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2004年01月31日(土) 下らないシーン

「自動販売機が、自動じゃなくて手動だったらどうする?」

「どういう意味?」

「中に人が入ってて、その人の気分で決められちゃう販売機」

「はぁ?そんなの絶対あり得ねーよ!」

「でも販売機でさ、たまにミステリーゾーンとかあってさ何が出るか分からないヤツ
あるでしょ?手動販売機、面白いって絶対!」

「でもさ、どうしてもコーヒー飲みたい時にコーラ出てきたら嫌だろ?」

「私、コーヒー飲まないもん!」

「でも、俺はコーヒー飲みたいの!」

「我慢してコーラ飲んで!」

「そしたら誰も買わないだろ?」

「懸賞付きにすればいーのよ!ハワイ旅行とかさ!」

「…でもな…どうしてもコーヒー飲みたいんだけど…」

「どうしてもコーラ飲んで!」

「…まあ、それは我慢する事にして、タバコの自販機だったら嫌だろ?」

「私、吸わないから知らない!」

「…あ、そう…もう何でも有りだな」

「あと、お釣りをわざと多くしたり、少なくしたりするのも面白くない?千円札入れて、ジュース買うでしょ?それからお釣り取るけど、大体お釣りなんかちゃんと見る人いないでしょ?だから少なくしても分からないんじゃない?」

「それは絶対誰も買わないよ!」

「でも手動販売機に男の人が入ってて、可愛い人が千円札入れたらお釣り五千円札出てきたらいいじゃん!」

「でも…君がそーでは…」

「何か言った?」

「いや、何も」

「絶対流行ると思うんだけどな、手動販売機」

「……そうだね」



2004年01月30日(金) 世界はいつも。

「…淋しい」
 夜中の3時、電話の向こう側で話す女の1言目がこれだ。

「…私なんていても、いなくてもイイ存在だよ。死にたいよ…。」
 夜中の3時2分、沈黙を破って出た2言目がこれだ。

月の光を無視して、携帯電話のディスプレイは光り輝いている。闇の中を照らす懐中電灯の様にも思えたし、明日の行方も分からない闇の中をさまよう少女の様な電話越しの女の事を思った。意外と冷静に女の話しを聞けている自分はそんな光を綺麗だな、と思いつつ灰皿に埋もれた吸殻の中からまだ吸えそうなものを選んで慎重に火を点けた。シケモクは体に悪いと良く聞くが、この電話の内容よりはずっと体には良さそうだ。

「どうした、急に」
 タバコの不味さに気を取られていた時間の埋め合わせの為の言葉を1つ。

「だって…私…いてもいなくても…こんな薄情でどうしようもない女はいないほうがいいよ…」
 こういう話は真面目に聞いてはいけない事をいつから知ったのだろうか?扱いに慣れてしまった自分が悲しい。もっと相手の事を思ってちゃんと聞いてあげればいいのだろうけど、そこまで優しさを持ち合わせてない。それはそうと、一年前に別れた女からの突然の電話がこんな内容とは思ってみなかった…ついてないな。

「彼氏と上手く行ってないの?」
「なんて言うか、もう嫌だ。自分の身勝手さに嫌気がさしたの。誰もいらない。」
「皆、誰もが自分勝手で身勝手だよ。世界は自分中心で廻ってるんだから。まあ、特に君の場合は特に…自由が欲しいんだろ?」
 不味いタバコを消した。吸ってるうちに気持ち悪くなってきた、相乗効果って奴だ。机の上に目をやりタバコを探したが、全て空だった。ついてない時はとことんついてないらしい。途中で寝ない事を祈ろう。こういう話には慣れていても、夜には慣れていない。ディスプレイは光り続けている。朝まで導いてくれるのだろうか?

