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march forward.
りりかの独り言。

2002年10月31日(木)

明け方、夢を見た。



あたしはあいつの車の助手席に座ってて。

「肺が痛いの」と言っている。

あいつは、運転しながら。

「あそう」

とだけ言う。

あたしは、悲しくなって。

「痛いんだよ」を連発する。

あいつは、それでも「分かったよ」だけ言う。

「ねぇ、頭なでて」

あたしが頼むと、めんどくさそうに、頭をなでられる。

あたしは、そのてを払いのけて、走っている車から飛び降りるんだけど。



その辺から記憶があやふやで、余り覚えてないけど、泣いていた。






目を覚ましたら、本当に頬が濡れてた。

きっと、熱のせいもあるんだろうけど。

夢の中にいたあいつの行動は、昔のだんな様そのまんま。

ごっちゃになっちゃったのか、そう変わってしまうあいつが怖いのか。




「おはよう」

あたしがボーっとして布団の上で座ってたら、あいつが声を掛けてきた。

そか、あいつ、泊まったんだ・・・と、現実に返る。

おでこに張ってあった熱さまシートをはがして、手をあててくる。

「まだ、ちょっと熱い気がするなぁ。計ってみなよ」

熱は37度。

平熱が低いあたしにとって、かなり高目と言える。

「仕事は何時から?」

「八時から・・・」

「あと3時間かぁ。下がらないだろうなぁ」

「平気、昨日は38度あっても働いたんだから」

「変わり、いないの?」

「今日は月末だから、棚卸があるから、無理なんだ」




暖かいお茶を入れてくれた。

りんごをおろしてくれた。

「はい、あーん」

「やだやだ、自分で食べるよ、恥ずかしい」





あたしは出勤の用意して、あいつは学校の用意して。

お互いに自分の車に乗って、別れた。






仕事を何とかこなして。

帰宅したのは夕方六時。

吐き気が凄かった。

昨日は、吐き気なんかなかったのに。






部屋ですぐ布団に入って、明日のためにも、と寝る事にした。

でも、吐き気が治まらず、何度もトイレに行ったりした。

その間、あいつから電話もメールも来てたけど、出る事も見る事もする気力がなく。

はぁはぁいいながら、寝込んでた。





そして、また、何だか忘れちゃったけど、嫌な夢見て。

起きて、吐いて、寝て。

そんな繰りかえしのとき、チャイムが鳴った。

ちょうど、トイレで吐いてきた後だったから、インターホンに出れた。

出て見たら、いっしょに働いている友達で。

「りりかー!なんでこんなになるまで一人でいるのよー!!」とか言われて。

「電話したり、そう言う気力がなかった・・・」と言って、また寝た。





また吐き気で目がさめて。

友達は帰ってて、あいつがいた。

友達は主婦だから、遅くまでいられないから、変わりに呼ばれたらしい。

トイレで背中をさすってもらって、吐く姿を見られるなんて、情けないなぁとか思って。




「明日、行くの?」

「行く」

「俺運転するから。連れて行くから」

「いいよ・・・」

「いや、無理だよ、自力で行くのは。俺はりりかさんをおろしたら、どこかで待って時間潰すから」

「いいってば・・・」

「だめ。絶対に、だめ」



言い返す気力がないから、うんうん、とうなずいて、布団に入った。




ずっと、頭をなでられてた。

それから、吐き気が来なくなった。





そして見た夢は。

子供たちが、学芸会でなんか演じてて、あたしはあいつと笑いながら拍手している夢だった。



2002年10月30日(水) 発熱

昨日、寒かったのに、夜まで公園になんかいたせいか。

熱を出してしまった。

朝から38度超えてる。

でも、仕事は休めないし・・・




朝8時から、夜9時まで働いて。

帰宅したときには、39度を超えてた。

足の関節は痛くて、寝てても辛かった。




一人暮らしで具合悪くなると、寂しいから。


そう言って、あいつが来てくれた。

救急でやっている病院に連れて行ってくれて。

ずっと、傍にいてくれた。

あたしは、寝てばかりなんだけど。

うとうとしながら、明日はまた朝から仕事だよ、休めないんだよーって話したら、「分かった分かった」と言って、頭をなでてくれてた事は、覚えてる。





夜中に起きたら、あいつはあたしの足元で、熟睡してた。

あたしの熱はまだ38度台だったけど、かなり楽になったように感じた。

あいつに毛布をかけてから、ウーロン茶を飲んだ。






愛してて。

愛されてて。

あたしは、幸せだなと思う。

そして、幸せな事は、長く続かない事も知ってる。



小さいころから、あたしは。

少しの幸せを手に入れても、すぐに消える事を知ってた。

そして、大人になり、自分から壊す事を知った。

誰かに壊されるのなら、壊したほうがいい。自ら。

その方が、楽だ。

そう、考えるようになった。



あたしは、この幸せな気持ちを、壊したいと思う日が来るのだろうか。

本当の幸せって、なんなんだろう。

あたしは、考える。



考えながら、熱い体であいつにくっついて見る。

「起きちゃったの?」

と、あいつも起きる。

あたしの頭をなでる。

おでこをさわって、「熱あるなぁ、だいぶ」と言う。

「早く布団に入って」といいながら、おでこにキスをする。

あたしが布団に入った事を確認すると、横に座って、頭をなでる。

あたしは、見てもないくせに「怖い夢見たの」とか言う。心配して欲しいから。

「どんな?」「忘れちゃったけど」「そか、もう平気だよ。傍にいるんだからね」

また頭をなでてくれる。




心地のいい、幸せ。



こんな幸せが、長く続けばいいな、と思う。

壊れなければいいな、と思う。

壊したくないな、と思う。



ボーっとした頭で、そんな風に考える。



2002年10月29日(火) 夕焼け

朝、病院(今日は婦人科の検査の日)に行く前、だんな様から電話があった。

金曜日の事で。

「子供たちに話し掛けないなら、来てもいい。ただ、子供には前に話した通り、ママは仕事だと言うから、来なかった事にして」


それでもいいと思った。

子供たちの頑張る姿をみたいだけだから。

もちろん、話したりもしたいけど。

それだけでも、嬉しい。





なんて、強がったけど、かなり、かなーり、凹んだ。

やっぱり、会って話して、感想とかいいたいからね。





病院では、「生理が来なきゃねー」といつもどおりの検査結果。





そして、病院が終わり、一人でランチしようと思ってたら、あいつから電話。

「病院、どうだった?」

「変わりない」

「そっかー。今日は午後が休講になったから、ランチ一緒にしてもいい?」

「うん、いいよ、場所はー・・・」




少し待って、あいつが来た。

ランチを一緒に食べる。

余り食欲なんかなくて、ほとんど食べてもらったんだけど。


「ねぇ。なんかあったでしょ」

「なんで?」

「なんか、おかしい。病院で何か言われた?」

「言われてないよ、いつもどおり」

「じゃー、どうした?」

「何もないって!ねー、天気がいいから、どこかに行きたいね」

「そうだねー。じゃー、ドライブ行こうか」




車を走らせて、あてもなく、出かける。

ガソリン入れなきゃ、と言うあいつに、どこまで持つか、止まるまで走る?とか提案したり。(もちろん、却下)





