今帰ってきたばかりの
卓兄を部屋の外に追いやって、

「おかゆ作ってるから、それまで寝てなね」

そう言うと、静かにそっとドアを閉めた。

"ほら!帰ってきたら、手ぇ洗う!"
"明兄…お前、だんだん○○化してきたな"
"何、何か言った?聞えなかったけど"

熱のせいで、静か過ぎる部屋で不安になった
でも、もう平気。これだけ、騒がしいと
独りじゃないことを痛感できるから・・・

扉の向こうで、繰り返される声を聞きながら目を閉じた。

2002年05月20日(月)



  変われなくても@宇宙

どんなに願ったって
どんなに祈ったって

何も変わらないこの身体

憧れたのは
陽の光とその暖かさ 青い空 虹

見上げることの叶わないもの

でも、感じることくらいなら
出来るんだと今日君に教わった。


今日は駅の地下にある直通の電車で昼間の学校に行った。
本当にこの時間、外に出るのは久々で、母さんに駅の
ホームで何度も陽の光りに当らないよう言い付けられた。

ただし行動範囲はすべて暗幕のある部屋だけどね。
それでも、たぶん充分なんだ。いつもより贅沢な…
地下通路から上がってきた僕に通常組の生徒(知人)が
驚いた顔で僕を見たけど、馴れで特に気にしなかった。

「宇宙!」
「・・・っと!?」

後ろから、そおっと近づいてきたらしい友人は僕の
背中から、覆い被さる・・・失礼だとは思うけど、重い。

「晴臣ー、重いよ」
「え!失礼じゃん、ソレ。ボク軽いんだよ」

ブーイングが聞えて、今度はうるさいとか思ったけど
あえて言わなかった。小さな違和感に気づいたから

「なんか、晴臣ほかほかしてない?」
「ほかほかって・・・あぁ服じゃない?
さっきまで、グラウンドに居たから、陽の暑さが」

そこまで言って、はっとしたように晴臣は口をつぐんだ。
ごめんと背中辺りで小さく呟いたのがわかった。

「いいよ。そういうのは気にしないから、
にしても何かいいねー、さながら太陽の残り香?」

そう言ったら、急に肩にかぶさっていた重さが軽くなって
かわりに彼の声とジャケットが頭の上から降って来た。

「残り香が消えるまで貸しとくよ」

2002年05月19日(日)



  特別 2@晴臣

でも、そんなことボクにはどうでもよくて、顔に出した?
いつも気をつけてた筈。そんな簡単にわかるほど今まで
苦労したワケじゃない聞かなくちゃ!理由を...

『ちょっと待ってよ!さっきの何!どういう意味!』
『ん?・・・なんとなく。思ったから言ってみただけ』

でも、そんなに慌てられるとは思わなくて…ごめんね。と
申し訳なさそうに小さく謝られて、変に意気込みすぎた
ボクはその場にへたり込んだ。

『わっ。だいじょうぶ?』
『へいきー、なんかあんまりな答えで気が抜けただけだし』

まさか、なんとなくなんて言われて、変に緊張した自分が
馬鹿馬鹿しくて、おかしそうに口元を押さえていた。

『何?何か、おかしい?』
『うん、なんか馬鹿馬鹿しくなってきちゃって』
『だったら、笑えばいいよ。スッキリするから』

そう言って微笑んだ、よく考えてみれば笑う側はそっちじゃ
ないのに、彼はにこにこ笑っていてボクはつられて笑った。

今思えば、妙な出会い方したんだよね。
もう、ただの笑い話っぽい・・・
それでも、そんな変な出会い方の友達は今親友になっている
なんとなくの偶然の産物に感謝してるよ・・・。

欲しいものはあの2人の両手
それは、たぶん今も何も変わらない変える必要もない

けど、欲しいものをもうひとつだけ見つけたから
今は、そっちだけ専念するって、決めたよ、ボクの特別な友達

2002年05月18日(土)