「…自由になりたい!でも一人は嫌だ!淋しくて死んじゃう。」
「お前はウサギか?」
 冗談か?と思い突っ込んだ。電話の向こう側で笑う声が微かに聞こえた。もう大丈夫だなと溜息を1つ付いた。付き合っていた当時も女は自由望んだ。連絡も滅多にしない。食事も月に2、3回。淋しがり屋だとは知らなかったが、常にどこかへ行っていたらしく、「お前の女は遊んでるらしいな」と何度も違う友人から聞かされていた。気にもしなかった、それで別れるきっかけもできたし、自分にとっても都合の良い事だ。安心して遊べる。…そんな事は当然女は知らない。僕が遊んでいる事も、女が遊んでいる事を僕が知っている事も。見ない振りをした、知らない振りをした。そんな二人でバランスが取れていた。別れは当然来るものだと意識しながら、来るものは来ると。それが一年前だったというだけも話で。知らない方が良い事も時にはある。

「もう大丈夫だろ?下らない事は言うなよ」
「うん、ありがとう」
「お前は自由が一番似合ってるよ、遊ぶ男だって幾らでもいるだろ?」
「あなたには言われたくないです。そのままそっくり返します」
「夜中の3時に電話をかけてきたと思ったら、死にたいなんて言う元彼女を優しくしてやったのは誰だい?今度かけて来る時はもっとマシなネタを期待してるよ」
「すみません、感謝してます、今度おごるから!」
「今すぐ、タバコをくれ!なくて困ってるんだ」
「止めたんじゃなかったっけ?」
「君と別れてから、また吸う様になったんだ」
「私のせい?」
「どうだろうね?」
「吸いすぎない様にね」
「余計なお世話だよ!」
「じゃあ、また。ありがとう」
 
一方的にかけてきて、一方的に切られた。こんなもんだろうと自由の女の事を思った。何の感情も湧かない。そこには役目を終えて命の切れた様に眠る携帯電話があるだけだった。
自己中心的に地球は廻る。廻ってきたら、一周したらどうなるのだろうか?それが年齢ならば少しずつ他人の事を思いやる気持ちになるのだろう。人間は少しずつ角が取れて丸くなると言うが、その通りなのだろう。年を取る事はそう言う事なのだろう。僕や電話をかけてきた女が少しずつ丸くなっているかは別として…。それでも1年前よりは丸みを帯びているのだろう、見えない程度だろうけど。

ゆっくりと東の空が明るくなり始めていた。今日は晴れそうだな。
僕は太陽の光を無視して眠りにつく。



2004年01月23日(金) 心の内では

また何か言ってる。
「ねえー、今度バーキンの新色でるんだって!!!」

―で?―
僕には興味も無ければ関心も無い、どーでもいい話で。何故か嬉しそうにこっちを見ながらコーヒーを飲んでいる彼女のタバコの吸い方が汚くて見たくない。煙を吐き出す時の口をだらしなく開けて吐く表情はどうにかならないものかと。最悪だ。灰皿にタバコをり置き放しにしてトイレへ行く神経も分からない。自分の事より他人の事考えてくれよ。そんな心の中で一人で言う僕に対し、何も知らない彼女は続けた。

「バーキンってどうしてあんなに高いか知ってる?」

―知る訳ねーし、知りたくもねーよ―
だから興味ないんだって、つまんない話は。得意話も自慢話も君の話は聞きたくないんだよ。

「バーキン作れる職人さんって世界中にほんの少ししかいないんだって。しかもその職人さんの工房のマークが付けられるから貴重で高いんだよ!」
タバコを消してすぐにヴィトンのシガレットケースから一本マルボロメンソールを取り出した。タバコに火をつける時、思いきり吸うため頬がこけて見えるのもみっともない。

―君はいつもそのシガレットケースしか持って来ないじゃん、いらねーだろ!そもそもそのコーヒー代は誰が払うんだよ!ろくに財布も持ってないのに、バーキン、バーキン五月蝿いんだよ!そんなもんより財布あげるよ、がま口の。そいつに少しの小銭くらい入れといて、自分のコーヒー代くらい払う奴に育てたいね―

「人気の色は茶色と黒と赤なんだよー!この間店に入ったらダイヤが散りばめられてるバーキンがあってね、ちょー欲しかった!値段書いてなかったけど、車一台買えちゃうくらいの値段じゃないかな?」