「そうだ、夕焼け見ようよ」

あいつが言う。

「どこの?」

「前に行った、夜景の綺麗な公園の。病院の後だから、歩くの辛い?」

「ううん、見に行きたい」





車停めて、歩く。

ちょっと急な坂で。

前に来たときみたいに、手をつないで歩く。



まだ、時間的に夕焼けじゃなかった。

青空。

芝生の上で、ボーっとする。

犬が走ってて、その犬を子供が追いかけていた。

遠くで、お母さんらしき人が、笑顔で見ている。

あたしも、ああいう笑顔してたのかなと、ふと、ちょっと前を思い出す。



「学芸会があってね。子供が招待状をくれたの」

「よかったじゃん!」

「でもね・・・」



話し始める。

だんな様に言われた事。


最初はやっぱりだめって言われて、でも、子供に会わないならいいよって言われて。

嬉しいんだけど、悲しい。

自分の子供なのにね。

遠くから見るだけなんだって。

今、だんな様と子供たちは、あたしがいない生活に慣れようとしているから。

だから、会う事はだめなんだ。

子供たちを手放したのは、あたしだし。

それがいいと思ってした事なんだから。

だから、あたしにあわせないって言う、だんな様の気持ちも、分かるんだ。

あたしが逆の立場だったら。

電話と手紙だって、拒否したかもしれない。

それくらい、ひどい事、しちゃったんだから。




「だから、それだけでも、感謝しなきゃ、なんだよね」


あいつは、黙って、聞いてたかと思ったら。

涙ぐんでて。

「ごめん、ごめんね、りりかさん」

って、鼻声で言った。

「謝らないでよ、きみのせいじゃない」

「もっと、俺がしっかりしてたら・・ね」

「そんなことないよ、一番いいと思った結果なの。ね」





やっと、夕焼けが出て来て。

あたしたちは、黙って見てて。

だんだん、夕焼けの色と夜の色が交わって来て。

夜が来る。





明けない夜はない。




悲しい事ばかりじゃない。

きっと、これから、楽しい事だってたくさんある。

だから、前向きに、ね。





君が手をつないでくれる限り。

あたしは、幸せでいられるんだから。



2002年10月28日(月) 慣れない事

「資格取る事にした」



いきなりのメール。




「なんの?」

「うんとね・・・」




あたしは聞いた事がない資格だった。

でも、国家資格で、法学部のあいつには有利らしくて。



「そか、頑張って」





あたしも、資格を取るため、今学校にかよっている。

もう二年生。

再来年の3月の試験に受かったら、資格を手にする。

でも、難しいらしい。

だから、暇を見つけては、教科書を読むように、習慣付けている。




「お互いに、受かるといいね」

「うん、頑張ろうか」




励ましあう。

こういうの、すごくいいな、と感じる。

あたしは、こうやって、励ましあうって言うの。

本当に、素敵だと思う。




あたしが目指すもの、がんばっている事。

そういう事を、興味示さなかっただんな様。

だから、あたしがそう言う話しても、テレビを見ながら「ふーん」で終わる。

または、返事もなかったり。




話を聞いてくれる事。

応援してくれる事。




こんな、当たり前の事を、あたしは慣れてない。

してもらう事に、慣れてない。

だから、あたしは、たまに照れてしまう。




ゆっくり頷きながら、目を見て、あたしの話をずっと聞いてくれる。

あたしがこうしたい、ああしたいって事、「頑張ろうね」って言ってくれる。



そして、あたしは照れる。

目をそらしてしまって、「頑張れますー」なんて言ってしまって。

あいつには、そういうあたしの気持ちが見えているみたいに。

「そかそか、頑張れるんだね!」ってあたしの顔を覗き込みながら、頭をなでられる。





居心地、いいな。

凄く思う。

あたしもあなたにとって、そんな、居心地のいい場所でありますように。



早く、そういう事に慣れて、あたしからも自然に出来るように。




なりたい、って思う。



2002年10月27日(日) 会える?会えない?

子供たちから、あたしに招待状が来たのは、数日前。



「学芸会があります。来てください」




学芸会のプログラムと一緒に、手紙。

「ママも、見に来てください」


プログラムには、自分たちが出る劇に丸印。

本当?

あたし、行ってもいいの・・?





それ見たとき、だんな様に電話した。

だんな様は、子供たちがそんな招待状を送った事を、知らなかった。

あたしはお願いした。


「子供たちが、来てって言っているの。だから、お願い」



だんな様はしばらくため息ついたり、うなったり。


そして言った。




「分かった。いいよ」





日付は11月1日だった。

あたしは、仕事は夜からだったから、ちょうどよかったと、ホッとした。

嬉しくて、嬉しくて。

「ママ、行くからね」と手紙書いたのに、電話もした。









でも、今日、だんな様から電話が来た。



「やっぱり、来ないで欲しい」

「なんで???」

「まだ、会わせたくない」

「だって、子供たちが来てって・・・」

「子供には、ママは仕事だからと言ったから」

「仕事は夜からだから、間に合う!行きたいの」

「そういう問題じゃないだろ。会わせたくないの」




一方的に言われて。

あたしは、悔しくて。

「絶対に行くから!」と言った。







当分会えないと思っていた。


けど、会える事になった。


だから、凄く嬉しくて、喜んで。


でも、やっぱり会うなと言われて。

だんな様がいってる事も、もちろん分かるけど。

でも、どうしても行きたい。

どうしても、会いたい。






あたしは、行くつもり。

絶対。

約束したんだから。

絶対に行く。



2002年10月26日(土) まず。

今日は11月2日。

ずいぶん、日記をサボってしまいました。

と言うか、書けない状態でした。





ゆっくり、この一週間の事、埋めて行こうと思います。





11月2日AM8:45.りりか。









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お父さんと会って。

あたしたちに、正確にはあたしに。

ちょっとずつ、変化があった。



結婚しなきゃならない。



あいつのお父さんは、そういった。

あたしに対する、責任で。



結婚する気はない。



あたしは、そういった。

今は、全くない。

怖いと言うか。

結婚をまたしても、うまく行くのかと言う不安がある。

あいつとなら、平気なんだと言う気持ちもある。

でも、うまく行かないかもしれない、と言う不安の方がはるかに大きい。






あたしは、そう言う気持ち、言ったんだ。

話し合った。

あいつは、「分かってる」と言った。

自分だって、まだ就職も決まって無いし、そんな余裕(結婚を考える事)はないよっていった。



でも、それは、あたしに対する優しさ。

ゆっくり考えてくれていいよって、思ってくれてる。

あたしが、結婚したいと思ったとき、結婚してくれたらいいよって。

この不安を取り除くために。





「君が、卒業したら、まず、一緒に暮らそうか」と、あたしからいった。





予想通り、あいつはおおはしゃぎで。

喜んで、喜んで。

「でも、その前に就職ね」

という、あたしの言葉も聞こえないんじゃないかっていうくらいに、喜んで。





同棲経験は、無いに等しい、あたし。

同棲と結婚は違うと思う。

でも、「一緒に生活する」ということに対しては、同じ。




生活していくにつれて、見えて無かった部分、見たくなかった部分、見えてくる。

そして、あいつがあたしを嫌になるか。

あたしがあいつを嫌になるか。

または、うまく行くのか。

先は全く分からないけど。

あたしは、不安が現実になるのか。

不安がなくなるのか。



知りたいと思ったから。



2002年10月25日(金) お父さんとご対面・2

食事が来て、それでもあたしとお父さんの会話は、最初の挨拶のみ。

あいつは、何とかあたしとお父さんが会話できるような感じにもって行こうと言う努力はしているのだけど、なんとなくタイミングがずれたりしている。


料理の味なんか、分かるはずもなく。

口に入れて飲み込む、と言う行為だけを淡々とこなす感じ。




料理が終わって、食後のコーヒーが来た。(あたしはコーヒー飲めないので、紅茶)

このまま、会話はもう無しなのかな、それはそれで・・・どうなんだ?とか、考えてた。



「りりかさん」

いきなり、お父さんに呼ばれたあたしは、「はい!」って、声が裏返りながら返事した。

「いろいろ、ありましたね。大変でしたね」

「あ・・・はい・・・でも、自分でしたことですし・・・」

「うちのHも、関わっていると聞いて、正直胸が痛くなりました」

「・・・すいません」

「いえ、あなたが謝る事ではないと思うのです。あなたが謝るべき人は、他にいますよね?」

「・・・はい」

「うちのバカ息子は、まだまだバカで子供です。善悪も人としての道も、教えてきたつもりでしたが、出来ていないと言う事に気づきました。あなたのお子さんや旦那さんには、本当に申し訳ないと思っています」




あたしは、何だか、胸が苦しくなった。

泣きそうだった。


黙ってたあいつが、言った。

「俺だって、思っているよ。申し訳ないって」

「思っているだけじゃ、だめだろ」

「じゃー、どうすんの?」

あいつの口調が、明らかにむっとしてた。

あたしは、はらはらした。



「もう、引き返せないところまで、あなたは来てしまいました。もっと早く、あなたに会って、止めるべきでした」


離婚を・・・って、言いたいんだなぁって、あたしは黙ったまま、聞いてた。



「あなたに対しての責任は、取らせるつもりです。こうして、あなたの人生をめちゃくちゃにした。そして、ちゃんとお子さんや旦那さんにもなにかしら・・・」


責任?

なにかしら?



何?



「責任で、一緒にいるんじゃないから。それと、子供たちや旦那さんに謝罪して行くのも、俺の役目なんで」

「お前に何が出来るんだよ?」

「今すぐは無理でも、いずれはって事だよ」

「お前は一生、りりかさんとりりかさんのお子さんたちに償って行かなきゃいけないんだよ?」




あたしは、「ちょっと待ってください」と言った。






あたしは、自分の考えを、どんどんどんどん、話しだした。



あたしは、結婚するとか考えていない事。

そして、もしなんかの理由で別れがあたしたちに来たとしても、それはそれで、仕方ないと思うと言う事。

あたしの離婚は、彼だけが理由じゃないと言う事。

子供たちに対しては、今後あたしの出来るだけの事をしていくと言う事。

それに対して、彼にどうにかして欲しいとか、思っていないと言う事。




何より。



「責任」と言う形で、一緒にいて欲しくはないと言う事。






言っちゃってから、生意気だなって思った。自分の事ながら。

でも、全部本音だ。

あたしは、あいつに対して、精神的には頼ろうと思っているけど、金銭面とかでは、全く考えてない。

だんな様や子供たちにも、あたしが出来る事をして行こうと思っている。

だから、責任を取る、とか、何かしらして行く、とか、あたしは嫌。

そして、だんな様や子供たちも、そんなの望んでいないと思う。




「だから、あたしは、今のまま、お付き合いして行きたいと思っているだけなんです。そして、それを理解していただきたいんです」



全部言い終えたと同時に、なぜか勝手に涙が出た。

止まらなくなった。

きっと、全部言い終えて、緊張の糸が切れたんだろうと思う。

あいつが、あたしのカバンから、タオルを出して渡してくれた。


お父さんは、

「理解する事は、難しいです。でも、Hがこんなにも、あなたを思っている事は、見ててよく分かります。分かるからこそ、もっと普通に出会っていたらよかったのに、と、余計に胸が痛みます」