  特別@晴臣

欲しいものは、いつもすぐ手に入る
誕生日でも、クリスマスでもなくても
欲しいと言えば、両親はどんな物でもくれた。

その2人の両手以外は・・・

『晴臣。貴方は大きくなったら、この会社で』
『お前は私の後継ぎになって.....』

だから、特別にならなきゃいけないって思ってた。
あの2人の期待に答えられたら、1番欲しい物が
手に入る気がしたから、だから・・・

ずっと保たれていた筈の人との距離
ボクが普通の人とは違うための間隔
それを彼はいとも容易く崩してくれた。

初等部4年の時あった、理科の授業の月見観測会
夜学組と同じ授業を受けたのはこれがはじめてで
でも、初対面の生徒達は互いにすぐ仲良くなった。

『えっと...晴臣くん?これ、月見団子』
『あ、ありがと』
『・・・・・・。』
『・・・何?』

月見団子を配りに来た男子生徒がジッとボクを見た。
その視線がなかなか離れなくて、その居心地の悪さに
ボクは、視線の意味を尋ねる。

『ね。本当に、楽しいと思ってる?』

え?・・・何言ってるの?そんな感じで見つめ返したら
彼はただ小首を傾げていた。

『ソラ〜!こっち団子回ってない』
『心配しなくても、今持ってくよ』

他の生徒の早く配ってと団子の催促する声に苦笑しつつ
彼は、ぱたぱたと生徒達の輪に入っていった。

2002年05月17日(金)



  奏者@鳥羽

昔から、声も音も耳に聞こえてくるものが好きだった。
ぼくは独りじゃないと、そう思える瞬間なんだ・・・

そして、今も シューベルト「アンプロンプチュ」

木漏れ日の下なんかで弾くのが1番あってるんだと思う。
それでも、聞かせたい人が密かに存在しているのだから
校舎のどこかで、同じ時を過ごす空間で音を届けたい。
例え、相手が何も知らなくて、ぼくだけの憧れでも・・・

「鳥羽・・・今日もう終わりなのか」
「リクエストあったら聞くよ、何がいい?」

授業を速目に切り上げたらしい、暁生が声をかけてくる。
少し不機嫌そうな表情をしていたから、気紛らわしに
何か弾こうか?と聞いたら、彼の眉間にシワが寄った。

「なぁ、俺そんな変な顔してるか」
「イライラしてたみたい。でも今は困ってるようだけど」
「…っくしょ!違うけど、全部あいつのせいにしてやる」
「あいつって、珍しいね。誰かとやりあったのか、誰?」
「・・・。鳥羽の全然知らない奴」

不思議そうに尋ねた、ぼくに少しの間を開いて返事をする彼
こんなに饒舌なのは珍しいのかもしれない。不思議と沢山の
言葉が浮かんできた。でも、これ以上の詮索は無用だな。

「何か夜らしいって曲」

ほら、話をそらされた。・・・夜らしい?ああリクエストか

...♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜...♪

ドビュッシー "月の光" 相変わらずベタな選曲の仕方だと
自分でも思う。でも、夜=闇より、夜=月の印象が強いから

「・・・。」

暁生はそれから暫く何も言わず、ピアノに軽く持たれかかり
ぼくに背を向けていた。そんな彼の背中を隣にして、ぼくは
今日も自分の為と聞いてくれる誰かの為にピアノを弾く・・・

2002年05月16日(木)



  旋律@宇宙

 ...♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜...♪

美術室に静かに響いたのは、シューベルトのアンプロンプチュ
ピアノの旋律がこの時間に届くのは日常茶飯事なこと、誰も
気にも止めずに作業を続けている。

僕は、描き終わった絵を美術担当師に提出し
廊下で絵の具の付いたパレットを洗い流していた。

「この曲は昼のがあってるかな」

そんなことをポツリと呟いてたら、美術室の戸がガラリと音を
たて開いた、でも僕は特に気にもしなくて、また洗いものに
目を落とす、ピシャリッッッと耳に響く音で戸の閉められる音

さすがに"何?"と思って振り向くと
音を起こしたらしい男子生徒に軽く睨まれた。

「昼、来もしない奴が文句言うな」

絵の具で汚れた手を洗い流しながら、彼は僕を一瞥する
ように見ると、フンッと目をを反らして廊下を歩いて行った。
どうやら彼はこの旋律を奏でる張本人のお友達らしい・・・。

"怒るのも無理ないか・・・"

口元に少しの苦笑を浮かべて、その後姿を見送ると今度は
青く色付く自分の手を洗い流す、奏でられるピアノ音に
じっと黙って、耳を澄ませて...

2002年05月15日(水)



  俺の隣@暁生

小さい時から、共働きの両親は俺との時間をあまり大事に
してくれなかった。約束を破られる回数は馴れたもので...