―だから?朝から何回言ってるんだろ?興味ないって言ってるでしょ!―

「ねえー聞いてるの?さっきから私ばっか話してるけど。」
不意を付かれるとはまさにこの事で「興味ないから、知らない」と言えたら楽なんだろうけど、気が弱いを売りにこれまで生きてきた僕は
「そんなに欲しいんだね」
だってさ、自分でも呆れるほど嫌になる。と思っていたら目を輝かせてこっちを見ている女性を発見。
―誰?何勘違いしてんだ、コイツ。俺が買うわけ無いだろ!がま口買ってやるって―

でも、僕は
「茶色と黒と赤、どれが欲しい?」
言った後に気が付いた。
―完全にあっちペースじゃん!何言ってんだろ、自分。もしかしてバカがうつったか?―

相変わらずバーキンを買ってもらえると思っている少女漫画のような目をさせた彼女はこう言う。
「全部欲しい!全部手に入れるまで結婚しないし、子供もいらない。だって金かかるでしょ!」
―ふぅーん、それはそれは。―

「買ってもらえばいいじゃん!」
「買ってくれるの?」
―な、訳ないじゃん!興味無いって言ってるだろ!見てみろよ俺の灰皿を。さっき買った煙草がもう半分もねーよ、この吸殻の数を見てみろよ、つまんないからタバコばっかり吸ってるんだよ!―

ブランド物で愛が計れるなら僕は一生愛なんか出来ないや。誰も愛せないや。

「バーキン貯金でも作ろうかなって思ってるんだ!」
―死ぬまでやってて下さい。―



2004年01月21日(水)

雨に打たれている葉を見ていた。
窓から見る雨の粒は容赦無く、葉を打ちつけた。
―いつかは晴れてくれるだろうか?―

地面をゆっくり濡らして、コンクリートの色を変える。
雨粒が葉にあたる音が強くなって、傘を差している人に意地悪をする。
―それでも太陽は昇ってくれるだろうか?―

車が水溜りの上を走って水飛沫をあげた。ワイパーの動きが少し早くなった。
運転手は前が見えずらそうに、少し腰をあげた。水の中をかき分けるように、まるで平泳ぎをやって見せるかのように、ワイパーは雨の中を泳いだ。
―いつになったらゴールにつくのだろうか?―

濃くなったコンクリートの上を皆急ぐように歩いていく。
ズボンの裾が濡れない様に、肩に雨粒が乗っからない様に。傘は様々な色をして、歩いていく人たちの流れに沿って踊っている。晴れを祈るようにして。
―想いを浮かべて、そっと水溜りに落とそうか?―

願いを雨によせて、流してみた。
いつかは叶うだろうか?虹の麓に行ける夢は。
いつかは、いつかは。




2004年01月19日(月) 月日

月日が過ぎてしまった。しまったという言い方はおかしい。
言うならば、気付けば年を取って、周りの環境にもすっかり慣れてしまったと言った所だろうか。
広島から今の場所へ移り住んでから10年が経とうとしている。すっかりこっちの人間になってしまった。都会を知ってしまった以上、もう戻ることはないだろうし広島に帰ったときに思った
「この場所は僕にとっての基盤で僕を作ってくれた場所、でも僕が生きて行く場所ではない」
が、はっきりと月日を感じさせてくれる。
と、考えたのも見てくれたら分かるようにBBSに書きこみしてくれた旧友が、まだ僕のことを覚えててくれていて、このページの存在を知って書いてくれた。とはいえ10年ぶり。旧友の彼女も書きこむには相当なためらいがあっただろうし、勇気もいただろう。それでも「元気?」と聞いてくれた事に僕は素直に嬉しかった。

久しぶりに小学校の卒業アルバムを見た。幼い顔をした自分に笑ってしまった。でもそれを見ている年のとった自分にも笑えてしまった。ただただ、懐かしいという想いだ。幸せだった思う。辛いなんてひとつもなかった。
自分の小学生時代はとても好きだ。とてつもなく大きな夢を見れた。本当に叶うと信じて疑わなかったし、その努力も惜しみなくしていた。夢は叶うものだと、努力は報われるものだと。可能性に満ちた日々を送っていた。
だからと言って今現在を悲観するでもなく、卑下する訳でもなく、ただ懐かしんでいる、良き思い出として。
思い出なんかはすぐ忘れてしまうけど、楽しかった事はいつまでも心のどこかに潜んでいて、ふと思い出したときに「よかった」って言えるような、暖かいモノだ。僕の少年時代は恵まれてたなって。