と言った。

そして、

「私が、あなたとHの事を、これからも付き合って行くのを何も言わないのは、さっきも言った通り、男としての責任を取らせたいから、だけです。あなたを幸せにしなきゃいけない責任が、こいつにはある。あなたやHの考えではそうじゃないかもしれない。でも、私は、そう言う考えです。許した、と言うわけではないと言う事を、覚えておいてください」





責任があるから、仕方無しに何も言わないでいる。




責任ってなんだろう。





考え出したら、分からない事ばっかりになった。

でも、あたしは、あたしの考えを変えない。

責任でいるくらいなら、あたしは、一緒にいたくない。

甘いかもしれないけど、そうなんだ。



責任が始まりで、一緒になったあたしとだんな様は。

こうして、終わってしまったんだから。



2002年10月24日(木) お父さんとご対面・1

ものすごく、そわそわしまくって。

あたしは、あいつの家に行った。

おとうさんは直接そのレストランに来ると言うから、あたしたちも車で向かう。




「格好、変じゃない?」

「変じゃないよ」

車の中で、何度も聞くあたし。

「本当はなんか変?」

「変じゃないってー」

あいつは苦笑い。





時間を止めて欲しい。

とまで、思ってしまう。

心臓が飛び出すんじゃないかって位に、ドキドキしているし、手は汗ばんでいる。

あいつが、運転しながらあたしの手を握る。

「うわ、珍しい、りりかさんが汗かいてる!」

明らかに楽しんでいる。

あたしは、もう言い返す元気も余裕もなく、黙り込む。

あいつの手があたしの頭に来る。

「平気だよ、俺が一緒にいるんだから」

よしよしされる。けど、いつもみたいに安心なんか出来ない。

逆に手を振り払って「髪の毛がぐちゃぐちゃになるからやめて!」とか言う。





レストラン到着。



「いつか、このお店来て見たいね」

とか、前に話してたけど、まさかこんな形で来るとは・・・



「お父さん、来てるかな?」

「まだじゃない?ついたら電話来るはずだから」


ちょっとだけ、ホッとする。

心の準備をする時間がちょっとだけあるって事か。

いきなりテーブルについて、これがお父さんです、とかなったら、やっぱり嫌だなって思っていたし。




あたしは、水をがぶ飲みして、お代わりして、また飲む。

「平気?トイレ行きたくなったりするよ?」

ああ!そうか、そんなの恥ずかしい!!!

「なら今行く」

と言ったと同時に着信。

「ついたって」

ト、トイレは・・・?

トイレから戻ったら、お父さんがいるとか、そんなの嫌なので、我慢しよう。

別に今すぐ行きたいわけでもないし。

けど、出しておくだけで違うかも・・・

なんで、水なんかがぶ飲みしちゃったんだ、あたしは!!!

で、なんで、こいつは水飲む前に「トイレに行きたくなっちゃうよ?」って言わないんだよ!!!

ああ・・・考えてたら、行きたくなったような感じもする・・・


「トイレ行ってくるの?」

「行かない!!!」

「怒鳴らなくてもいいじゃん・・・」

あたしが言い返そうとしたとき、男性が一人、入ってきた。

あ、あの人だ。直感的に分かった。

てか、今ついたって電話あって、今入ってきたんだから、この人だろう。




「父さん」

あいつが声掛けた。

やっぱり、今入ってきた男性がそうだった。


年齢は50代半ばとか聞いてたけど、もっと若く見えた。

そして、想像してたよりも優しそうに見えた。

優しそうに見えただけなのに、あたしはホッとした。




あたしは、立ち上がってあるいて来るお父さんを迎える。

そして、お父さんの足が止まるのを待って、挨拶をした。



「はじめまして。・・・○○りりかです」

危うく、だんな様の苗字を言いそうになってしまった。

まだ職場では手続きが終わってないので、タイムカードや給料明細はだんな様の姓のままなので、職場では名札や呼び名はだんな様の姓のまま。

手続きが終わり次第、あたしの職場での姓を変えようと思っているので。

まだ、旧姓を言うことに慣れていない。




「はじめまして、Hの父です」

あいつの声によく似た。

あいつのお父さんの声だった。



お父さんが席についたのを見て、あたしも座る。



少し、沈黙する。

隣のあいつを、チラッと見る。

あいつはメニューとか見てる・・・。

マジで、つねってやりたい、蹴ってやりたいと思う。



「飲むんでしょ?」

あいつが、お父さんに聞く。

「そうだな。帰りの事もあるし、余り飲まないほうがいいと思うけど」

「泊まって行けばいいじゃん、うちに」

「いや、帰るよ。うん」




あたしは黙っているだけ。

下ばかり見てた。





「りりかさんは?」

あいつがメニューを勧めながら言う。

「あ、あたしは、ほら、運転があるから」


いきなり声を掛けられて、ドキドキする。

飲まなくても、酔っている時と同じ位に、思考回路は回ってないから!

心の中で、切れてみたりする。






注文して、料理が運ばれて来るまでの間、あいつとお父さんは、飲みながら、普通に日常会話。

あたしがここにいる意味あるの?と思うくらいに、普通の会話。

たまにあいつに「ねぇ、どう思う?」とか聞かれて、「うん、そうだね」とか返す程度。



あたしと、お父さんが交わした会話は、最初の挨拶のみ。

・・・だけじゃ、済むはずないよね。



2002年10月23日(水) 落ち着かない一日

寝不足のため、体はふらふらしているのに、頭だけは妙に冴えてた。

ていうのも、明日の事があるから・・・

考えれば考えるほど、落ち着かない。


「本当に会わなきゃだめなの?」

「当たり前じゃん」


こんなメールのやり取りが何回か続く。




明日は仕事が夕方まであるから、それから会うと言う事になった。

場所はあいつの家の付近にある、ちょっと高級っぽいレストラン。(行ったことないけど)




帰宅してからは、服を何にするか悩む。

普通の格好でいいよ、とあいつは言うけど、普通って何?と訳が分からなくなる。



こうなったら、どうにでもなれ。

半ば投げやりになる。



でも、不安。


バツイチ、子持ち、年上。


普通に反対される事だらけだから。

でも、あいつとつきあって行く上で、仕方ない。

あたしは、あたしなりの考えをうまく話せるだろうか。



2002年10月22日(火) プレゼント・・・?

毎日ポストを見る。

子供から手紙が来る事が多くなって、ポストを開ける時のドキドキ感が好き。

来てないと、しんみりしちゃうんだけど。




子供からは来てなかったけど・・・

今日はなぜか、あいつから手紙が来ていた。

びっくりした。

この間会ったばかりなのに。




(一部抜粋)

秋も深まる中、りりかさんいかがお過ごしでしょうか?


いろいろな事があって、いろいろな事件があって、大変だったこの9ヶ月。

本当にお疲れさまでした。

そんなりりかさんに、プレゼントがありますので、これを読んだら、電話してください。






???

なんだろう?

あたしは電話してみた。

「プレゼントって何?」

「電話でプレゼントが何か言いたくないなぁ」

「君が電話しろってかいたんだろうよ?」

「そうだけどー。待ってるから、来てね」

「ええー!?今から???明日早いんですけど・・・」

「明日に持ち越す?気になって落ち着かないんじゃないのー?」


うわ、性格悪い!




「分かったよ、でも、余りいられないからね・・・明日仕事が・・・」

「あ!じゃ、俺がりりかさんの家に行く!」

「え?」

「待ってて!」




あたしは、あわてて部屋をかたす。

・・・と言っても、寝るだけに帰ってきているようなものだから、ほとんど汚れてないんだけど・・・

でも、洗濯物とかしまったりした。

掃除機を掛けているときに、チャイムがなった。

インターホンで出て見ると、「お届け物です」とかあいつが言ってた・・・





あいつはニヤニヤしながら入ってくる。

あたしは嫌な予感がした。



「何よ?」

「まぁまぁ、そんなに急かさないでよ。落ち着こうよ」

あいつは座って一服とかする。

お茶とか飲んでる。(持参品)