『お母さん達は?』
『また、お仕事?』
『ピアノの発表会見に来てくれる約束は?』

ずっと、そうだった。俺がいつも居て欲しいと思う人は誰も
自分の傍には居てくれなくて思えば思う程、叶わない願い。
だから、それはあの時に途中でスッパリ諦めた。

母親なんか居なくても、友達が居るから
父親なんて居なくても、乳母達がいる。

"独りじゃないから寂しくない"

それでも、いつもの保育園の帰り道。母と子が手を繋ぐ姿は
自分がそれまで見てきた何よりも眩しかったんだ。
誰も悪くないのに、ただ自分だけが無償に意味もなくイラって
卒園する頃には、子分が何人も俺の後ろにくっ付いていた。
力で手に入れても、何にもならないことわかってた筈なのにな

"傍に居て欲しい"

心から思ってたのはそんな台詞。言えずじまいのそんな台詞
いつかまた、あの頃みたいに誰か求める日が来るだろうか
これから先どこかで、そんな機会があったなら言おうと思う
照れながらも、冗談だと笑いあいながら・・・

2002年05月14日(火)



  名前@終司

「柊。」

出会ったあの日、初めて呼ばれた短縮 name
振り向いたらいつも、あいつが居る。


『名前で呼ぶなって?』
『嫌いだからだ』
『どうして?』

小首を傾げて、オレを見る相手に溜息を吐く
初対面。名前を教えて、そう言われて
終司と名乗る、でも名前は呼ぶなと付足した。

『すべての終わりを司るって書くだろ』

だから嫌なんだ、この名前が気に入らない。

 "何で〜?小さいこと気にし過ぎだろ"

思い出すのは、この類の耳障りな声ばかり

『そっ?』
『ああ...変ならそれで放っといてくれ』
『でも、終わっても再生があるって知ってる』

次のお決まりな発言を予想して、その場を後に
しようとしたオレは予想外の声に、は?と思考が
1時停止した。

『でも、嫌いなものは易々好きになれないよね』

そんなオレの様子も気づかず(?)相手は何か呟いて

『あ!じゃあさ、司らなきゃいいんでしょ。』

ちょっと手、貸してとオレの手の平を前に差し出す
形にして、相手は指でそこに何かを書いた、木…?

『木?・・・久か?』

ふるふると首を振って、懸命に分かりやすく書こうと
してる相手になぜかオレもつられて一生懸命読みとった。

『・・・柊(ひいらぎ)・・・』
『あたり♪でも、読み方はシュウだよ』

シュウって、それは。

『ぼくは、柊って呼ぶからね。はい、決定。嫌いを
好きにする難しさわかるから、とりあえず、ね?
・・・だからさ・・・そんなに邪見にしないでよ』


そう言って、あいつはオレにこの短縮 nameを付けた。
あの時のオレはわけもわからないまま頷いてたけど、
気づけば、あいつは、オレの1番近い存在になっていた。

2002年05月13日(月)



  対照的@宇宙

眩しい太陽が隙間ない空から、光を地上に降り注ぐ
そんな様子を数ミリ開いたような、カーテンから
覗いてみる、母さんが見たら卒倒しそうな光景だね。


<<屋上>>

夜学組・授業内容「天体観測」今夜はうってつけの
満月で、担当教師のやおちゃんは舞い上がってる。
これが昼間だったらいいのに、こんなこと思うのは
快晴満月な夜に失礼なんだけど思わずにいられない。


ふと、空から地上を見下ろすと下校途中の生徒の姿
悪ふざけしてる生徒達の横で控えめに笑ってる彼がいた

どうにも、おぼつかない足取りで足悪いのかな?って、
首を傾げてみる。考えてもわからない・・・
今度、晴臣に聞いてみようか?そう思って片付けた。
屋上の片隅で観測表片手にまた君に視線を投げてみる。

でも、彼は・・・たぶん、何も気づいてない。


だから、いつか声をかけてみようと思う。


「月見日和だね〜」 とでも...


2002年05月12日(日)



  対照的@鳥羽

太陽が空から居なくなる時間、彼は姿を見せる。
どうして夜しか来ないんだろう。思うことは多い
でも、理由の解明が難解そうなのであえて、
それは忘れようと思う。


<<廊下>>

足の遅い、ぼくは友人達から数歩遅れて後につく…
前から来る生徒達の騒がしさに目をやると、いつも
その中心で笑っている、彼に目を奪われてしまう。

視線はかちあうこともなく、そのまま過ぎ去るだけ
それでも…この一瞬が、すごく好きだ。そう思う。
日常の何気ない 1コマいつも楽しそうな彼がふいに
真面目になったのを見た事があるけど...

その表情がとても寂しそうだったから、やっぱり彼には
笑っていてほしいとか考えてしまう自分がいる。

でも、彼は・・・きっと、こんなぼくを知らない。


だけど、いつか声をかけてみようと思う。

「いい天気だよね?」 とでも...