昔の仲間に会いたくなった。
遠い街から、
「みんな、元気にしてる?」
声をあげてみた。



2004年01月18日(日) 日差しに抱かれ。

「どうかな?僕が死んだら」
ベッドの中の君が少しふくれた。太陽が高く昇りそうな日だった。カーテンの裏側で街は動き始めていた。風が吹いてるかもしれない。音は聞こえない。AFNから陽気なディスクジョッキーがおはようの挨拶をしている、バックミュージックはスティービー・ワンダーだった。
「死んでも何も変わらないよ」
背中を向けていた彼女はこっちを向いた、上目遣いをして。二人向き合った、蝶番の様に。どこからか忘れられた歌を思い出す様に不思議な顔をした僕を見て彼女は舌をだして、
「死んじゃえ!」
何て言うから腰に手を伸ばしてくすぐった。そして、
「肉がついたかな?」
何て言ったら、腹に一発重いパンチが。
「ウッ」
となった僕に
「やっぱり死んじゃえ!」
重い一言?

優しい日差しがカーテンを抜けてベッドの上まで来ては僕らを包んでくれた。窓を開けてからゆっくりと朝食を取ろう。その後、また死んだふりでもしてみようか。



2004年01月13日(火) 女はそこで

緩めのカーブを曲がると女はタバコに目を移した。
口先にセブンスターを加えて100円ライターで火を点ける。
一口目は吸わずに口の中で転がしてから吐き出す。いつもより白い煙が車内を取り巻く。女のタバコを吸うときの癖だ。一口目は吸わない、ふかす。三口目を吸った瞬間に赤信号で止められた。
―いつもの山手通り―
朝の、山手通り。徐々にビルの隙間から太陽が顔を出し、朝が始まる。流れる景色は太陽の光を逃げるようにして加速する。タバコの灰が落ちる寸前に灰皿へ落とす。これも女の癖。
カーラジオを付けると知らない音楽が流れる。朝にはふさわしい曲、静かな曲。これから起きる人をゆっくり目覚めさせてくれるような優しい曲。メロディーラインをなぞれば夜まで揺れていることができる曲。

次の赤信号までブレーキをかけない。女はそう決めた。タバコを消して、窓を開けた。風に揺られて走る景色は5秒後には太陽の光と交錯し、朝を迎える。
車は夜と朝をくぐって。



2004年01月01日(木) 手袋

「寒いから」
と女は無理矢理、男のポケットに手を入れた。
−自分のに入れたらいいのに−
と男は思った。
手を伸ばして男のポケットの中に突っ込み女の右手はやけに冷たい。その冷たさにびっくりした男はぎゅっと女の右手を握り締めた。
「この冬は左手だけ、手袋買おうかな!」
「左手だけなんて売ってないでしょ?」
「じゃあ、手袋買うから右手はあげるよ」
「左手は?」
「私がいるでしょ!」

そういう口実を作ると手を繋ぎやすいらしい。冬の特権だ。吐く息が白い季節、木々はやせ細り淋しく冷たい冬の風にただ耐えている、じっと春を待つようにして。そんな北風は女の左手を冷たくしたが、女の右手と男の左手をしっかり結ばせてくれる幸せな風となった。

「寒いからどこか入ろうか?」
男は意地悪心で言ってみた。
「もう少し歩いていたいから、後で。」
女は真面目に答えた。男が何を思っているか何て承知の上で。二人は笑った。
その笑顔は幸せの象徴だった。繋いだ手は離さないようにしっかり握った。

冬のラブストーリー。街にはいくつも溢れている。
普通のラブソング、ありふれたラブソング。
あと少し先まで。


 < past  INDEX  will>


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