あたしはいらいらして来た。




「ねー。明日早いんだって!」

「分かってますよー」

とか言いつつ、またお茶を飲み始める。





「寝るよ、あたし、マジで」

「言いますってー」




木曜の夜、お父さんが出てくる。

もちろん、あいつの。

で、あたしに会うと言ってると言う。



「・・・どこが、プレゼントよ?」

「実は・・・」



ご両親は反対してたけど。

あたしが知らないところで、あいつはずっと話しあってきたらしい。

そして、そんな粘りに負けて。

会ってみたい、とお父さんが言い出した、らしい。



あいつの家は、お父さんが一家の大黒柱!と言う感じの、昔ながらの家みたいで。

お父さんの意見は絶対!って言う感じみたいで。

そのお父さんが、会ってみたい、と言い出した事は、かなり良い方向へ来たと、あいつは言う。



でも、もしかしたら、「別れてください」と言いに来るのかもしれない。




そう考えちゃって、怖くなった。

凄く不安になった。


そう言ってみたら。



「それはないよ。そんなに不安がらないで。平気だから」



んなこと言われても、やっぱり不安。

逃げ出せるものなら、逃げ出したい・・・

不安で不安で、あたしは眠れなくなった。

あいつが帰った後も、眠れなくて、困った。



明日、朝早いのに・・・


木曜、何着て行こう・・・



2002年10月21日(月) あたしは変わった

早朝から仕事だった。



今日は月曜っていう事もあって、なかなか忙しく。

あたしは、仕事に没頭してた。

そして、やっと取れた休み時間。

あたしは、来月の勤務シフト表を作りながらだから、休み時間ではないんだけど。



「あー、疲れたぁ。嫌になっちゃうなぁー・・・」

とか、バイトの主婦の人に愚痴ってた。



「りりかは、変わったね」

「何が?」

「なんていうか、いろいろ内面を見せてくれる」

「そうか?」

「うん、弱音を言うようになった。笑うようになった。それって、H君の影響なのかなぁ?」

「あたしはあたしだよ、変わってないよー」

「そりゃそうだけど。なんか、りりかは女っぽくなったっていうか、なんだか、人間っぽくなった気がする。感情を出してくれるようになった」









あたしは、すぐ弱音を口に出すようになった。

何でも、自分でやり遂げて見せる、と言う性格だったのが、誰かに助けを求めるようになった。



それは、いい事なんだろうし。

彼女も褒めてくれているのかもしれない。







「あたし、変わった?」

メールする、あいつに。

「いきなり何?」

そりゃ、そうだ。

「変わったのかなぁって思ったから」

「うーん。言われて見れば変わったかなぁ」

「どんなとこ?」

「強がらなくなったよね」










あたしは人前で泣くようになって。

あたしは人前で落ち込むようになった。

前なら、考えられない。



一人の時間に泣いたり。

一人の時間に落ち込んだり。

そう言うのがあたしだった。





だんな様は、泣いたり、凹んだりするあたしが嫌いだった。

「りりかはそんな弱い人間じゃないだろう」

よく言われた言葉。



だから、あたしは一人で夜中に泣く事を覚えて。

凹んだ事を一人で、考えて外には出さない事を覚えた。



夜中に泣いているあたしをたまに見ても。

知らん顔してた。

絶対に、声も掛けない。

あたしがそこにいないかのように、見なかった。




けど、あいつは、あたしが泣く前に気づく。

そして、「どうした?」って、声を掛ける。

「もっともっと、寄りかかっていいよ、嫌な事言ってみなよ」

って、あたしが泣き止むまで頭をなでる。

そういうのが、心地いいものなんだって、始めて知ったんだ。



人前で泣くこと、凹む事。


そういうのは、恥ずかしい事だと。

弱い、だめな人間がすることだと。

そう言う風にあたしは勝手に思ってきた。




でも。


決して、恥ずかしい事ではない。

だめな人間でもない。


人間だからこそ。

そういう感情を出すんだ。




そして、そういう感情の出し方を。


教えてくれて、ありがとうね。



2002年10月20日(日) これでよかったんだ

昼間、子供たちに手紙を書いた。

あたしは、今、子供たちと携帯で話すこと以外に、文通をしている。

ライラからは、絵とか、覚えたての文字とか数字とか、解読不可能な手紙なんだけど、凄く嬉しい。

次女は、テストの答案を送ってきたりする。

もともと勉強が出来る子だったけど、いつも100点のばかりだから、この間電話で「100点のだけ送ってるでしょ?」って言ったら、「うん・・・えへへ」と言ってた。

まったくー。でも、凄く嬉しい。

長女は手紙とたまに手紙を書いた空白の部分に絵を混ぜて来たり。

その長女の手紙で。


「もうすぐ、私の誕生日です。ママからはレターセットが欲しい。ママにいっぱい手紙が書けるように」



涙が出た。

山ほど買って送ろうと思って。

会って渡したいけど・・・。





その子供たちの手紙を持って、あいつの家に行った。

「ねぇ、これ読んでよ」


あいつは、ライラの読んで、笑ったりして、次女の答案見て「すげーな」と言ったりして、長女の手紙を読んで、「俺にも買わせて」と言った。




あたしの影響か、キティちゃん大好きな長女のために、2人でサンリオに行った。

これがかわいいね、あれもかわいいね。

ほとんどの種類を買ったと思う。


あと、スケート教室があるとか言ってたので、お泊まりなんだろうし、バスタオルと歯ブラシのセットも買った。





あいつの部屋であいつが夕飯を作ってくれている間に、あたしはまた手紙を書く。

書きながら、泣いてしまった。

いっぱいのレターセットの前で、悲しくなってしまった。

あたしたちをつなぐもの、携帯と手紙。

そんな現実が、悲しくなって、泣いてしまった。

自業自得のくせに。




あいつが横に来て、何にも言わないで、手をつないでくれた。

頭をよしよししてくれた。

あたしはそのまんま号泣してしまった。







これでよかったんだよ、何度も思おうとした。

あたしは、自分のために都合よく、生きて行こうとしてた人間なんだから、そんな人間に子供を見れるはずないって。

だから、これでよかったんだって、思うようにしてた。



でも、やっぱり、まるっきり後悔しないはずなんかないし。

心の中から、「これでよかったんだ」と思えるわけもない。





「いっぱい、泣いて、いっぱいりりかさんの悲しみを出してください。泣いた分、俺、笑顔補充するから」








あたしには、この人がいる。

いっぱいの愛情をあたしに惜しみなく注いでくれる、この人がいる。

だから、救われる。





これでよかったんだ。


いつか、心から、思えるように、なりたい。



2002年10月19日(土) 全部丸ごと受け止めて

ラブホの話はまた次回で。



今日は、お友達の日記で、すごくいい文章を見たから。(無断転用、ごめんなさい・・・)



「もっと彼を頼りなさい。
 甘えていいんだよ。
 泣いていいんだよ。
 もっと素直に」



あたしは、頼りきれてない。

それは、彼が学生だから。

それは、彼が若いから。



すごく、考えが大人だなぁって感心させられたすぐ後に。

おいおい、君はガキだね・・と思わされる。

それが半々なら。

そんなギャップもいいんだろうけど。

でも、あたしには、「君はガキだね」と思う事の方が多くて。 



子供でも仕方ない。

だって、まだ学生で。

あたしより5歳も年下で。


・・・学生は来年の春に終わるけど。

年齢差は埋まらない。





あたしは、頼りきれてなかった。

子供たちの事にしてもそう。

あいつには話す事を避けてた。

あたしの問題だから、あたしが考えればいい。

あたしが子供たちに対して、こう思っているとか。

こう言う風に考えているとか。

そういう話題はしなかった。

あいつから振ってきても、話題を変えてた。






もっともっと、あたしの事を知ってもらおう。

あたしがどんな人間で。

どんな考えで。

どんな風に思っているのか。



全部、話して、心を開こう。

だって、あいつは、心を開いてくれているんだから。





だから、夜。

仕事終わりにうちに呼んだ。

そして、いっぱい話した。



こうしたい。

ああしたい。

こう思っている。

こんな風に考えている。





あいつの口癖。

「俺はりりかさんの一番の味方だから」




そう言われると、いつもホッとして来た。

あたしは、一人じゃないって思えた。





あたしは、この人が好きで。

この人と離れたくなくて。

この人と一緒にいろいろなものを、もっともっと見たくて。



離婚を決めた。



子供も手放した。



でも。

子供の事を考えない日なんか、あるはずも無く。

あたしも一応、母親なんだから、毎日毎日、考える。

よその子供の声を聞けば、思い出し。

店に来るお子様を見れば、思い出す。

買い物に行っても、テレビを見ても。

子供と関連させてしまう。




このお菓子、好きだったな。

このおもちゃ、うちの子供たちもよく遊んでたな。

こんな服、あの子に似合いそうだな。






そんな風に、毎日いつでも考えてしまう。


「一緒に考えるよ。一緒に苦しむし。一緒に楽しむし。だから、もっともっと甘えてください」





ママは笑っているほうがいい。

笑っているママが好き。




あたしは、笑えるし。

まだまだ、希望だってある。


だから、いつか。

子供たちがあたしと一緒に暮らしてくれるとき。


笑って迎えられるように。

笑顔を忘れないように。




あたしの苦しいこととか、悲しいこととか。


全部あいつに受け止めてもらう事にした。

あいつにとって、多大な負担になるだろうし。

もしかしたら潰れちゃうかもしれない。

でも、あたしは、受け止めてもらう。


共倒れになっても。




あいつは喜んでた。


「りりかさん、やっと俺の気持ちが分かってくれたね・・・」






潰れても。

崩れても。

絶対に手を離さないから。


共倒れ?