2002年05月11日(土)



  内密に...@晴臣

今日は昼から、委員長会議があって教師に呼び出された。
通常組の生徒でありながら、最近は夜学組の授業ばかり
顔を出してる現状。

理由は"楽しいこと"と"人"を両方見つけてしまったから

「おはよー!朝学組の貴公子が昼来るのって珍しいじゃん」
「お前こそ、同類だろうが」
「まあね、昼は宇宙も来ないし、つまらないんだけど。
仕方ないよ、今日委員長会議で呼び出しくらったんだから」
「そういえば、あいつ、どうして昼来ないんだ?」
「知らないの?」
「ああ...」

ふ〜ん。まだ、聞いてないんだ。真っ先に気になることなら
この貴公子様の性格上、人にすぐ問いただすと思ってたけど
結構、思慮深かったり?

「自分で聞けば?それとも、聞く勇気がないとか」
「悪かったな」

嘘・・・冗談のつもりだったんだけど、またマズったみたい。
いつだってそうだ、宇宙の時で懲りた筈なのになぁ。
あ〜あ...どうして、ボクってこういう性格なんだろう

『どうして昼来ないの?』
『何ソレ、突然』
『宇宙っていつも元気だし、体弱くないよね』
『ん。元気だけど』
『もしかして、吸血鬼だったりして?』
『・・・。たぶん、似たようなもんだよ。ソレ』

あの時の彼は今の終司と同じように少し困り顔で、でも目は
じっとボクを向いたまま答えてた。その後ボクはただ黙々と
言う筈だった『ただの冗談〜♪』を口内に閉じ込めていた。

「おい」
「え?な、何?!どうしたの!」
「それはこっちの台詞だろ。廊下の真ん中で棒立ちになんな」

どうやら、思考がトリップしていたらしく、目の前に居る
終司だけでなく、周りの生徒達が怪訝気にボクを見ている。

「あ、ごめん。・・・えっと、宇宙のこと」
「もういい。お前に聞いたのが間違いだった」

軽〜く、ご立腹マークを頭に浮かばせて、眉間にシワが入る
正面を見ると、視線がかち合って彼が口を開いた。

「自分で、聞くからいい!」

そう一言だけ残すと、そのままフイと顔を背けてスタスタと
廊下を歩く彼の後姿を見送りながら思う、朝学組の貴公子の
姿はなかったような気がする。
まるで、仲間はずれにされた子供のような哀愁があったから

・・・とは、口が裂けても、言えないけど・・・

2002年05月10日(金)



  シイチャンと友達@キン

「キ〜ン〜?・・・キン・・・飯だぞ」

夕日が沈む時、それは我らの夕御飯の時間。この学園に
住みつく我らは彼の様な優しい人間にご馳走になる。
学食の残りか、弁当の残りなのか、ラップに包まれた
ソレを透明の容器に移し替えて、目の前に出して頂く…。

「ほら。今日は、いつもよりちっと豪勢な」

ご飯と鮭と、あと何かの野菜が入ったそれを我等が勢い良く
平らげていくのをキラキラした目で見詰める彼の様子は、
中々の見物であり、我はチラチラと彼の様子を伺っていた。
彼は、シイチャン・・・。この学校の朝学組の生徒さん
たしか、そう誰かに終司と呼ばれてたのを聞いた覚えがある。

「食ってろ。水汲んできてやるから」

シイチャンはいつも我らに優しい。人によっては、そっ気ない
でも、別にイジワルするわけじゃない。ただ、ちょっとたぶん
素直になれないだけなんだと思う。・・・たぶん

「ほら、詰らせるなよ」

夕飯を半分平らげた頃、シイチャンは小さなカップに水を
入れて戻ってきた。水を飲んでシイチャンの足に掏り寄ると
首辺りを撫でてくれる、我の喉は自然とゴロゴロ鳴っていた。

「柊。やっぱり、ここに居たね。予鈴鳴ったよ」

次の授業の教科書だろう、それを2人分程、持って
シイチャンと同じ制服を着た生徒が走ってくる。

「あぁ...今行く。じゃあな、キン」
「バイバイ、キンチャン」

いつも、シイチャンを迎えに来てくれる、彼には感謝している
これで、毎回の遅刻の数が嘘のように減っていったのだから
撫でることになれてないのか、我の頭をポンポンと撫でていく
手には、少し苦手意識があるけど、悪い奴じゃないと思うから
今度、彼の名前を猫仲間の誰かに聞いてみようかな。

だって、せっかくのシイチャンの友達だから・・・。

2002年05月09日(木)



  硝子の心@鳥羽

ここは、屋上にある空中庭園。

少年達は我先へと展望台へ繋がる階段を駆け上がってゆく
そんな群に混じれない、ぼくは、クラスメイトの暁生と
2人で庭園内のカフェでお茶していた。
ギャアギャアと騒ぎ立てる生徒達に目をやると、その間を
スルリと猫のように2人の少年が軽く交して走って上がる
のが見えた。