なるはずないじゃん。



りりかさんは、俺が絶対に倒さない。


それくらいの、心意気だよ、俺は、ずっと前から。



2002年10月18日(金) 無理矢理

会うのが怖いなんて、何でだろう。

初めてじゃない。

会うのが怖いと思った事、初めての事じゃない。

前にもあった。


それは、あたしが別れを言った日。







あたしは、駐車場に迎えに来てくれたあいつにあった瞬間から、「ごめんね・・・」をいい続けてた。

あいつは黙って、あたしの腕を取った。

いつもは手をつなぐのに、今日は腕を持たれるって言う感じだった。





あいつの部屋で、あたしはいきなりキスされた。

その上、胸を触ろうとした。

びっくりして、逃げようとしたら、捕まえられて、押さえられた。


「ちょっと!飲んでるの?!」

あたしが、怒鳴った。

「飲んでるわけないじゃん」

あいつは冷静に返してくる。

そして、あたしの着ていた服をまくりあげる。


「やめて!絶対に嫌、やめて!やだってばー!!!」

あたしは、ほとんど叫び声に近い。

あいつは、やめない。

スカートをまくる。




そして、あたしは泣いた。

あいつに腕を押さえられたまま、あたしは泣いた。




あいつは、しばらくそのまんま。

あたしを見てた。

涙がどんどん流れて。

耳に伝って、髪も塗れた。





あいつとする、セックスは嫌いじゃない。

あたしはセックスが嫌いと言うか、興味がわかなかったけど、あいつとは嫌いじゃなくなってた。

それは、あいつが一方的にしないから。

絶対に、あたしの嫌がる事はしないし。

あたしのためにっていう感じでするから。


セックスって、女は本来受身だから、そう言うちょっとの事で、変わる。

だから、あいつのセックスはいやじゃなかった。


あたしのために。

あたしが感じる場所を一生懸命さがそうとして。

あたしがここまでにしてって言えばやめてくれて。

たまに言う「大丈夫?」って言葉もあたしには安心出来て。




なのに、こうして、あたしは無理矢理やられそうになって。

凄くショックだった。

凄く怖かった。

だから、泣いた。




「りりかさん・・・こうして、抵抗されたら、出来なくなるんだよ、ましてや好きな人に。キスだって、最初だけで、抵抗されて、出来なかったでしょ。りりかさん、分かる?」




あたしの腕を離して。

あたしの髪をなでた。

あたしの頬をなでる。



「ごめんなさい。こんな風にしちゃって、ごめんなさい」


あいつは、謝る。

謝らなきゃいけないのは、あたしなのに。




あたしは、あいつを抱き寄せた。

そして、ぎゅっと、抱きしめた。

あいつも、あたしを抱きしめ返してくれた。



「もう・・・絶対にしないから。絶対に、何かあってもいいとか思わないから。H君だけにしか、思わないから。ごめんなさい・・・」




あいつは、あたしの頭をなでながら、頷く。



「揺れそうな感情になったとき。俺の事を思い出してよ。ね?」

いつもの。

あたしが好きな笑顔に戻る。

あたしも、笑顔になる。




「一緒にお風呂入ろうか?」

あいつが笑いながら言う。

「絶対にイヤー」

「だよねー・・・」

がっかりした顔になる。

あたしはそれを見て、また笑う。



「あとで、呼んだら、入って来ていいよ」


びっくりして、こっちを見る。

「マジで??」

「うん、マジで」



あたしたちは、一緒にお風呂なんか入ったことない。

恥ずかしい。

どんなに痩せてても、スタイルいいね(胸以外)とか言われても。

どんなに若作りしても。

それは外見だけで。

脱いだら。

あたしはやっぱり子供を3人産んだから。

妊娠線があるし。

そう言うのを明るい場所で見られるのが恥ずかしかった。



だから、今まで絶対に嫌!って言い張った。

けど、なんとなく。

この人には何でもさらけ出したいな、と思った。



「じゃ、呼んだら、とかじゃなくてさ。場所変えない?」

「場所ー?」

「うん、ラブホに行こうよ!二人で行ったことないじゃん!」

「えぇー!??」

「ね、そうしよう!りりかさん、上着着てー。行くよー」

「だって、どこのよ?」

「適当に車で流して、左側にあった5件目のラブホに入るって言うのはどう?」

「はぁ・・・いいけど」




ラブホテルなんて、何年ぶり?

すごくすごく、久しぶりな事は確か。



初めて一緒に入るお風呂が、ラブホテルって言うのも・・とか思ったけど、テンションが高かった事もあって、行く事にした。


その話はまた明日の分で書きます。



2002年10月17日(木) ごめんなさい。

朝、勤務前に電話した。

あいつに。




「まだ寝てた?」

「んー・・・」

「ごめん、またあとで掛け直そうか」

「いいよ、平気。学校だから起きなきゃだし。どした?」

「この間。ごめん・・・」

「・・・。何がごめん、なの?」

「うん・・・あたし、最低だー・・・」

「なにが?」

「パパと、なんかあってもいいと、思った。だから、ごめん」

「なんかあっても?・・・そか」




重い空気が流れる。

あたしは、また「ごめんなさい」を言った。



「りりかさん、俺の事、愛してるの?」

「うん」

「なら、何で、なんかあってもいい、とか思えるの?」

「・・・。夫婦だったから、かな」

「今は、違うのに?」

「・・・うん。ごめんなさい」




夫婦だったから、別れても何かあってもOKとかじゃ。

元彼、元彼女と何かあってもOKと言う事になるよね。



おかしいでしょ?







と、言われた。

あたしは、謝るばっかりで。


明日夕方、仕事が終わったら来て、と言われた。




許してくれないかもしれない。

でも、ちゃんと謝ろう。



2002年10月16日(水) 自分だけ

あたしは、あの時。

だんな様が来た、あの夜。



だんな様と何かあってもいいと思った。



何でだろうって思った。

何で、いいと思ったんだろう?って。

なんかして欲しい。

とかじゃなく。

何かあったら、それでもいい。


位に思った。



ただ、汚いけど、それはあいつにばれない自信があったし。

あたしが今好きな人はあいつだけだから。

だんな様となんかあっても、「元」だんな様、だけど許してくれると思ってたから。


だから、だんな様がしたいのなら、それは別に構わない。



それくらいの感じだった。



だんな様もあたしと同じ感覚だと思った。

だから、あたしとなにかしたいだけで。

あたしを抱きたいだけで。

別にそれ以上の事を考えていると思わなかった。



けど、だんな様は違った。

キスマークをつけようとした。

それは、あいつにばらすため。

あいつに気づかせるため。

あいつとの仲を終わらせるため。

純粋にただ「したい」という感覚では無かった。




それに気づいて、あたしは怒った。





あたしたちは離婚前、何ヶ月かセックスレス夫婦だった。

数ヶ月なら、セックスレス夫婦とはいわないのかな。

だんな様が、あたしが妊娠しないという事を分かって、避妊無しでやろうとしてから、あたしは絶対にこの男とはやらない!と決めたし。

だんな様も手を出してこなくなった。


だんな様はセックス大好きな人。

毎日でもやりたいっていう人。


でも、全くあたしに触らなくなった。

あたしも、ホッとしてたのは事実。




そして、あの夜。

だんな様はあたしを求めようとした。

それは、あたしは純粋にあたしと(女と)したい感覚なんだと思って。

あたしは、したいのなら、どうぞ。という感覚で。

元夫婦だったあたしたちだから、離婚して今は他人でも、そうなることが不自然とか、あいつに対する罪悪感とかがなかった。




何より、「別枠。」ではないけど。

あいつもあたしとだんな様がそういう事をするのは、離婚前はもちろん、離婚後も仕方ないと思うのでは?と勝手に思ってた。

でも、わざわざ言う事ではないから、離婚前からあたしはだんな様としたとかいう事はいわなかったけど。





結局、自分の都合のいいように何でも解釈して。


こんなふうになった。





そして、一日メールが来ないまま、過ぎた。

もちろん、電話もない。

あたしは、自分だけ都合よく考えてきたことが。



すごく、いやになった。


あたしがあいつなら。

あたしがだんな様なら。



とか言う、自分が相手の立場だったら。




と言う事を考えなさ過ぎた。



素直に、謝ろう。



あいつにも。

だんな様にも。



2002年10月15日(火) 失ったもの

今日は休み。

だから、昨日はあいつの家に泊まって、昼間出かけた。

外は、暑くて。

嫌になっちゃうね、とか話しながら。





昨日の事は、話題に出ない。

それが、あたしには、なんだか怖かった。



2人であたしの部屋におく小物とかを見に行った。

今日はあたしの給料日だから、ランチをおごった。

車を出してくれたのは、あいつだしね。

荷物も持ってくれてたし。



いつもどおり、優しいあいつだった。

昨日の事に触れないのは、もう忘れたいからだよね・・・



「荷物置きに行きたいし。うちで夕飯食べる?」

あたしから、始めて部屋に誘った。

あいつも嬉しそうに、「いいんですか?」とか言ってくれた。





夕飯の材料を買いに行って。

一緒にあたしの部屋に行く。



あたしが台所に立つと、いつも必ずくっついて来る。

横で「ふーん、こうやるんだー」とか「さすが、主婦、手際いいなぁ」とか言う。

「いいから、あっち行ってて!!!」

「暇なんだもん・・・」

「テレビ見るとかさぁ」

「やだー。ここにいたい」

「なら!お風呂、お風呂に入りなよ!!」

「ええー・・・」


あたしは何とか、お風呂に入らせることに成功。

その間に、作っちゃうか〜。





2人で夕飯食べて。

テレビ見て。




まったりした時間を過ごしているとき、突然言われた。




「りりかさん、本当に無理矢理だったの?」


あたしは言葉の意味が一瞬分からなくて。

「は?」

って言った。



あいつは、首のキスマークを見てた。

それで、気づいた。




無理矢理。

確かに、あたしはびっくりした。

何してんの?って思った。


けど。

キスされたとき、あたしは抵抗しなかった。

首にキスされたとき、あたしは抵抗しなかった。



きっと、もし、あのまま抱かれていたら。

抱かれていても。

あたしは抵抗しなかった。




何で?

分からないけど、そう思った。

だんな様としたいとか言うわけじゃなく。









「あたしは、嫌だったよ・・・」

「でも、もしもこうして」

あいつはあたしに覆いかぶさる。

「キスマークつけられる位の至近距離になったとき。抵抗してたら、無理じゃない?」




あたしは、黙ってしまった。




「今日は、帰るわ」



外は雷がなって、大雨だった。

昼間の快晴が嘘みたいに。




あたしは、何かを失った気がした。

それは、あいつの信用。




あたしは、泣いた。



2002年10月14日(月) 返って来る。

朝から仕事で、夕方からあいつと会った。

あたしは、昨日の事、もやもやしてた。

首のキスマークはファンデーションで隠した。



やましい事はない。

あたしは何もしていないんだから。



なのに隠した。

隠したのは、嫌な気分にさせたくなかったから。



これが、始まり。







ドライブに行った。

あいつが、あちこち回ってくれた。



「眠くなったら、寝ていいよ。昨日も遅くまで働いて、今朝も早くから働いて。疲れているでしょ?」

「うんー。ありがと、でも寝ないよ。平気」




なんて言ってたくせに、あたしは寝ちゃった。

寝る寸前に、あいつが頭をなでてくれた。

運転しながら、あたしの頭をなでてた。


それが心地よくて。

疲れているのも助長して。


あたしは眠りに落ちて。






気がついたら、あいつの家の駐車場だった。

エンジンは止まってた。

あたしが寝ちゃったから、起こすの悪いと思って、起きるまで待っててくれたんだなぁって。


勝手に解釈。

勝手に「優しいなぁ」って思って。

勝手に感激したりして。







「ごめん、寝ちゃってたね・・・」

あたしは、笑顔で言った。

あいつは黙ったままだった。

黙って、前のフロントガラスとか見てて。

「?」

あたしは、どうしたのかな??と、あいつの顔をのぞきこむ。




あいつと目が合った。

でも、目をそらされる。

そして、車を降りる。

あたしもあわてて降りる。

歩きながら「ねー、どうしたの?」と、聞くあたし。



あたしは、マジで分からなかった。

すっかり忘れてた。


キスマークの事。





あいつが、ちらっと、あたしの首を見たときに気がついた。

はっとした。

あたしは、あわてて首を押さえた。

無意識に、反射的に。





それが、かえってまずかったらしい。

「何隠したの?」

て、突っ込まれる。

あたしは、黙ったまま。

「何があったの?」

あたしは、やっぱり黙ってしまった。




このキスマークは無理矢理だよ。

と言えば済むかもしれない。

確かに、無理やりっぽかったし。

でも、部屋に入れて泊まらせようとした事とか。



キスをされた事とか。

キスは抵抗しなかったこととか。


言えない。




嘘ついて、「無理矢理いきなり」と言えばいいのかもしれない。

けど、嘘もつきたくない。






あたしは、言う事にした。

本当に、あたしにはそんな気がなかったこととか、信じて欲しいから。

まずは、本当の事から話そう。

そう思ったから。





だんな様が家の前にいた事。

飲んじゃったから、泊めてと言われた事。

何もないと思って、泊めようと思った事。



でも、キスされた事。

そして、キスマークをつけられた事。





「本当に、それだけ?」

「それだけに決まってるでしょ。あたし、帰ってって言ったんだから」





あいつは、やっぱり黙り込んだ。

そして言った。




「自分がした事、返って来るのかな」



あたしを、信じられないの?

そう言おうと思ったけど、やめた。



「りりかさんがだんなさんに会うのは、子供の事とかあるし、仕方ないと思う。でも、二人きりで泊まるとか、やっぱり俺嫌。でも、俺はそういうことしてた。だから、我慢しなきゃなのかなぁ?」



あたしは悲しくなって。

そんな風に思わせた事とか。

そんな風に考えなきゃならないって思っているこの人に申し訳なくて。




泣いて謝った。





あいつは、よしよししてくれてたけど。

何だか、いつもと違う感じがした。

あたしが勝手にそう思っただけかもしれないけど。

何だか、違う感じがしたんだ。





だから。

凄く不安になった。



2002年10月13日(日) キスマーク

だんな様の引越し。

業者に頼んだから、掃除もすべてやってくれた。

あたしは一応、顔だけ出した。

でも、だんな様のお兄さんとかいて、ちょっと居辛かったから、すぐに帰った。昼から仕事もあったし。

子供たちが来るかな、と期待してたんだけど。

少しがっかりしながら、職場に向かう。





徒歩でも通える距離になったから、通勤は楽になった。

夜中近くまで働いて、家に帰ると、家の前で待ってた。


だんな様が。



「どうしたの?」

「明日休みだし、飲んじゃったから、運転自信ないし。泊めて」

「はぁぁぁぁ???」

「だめ?」



だんな様は運転がうまい。

飲んでいても、全然うまい。

けど、そんなの理由に来るって言うのは、なんなんだろう・・・



「だめじゃない、けど・・・」

「けど、だめ?」

「うーん・・・まぁ、ここで話すのもなんだし、入る?」

「悪いねー」






だんな様は部屋の中、いろいろ見回してた。



「なによ?物色?」

「いやー、本当に一人で暮らすんだなぁって思って」

「どういう意味よ?あいつと同棲すると思ってたの?」

「いや、そういう意味じゃないけどね」

「泊まらせた事もありませんー」



だんな様は満足げに笑った。

ちょっと、酔っているし、いつもと違う気もした。




あたしは疲れていたし、うとうとしてた。

そしたら、だんな様も横になって来た。

あたしのすぐ横に。



あたしは驚いて飛び起きる。


「なに???」

「眠いんだよ。この部屋狭いし」

「だからって、真横に来なくてもよくない???」

「りりかー」





だんな様があたしの肩に手を乗せる。

あたしは、その手をよける。

でも、肩を強く摑まれる。


そして、いきなり抱きしめられた。




「やめてくれない?」


あたしは、冷静に言った。

怒っているわけではなかった。

ただ、嫌だった。



「そういう感情、ないから」


あたしは、淡々と言った。





だんな様はあたしの肩に手を置いたまま、あたしの目を見る。

あたしもだんな様の目を見た。



だんな様はあたしにキスをした。

あたしは目を開けたまま、今起こっている状況を理解しようと思った。

なんで、あたしはこの人にキスされているんだろう・・・なんで?

だんな様の手が胸に来る。

だんな様はあたしの首にキスをする。

キスマークをつけようとしているのが分かった。

あたしはカッとなって、離れた。





「ねぇ。帰って欲しい」

あたしは、さっきより数倍大きい声で、しかも怒りに満ちた声で言った。



「ごめん・・」

「帰って。もう、来ないで、ここに」




家に入れた事とか、泊めようと思った事とか、全部後悔した。



「さよなら」

あたしは付き離すように言った。

だんな様は何も言わないで、出て行った。




首に、キスマークが付いちゃってた。

あたしはそれを見て、悲しくなった。


だんな様はキスマークとかつける人じゃなかった。

なんで、別れた今、そんな事をするんだろう。



なんでって。





あいつとの仲を終わらせたいからなんだよね。



2002年10月12日(土) 一緒にいる

久しぶりに、あいつと夕方前から会った。

迎えに来てくれて、出かけた。



お腹空いたなぁ。

でも、外食嫌だなぁ。

あ!りりかさん、俺んちで作ってよ。



とかいう話になって、材料を買いこんだ。

何がいい?

って聞いたら、「肉じゃがー。」ありきたりー・・・





でも、「りりかさんちで」と言わないあたり、あたしが家にあげたくないと思っているのを察しているのだろうか・・?

ううん、別にあげたくない、とは思ってないけど。


なんとなく、あげづらい。

って言う感じかな。






夕飯作って、食べて、テレビ見た。

あたしはテレビってほとんど見ない。

朝は正確な時間が見たいためだけに、適当に付いているけど。

いつもどおり、あいつの部屋のあたしの場所に座った。

あたしの場所にだけ、座椅子がある。

あたしは家でもソファーとかダイニングテーブルの椅子とか、寄りかかっているのに慣れちゃっているから、ここは座るとき寄りかかる物がないなぁって言って。

あいつが買ってくれた。

てか、買わせたのか・・・?

とにかく、今日も座椅子に座ってた。




「ちょっとどいてー」

あいつがあたしをどかせる。

何で?座るの?あたしをどかしてまで?