"・・・月みたいだ。"

突然そう呟いたら、隣に居た暁生が怪訝そうな顔でぼくを
見た、さらさらと伸ばされ横手に1つに束ねられた金色の
長い髪は一見すると、少女の様な印象を受けるのに近くで
見ると、なぜかそんな気は失せて少年的感覚が彼に付き
纏っている。

「あぁ...あいつ。宇宙じゃんか」
「ソ・・ラ・・・?」
「そ。珍しい名前だから覚えてたってのもあるけど
あいつって、朝学組の貴公子の貴重なお友達だからな」

朝学組の貴公子?・・・あぁ...終司のことか、彼の言動は
いつも周囲の生徒達の反感を買っている。何が問題か?
あの嫌味の含んだ言葉と棘のある毒舌な言い回しだろう。

「貴公子様と友達なんて、どうゆう神経してんだろうな?」

答えを求められ少し苦笑する、言葉を濁すので精一杯だ。

"ぼくに答えなんて求めないで"

何も返せないから、他人同士の比較対象の違いなんて
そんなの、わからないんだ。自分自身が誰かの間でその
比較に入っているかもしれない、このぼくの足を見て
誰かが…きっと、そんな風に考えているのかもしれない。

気持ちの上での裏切り、たぶん1番近くの暁生にさえ
それは何も変わらない。呆れる程、なんて心の寂しい
人間なんだと思った。

2002年05月08日(水)



  オレンヂ@晴臣

「だからね、僕は本当はオレンヂが嫌いなんだ。」

ここは太陽の間、キミはオレンヂにキスしながら
笑いながらそう言う、この言葉に何と不釣合いな
綺麗な笑みなんだろう。

「味はスキなんだけどサ」

ポケットから取り出した果物ナイフで林檎の様に器用に
皮むきをはじめながら、クスクスと零れ出る声にボクは
目を細めて声を返した。

「宇宙?太陽はオレンジ色なんてしてないよ」

手を動かす事をやめず、チラリと目線だけボクに返す。

「太陽が唯一、赤くなるのは夕方だけだし」

・・・言わなきゃよかった。陽の光を浴びれない宇宙は
本当の太陽を何も知らないのに、こんなこと言ったら夢が
なくなっちゃうよね・・・

「んー。らしいね?でも、僕だけそう信じてればいいよ」

真顔でキミはそう言ってたかと思うと、フ、と目を閉じて
ボクの方に振りかえって軽く微笑んだ。

「晴臣、半分食べる?」

オレンヂの太陽は出てないけど、窓から見えるレモン色の
月は宇宙にとても優しくて、ボクに差し出してくれる
その手がとても嬉しく思えた。

「うん、食べる♪にしても、器用にむけたね?」


2002年05月07日(火)



  オレンヂ@宇宙

気づいたら、目の前の世界は真っ白な光に包まれてた。

あの日、にいさん達を追いかけて出たベランダ
いつもなら、窓に僕より高い柵がかかって・・・
でも、その日は何もかかっていなくて
にいさんの背中目掛けて、思いきり飛び出していた。

遊んで欲しくて、ぎゅっ。って思いきし抱きついたら
驚いた顔で、2人の兄は僕を見てた。

「宇宙!」

え?何?どうしたの?そう思って、僕は上を見上げて
とても眩しいオレンヂ色の玉を見た、白い雲も青い空も
見た、筈だった。

「おにいちゃ・・・」『あれ、なぁに』

声にする前に体全体が熱くなって、世界が真っ白になった。

起きたら、身体中がヒリヒリしてすごく痛かった。
どうしてかな?って上手く動かない首を一生懸命動かし
周囲を見たら、カーテンで光が遮断された部屋に居た。

「宇宙・・・」

横から、おかあさんに涙でいっぱいにした顔でぎゅっ。と
抱きつかれて、僕はちょっと痛かったけど、でもすごく
悪いことをしたような気分になって、おかあさんにずっと
『ゴメンナサイ』と何度も謝っていた。

あのオレンヂ色の玉はなぁに?とはとてもじゃないけど
聞けなかった、僕はあれが錯覚じゃない本物の太陽だって
いつまでも信じてるつもりだけどね。

こんなこと言ったら、おかあさんはまた泣いちゃうのかも
しれないけど、いつかもう1度あの太陽を見上げたい。

今度は・・・ちゃんと全部感じ取れるように・・・


2002年05月06日(月)
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