とか思ってたら、やっぱり座る。

で、「寄りかかって」とか言う。




そういえば、こんな風に一緒にビデオを見た事あったね。

そんな話したりして、テレビをまったり見る。

時間がどんどん過ぎていく。

あたしは、時計ばかり見る事もなく。

一緒にいる。

普通に、一緒にいる。






そうだったね。

こんな風にまったり、時間を気にしないで一緒にいた事なかったね。

当たり前だったけど。

あたしには家庭があったから。

だからあたしは、こういう時間が来る事を、今不思議に思う。

うん、嬉しい気持ちももちろんある。



でも、一番に思うのは、「不思議」。







もう、帰らなきゃ。

もう、行かなきゃ。




そう言う言葉を言わない不思議。





なにより、あたしが一人になった今、この人と一緒にいる不思議。





あたしは、最初、いつか終わる恋だと思っていた。

そのいつかは、近い未来で。

だから、遠い未来の話は夢物語で。

有り得ないけど、そうなったらいいね、位の気持ちの話で。






あたしたちは一緒にいる。

たぶん、これからも一緒にいる。

今も、先も、ずっと一緒にいるんだろうと、うとうとしながら思ってた。



2002年10月11日(金) 始めての夜

朝から引越しだった。


バイトの子たちと友達と、みんなで手伝ってくれた。

昼前には終わって、そのままランチにして、夕方夕飯みんなにをおごって。

あいつは呼ばなかった。

なんとなく、みんなとワイワイいたかったから。





みんなと別れた後、一人で自分の部屋で、やっぱり不思議な感覚になった。

周りにある家具とか、見慣れたものに囲まれているのに、何だか違う雰囲気で。

模様替えとかしたときとは違う。

何だか、変な感じで。




すごく、不安になった。

ここで、あたしは、暮らして行くんだってことに。

一人で、やって行くんだって事に。




「寂しくない?」



メールが来た。

相手はあいつじゃなく、だんな様だった。

だんな様の引越しは日曜日。

子供の荷物とか机とか運ぶらしい。




「寂しくないって言ったら嘘かな。何だか、一人の夜って怖いね」

「りりかは、怖がりだからなぁ。一人でトイレ行くのも怖がってたじゃん、夜中は」

「でもそのうち慣れるでしょ、そう言うのも」

「慣れなきゃね。自分で決めたんだから。彼は来ないの?」

「今日は一人暮らし記念だから、一人でいたかったの」

「そか。泣くなよー!」

「泣かないよ!!!」





あたしは、なかなか眠れなくて。

寝返りを何度もうったりして。

枕を裏返したりして。





一人になって、始めての夜は、眠れないまま過ぎた。





あたしはやっと、今頃。

「離婚したんだ」

と思った。



2002年10月10日(木) 思い出ばっかり

今までの家の掃除をした。

粗大ごみ出したり、子供の服をつめたり。

昔からの友達が2人来てくれて、一緒にやってくれた。



子供の部屋の掃除をしてたら、子供たちの昔書いた絵とかいろいろ出てきた。




長女の幼稚園のときのバックや制服。

次女の七五三の三歳のときに来た着物。

ライラのスタイ(よだれかけ)。






どれもこれも、思い出ばっかり。

何年も前の物たちなのに、ちょっと前まで使っていた物のように、思い出す。



長女が幼稚園入る前、選ぶ段階で心臓の事で何件かの幼稚園で断られた。

何かあったら、責任を持てませんので。って。

泣いたなぁ。

もう、小学校に入るまで、家で一緒にいようかって言うときに、お友達のお母さんがわざわざ幼稚園に聞いてくれて。

そして、大丈夫ですよって、春から一緒に遊ぼうねって園長先生が言ったんだ。

新しい制服を着せたとき、また泣いて。

何で泣いているのか分からない長女は、きょとんとしてたっけ・・・




次女の三歳の七五三。

次女が七五三の前日に勝手にハサミで前髪切っちゃって。

もう、大慌てで。

変な風にしかも短く切っちゃったから、どうしようどうしようって。

でも、なんとか前髪を上に全部付けて乗り切ったんだ。

あたしは、それ以来ハサミを隠して。




ライラはスタイを使わない子だった。

上のお姉ちゃんたちはよだれが多くて、スタイをいっぱいなきゃ、服が濡れちゃうほどだったから、ライラが生まれたときも新しいのをいっぱい買った。

けど、全然よだれが出ない子で。

結局しまったままだったんだけど。

保育園にかよい始めて、3歳までは保育園でおやつと食事のときに使うから1日3回使いますって言われて、やっと陽の目を浴びたスタイたち。

でも、し慣れてないライラは嫌がって嫌がって。

保母さんたちになだめられて、「かっこいいよー!!」っておだてられて。

やっとつけてくれたんだ。

「今日はスタイをつけてくれた、ライラ君です」って連絡帳に書かれたりして。





「りりかは、本当にいいの?」


一緒に手伝ってくれてた友達に聞かれた。



「何が?」

「りりかは、これで幸せになれるのかなぁって、思うんだよ」

「ならなきゃね・・・」

「私たちは何度も何度もりりかの家族と会ってる。りりかの今の彼とは一度も会ってないから、やっぱり旦那さん寄りになっちゃうけど。いいのかなぁって、思うんだ」

「いいのかなぁも何も、もう決めたことだからね。後戻りは出来ないから」

「・・・そうだよね。ごめん、ふと、思っちゃって」





どんどん片付いて行く部屋。

あたしは、この家に5年住んでた。

結婚してから、引越しは何回もして、この家で4回目だった。

でも、4回とも家族でみんなで、引っ越して来た。



最初の1回目はまだ3人家族で。

2回目のとき、4人家族になってた。

3回目も4人家族だったけど、3回目に引っ越した家でライラが生まれた。

4回目のこの家に引っ越してきたとき、5人家族になってた。



そして。

5回目の引越し。

あたしは一人。



それでいいの?



友達に言われたけど。

今の正直な気持ち、これでよかったんだと思っている。




子供との思い出とか。

今までの部屋とか。

生活とか。


そう言うものを全部なくして、始めて一人で暮らすっていう事になって。




今まで見えなかったものとか、見えてきた気がする。



2002年10月09日(水) お客さま

昼間部屋に行った。

あたしの、新しい部屋。

買い物して、電気もつけた。

夜来ても平気だね。




部屋の掃除をしてたら、あいつから電話が来た。

「今日休みでしょ?今何してるんですか?」

「新しい部屋の掃除」

「あー!そか、引越しもうすぐだっけ?」

「うん」

「手伝いに行ってもいいですか?」

「引越し?」

「じゃなくて、今、掃除」



ちょっと迷った。

別にあいつを入れる気はないとかじゃないけど。

まだ、あたしとここを紹介してくれた友達以外入った事のない部屋で。

ちょっと、迷った。



「男手があったほうが、何かと役に立つと思うんだけど」


確かに天袋とか掃除しようと思っても、椅子に乗ってもなかなか難しかった。

あいつなら、らくらく出来そうだな。

それに、そんなにこだわる事もないんじゃない?


とか、一人で考えて。



「うん、じゃーお願い。場所分かるよね?」




あいつは、昼ごはんを買ってきてくれた。

テーブルとかないよ?ってあたしが言ったら、膝に乗せてピクニックぽく食べようよ、と言う。




「お客さま、第一号だ」

あたしが、言う。

そしたら、あいつが首を振る。


「お客さまって言う扱いは、なんか嫌だなぁ」




だって、お客さまじゃん。

ここの住民じゃないんだし。



でもね、俺はりりかさんがうちに来ても、お客さまとは思ってないよ。

なんだろ。

たまに来る、同居人?(笑)






でも、やっぱり、あたしの中ではお客さまだと思った。

それと、不思議な感覚になった。

今までは会うのは、あいつの部屋か外。

あたしの住む場所で会うなんて事、ないと思っていたから。

だから、不思議な感覚だった。




いろいろ掃除してくれて、買い物にも付き合ってくれた。

やっぱり、あたしだけじゃ大変なことも、あいつがいてくれると助かったりする。

だから、あたしは素直に「ありがとう」を言う。


来てくれて、ありがとう。って。



「いつでも、呼び出してね」






あたしの新しい生活の中に。

あいつはいないと思う。

これから始まる、あたしの生活の中に。



いないっていうのは、別れるとかじゃなくて。

なんていうか、うまく言えないけど。

一緒に共同で進んで行くのじゃないと思う。



あたしはあたしの。

あいつはあいつの。




道が違う。

そう言う風に思う。

ずっと先で交わるのかもしれないけど。



今くらいの、距離があたしには心地よい。

付かず、離れず。

そんな距離。



あいつはきっと、べったりしていたいんだと思う。

そして、あたしも心の奥底で、それを望んでいるのかもしれない。


でも、出来ない。

べったり一緒に生活。

そんなのが今は出来ない。

出来ないのは、きっと、あたしが傷つけた人たちの事を考えるから。




自分だけ、幸せになっていいの?




最近、よく思う言葉。



2002年10月08日(火) 皮肉

病院だった。

朝から病院に行った。

婦人科の検診。



生理は来ていなかった。

ずっと来ていない。

けど。



排卵はしているみたいだね、と言われた。




あたしの苗字が変わった事を、女医さんは当たり前だけど知っている。

どんな事があって離婚したのか、そう言う事は聞かれないけど、優しく言った。

「妊娠はする可能性は出来たね。後は生理だね。でも、いろいろあると思うし、余り生理が来ない事を重要視しないでいいんだからね」




妊娠する可能性。





あたしは、子供はいらない。

前なら、あいつのために子供が出来ないあたしの体を悩んだりした。

でも、今は子供は、あたしの3人の子供たちだけでいいと思っているから、いらない。

欲しくない。




そう言う風な考えに変わってから、妊娠できるかも、なんて言われるなんて、皮肉だね。






「検査はどうでした?」


あいつから、メールが来る。

あいつは、今日は面接の日。

だから、病院に一緒に行けないけど、ごめんね、とかしきりに謝っていた。




「いつもどおり」


あたしは、嘘を言ってしまった。

なんでかは、分からないけど、言ってしまった。



きっと、「妊娠する可能性も出てきたねって言われたよ」って言ったら、ものすごく喜んでくれるに違いない。

なのに、あたしは嘘を付いてしまった。




「そかー。気長に頑張って行こうね」




子供は、欲しくない。

あいつと一緒に、たとえ再婚したとしても、子供は欲しくない。




あいつは、セックスのときに、絶対避妊する。

あたしがずっと前に、

「あたしは妊娠しないんだし、することないよ?」

って言った。

そしたら、

「それじゃ、りりかさんとやりたいだけのために、これ幸いと避妊しないバカ男見たいじゃん」

って言われた。



「嫌なんだよ、妊娠しないから中出ししていいとか、そう言うの。だって、妊娠する可能性があったら、絶対に避妊するのに、とかじゃん?今は責任取れないかもしれないんだから。なのに、妊娠しないなら避妊しないなんて、なんか、だめなんだよね。からだ目当てみたいで」

変なとこ、堅いな、と思った事があった。


そして、こう言われた。

「俺が妊娠させてもやって行ける位になったら、避妊しないから」







あたしは、もう、妊娠する事はない。

それは、あたしがこんなふうに周りをかき回して、ぐちゃぐちゃにして、子供まで捨てた罰だと思っていた。

だから、あたしに子供なんかを授けたらいけないって、神様が怒って、あたしから妊娠と言う機能を取ってしまったのかと思った。


それを素直に受け入れようと思っていた。

あたしには3人の子供たちで充分だと思って。

だから、それでいいと思ってた。

むしろ、いらない、妊娠できない体でよかったと。



なのに、そう思ったとたんの妊娠出来るって言葉。



皮肉。



2002年10月07日(月) 慣れる

夕方、部屋のカギをもらった。

新しく住む、自分の部屋のカギ。

不思議な感覚だった。

これが、あたしの部屋のカギになるんだ・・・



夜、荷物をちょっとだけ運んだ。

と言っても、服とかなんだけど。



部屋に入ってから気づいた。


・・・そうだ、電気がないんじゃん・・・


トイレには電球が入っていたから、とりあえずトイレのドアを開けて、明かりをとった。



昼間来た時と違って、何だかがらーんとして、寂しかった。

ここで、夜、一人で寝たりするのかぁって思うと、不安になったりした。

でも、慣れるよね・・・





家に帰ってきてから、ビーズでキーホルダーを作ってた。

カギに付けるための。

そしたら、次女から電話が来て、「今何してるの?」って言うから、「ビーズ作ってたよ」って話した。

「私の携帯とお姉ちゃんの携帯のストラップも作って欲しい」

あたしは、こうやって頼まれた事が、凄く嬉しくて、「うん、すぐ作るよ!」って張り切って答えた。

「ライラは何がいいかなぁ」

って、あたしが聞くと、「ライラの新しい幼稚園、カバンにキーホルダー一個だけつけていいんだって。目印になるから。だから、それにしたら?」と言われた。



新しい幼稚園は制服があるんだよ。

カバンは緑色のリュックなの。

制服も可愛いよ。



次女が、一生懸命詳細に語ってくれる。




あたしの知らない、見えない場所で、子供たちの生活はどんどん進んでいる。

それは、今まではあり得なかった事で。

あたしが知らない生活を子供たちが送るなんて事は、考えられなかった事で。


でも、どんどん始まっている。

あたしが知らない幼稚園、学校、お友達に囲まれている子供たち。



笑いを交えて、たくさんいろいろな事を教えてくれる。

あたしが見た事のないライラの制服も。

あたしが知らない長女と次女のお友達も。

目に見えるように、語ってくれる。




でも、それはやっぱりあたしの想像の中だけのことだから、実物はまた違うんだろうなぁと思ってみたり。



「写真、おじいちゃんがいっぱい撮ってくれたの。手紙と一緒に送るね」



そう約束して、電話を切った。




さっき、一人で暮らす部屋に行ったばかりのせいか。

ものすごく悲しくなった。

あたしは独りぼっちになったような感覚になった。

写真でしかあえなくなるなんて、思わなかった。

次女は今の電話で一度も「会いたい」とか言わなかった。

なんでかは分からない。

でも、言わなかった。





早く、慣れよう。

この生活に。

こういう状況に。



2002年10月06日(日) 考えたって意味ない事

昨日の続きです。




いろいろと話した。

子供の事を考えると、心から楽しめないとか。

何も出来ない君に、寄りかかっていいのかとか。

あたしはどうしたいのか、とか。


いろいろと話した。



思ってることとか、かなり分かりづらい言い方になったかもしれないけど、伝えた。



あいつは、うんうんって聞いたり、ううーん・・・って聞いたり。



そして、不意に聞かれた。


「りりかさんは、何で強がるの?」



あたしは、強がってなんかいないし。

逆に頼って頼って、泣き言ばかり言っていると思うし。



でも、あいつにはそう見えるらしい。




一人の時間が嫌いなあたし。

怖がりなあたし。

寂しい事とか悲しい事ばっかり考えちゃうあたし。



そういうあたしだって、あいつは知っている。

だから、不思議だって言われる。



「俺はそんなふうにりりかさんに頼ってももらえないくらい、役不足?」





あたしは、頼っていると思ってた。

でも、寄りかかりすぎたらいけないって思ってた。



「何だか、悔しいよ」って言われた。



あたしがどんどんなんでも一人で決めて。

なんでも一人で進めて行く事に、自分の力のなさを感じるんだって言われた。



そして。



「なんで、俺は学生なんかやっているんだろう。なんで、何もしてあげられないんだろう」




考えても仕方ない事ばかりを、口に出す。

あたしが思う以上に、あいつは苦しんでいたんだと思う。

あたしが苦しめば苦しむほど、悩めば悩むほど、あいつも同じかそれ以上に苦しむんだと悩むんだと思った。



「君は、あたしを見ててくれている。それだけで、あたしは充分なんだよ」




一緒に暮らそうと言ったのは、別に自分(あいつ)がいつも一緒にいたいって理由だけじゃない。

あたしが寂しいんじゃないかって言う思いもあったんだ。

そんな気持ちで、「一緒に暮らしませんか?」と言ってくれたって事は、あたしだって分かってる。




確かに寂しいよ。

でも、だからと言って、あいつと一緒に暮らしたいとか思えない。

今は、なんだけど。


また考えも変わるかもしれないんだけど。




また変わるかもしれない考えを、今考えても意味がない。


それは。

なんであいつが学生なんだって事とか。


なんで、あたしたちは出会ったんだとか。


なんで、あたしはだんな様とうまくやれなかったのかとか。




そう言う風に、「なんで?」って考えても意味がない事と同じ。



だから、今の考えを、今伝えよう。

今の考えを、気持ちを、一緒に考えよう。



それしかないんだから。


だから、今の考え。


「君は見てくれているだけでいい。何もしなくて、いいよ。大丈夫だから」


伝えた。



2002年10月05日(土) 退職金

朝から、今度住むアパートの下見に行った。

それなりに綺麗だし、一人で住んで行くには充分な広さだった。

ただ、あたしの持って行く家電製品は、5人で生活しているときに買ったものばかりだから、全部大きい。

冷蔵庫も5ドアだったり、洗濯機も8キロとかで。

衣類乾燥機に食器洗浄乾燥機・・・

一人じゃ必要ないなぁと思う家電たち。

でも、買い換えるほどお金に余裕はないし。

捨てるのももったいない。

使う事にしたんだけど、場所取るなぁとか思ったり。




新しい家の窓は大きくて。

空がいっぱい見えて、太陽の光もいっぱい入ってきた。



あたしは、一人暮らしをした事がない。

怖がりのあたしは、一人暮らしなんか出来ないと思っていた。

それに、一人暮らしなんかする事は一生ないと思っていた。

でも、あたしは一人暮らしする事になった。



あたしとあたしの親や兄弟との空間だったり。

あたしとだんな様の空間だったり。

あたしとだんな様と子供たちの空間だったり。


そうやって、一緒に誰かと空間を共有して生きてきた。


今、あたしは、あたしだけ、あたし一人の。

空間で生活していく。



あたしの今の気持ちは。


当分、あいつと一緒に生活するとか。

そう言うのはない。

前までの、子供たちと一緒にいると思ってたころのあたしは。

半年たったら、あいつと一緒に暮らしたいとか思ってた。

でも、今はない。

そういう気持ちがない。

一人でやって行きたい。


別に、あいつに対する思いが冷めたとかじゃなくて。

嫌いになったとかでもなくて。


一人でやって行きたい。


そう思うから。






夜、だんな様が来た。

子供たちに近いうちに会いたいと話した。

だんな様は余りよく思ってないみたいだった。

でも、会いたいってお願いした。

時間の都合が合ったら、と言われた。



そして、お金をくれた。

何で?って聞いたら、いろいろ必要だろ?と言われた。

あたしは貰えないって言った。

だんな様は「退職金だよ。12年間妻としてやってくれた。気持ちだから、気にするな。そんなに入ってない」と言った。



「子供に余りあわせないためのお金?」

「そんなんじゃないよ」

「だって、あまりいい顔しないじゃん。子供とあわせるの」

「りりかがいなくても大丈夫なように、慣れる期間見たいのが欲しいの。子供たちにとっても、俺にとっても。だから、今はあわせたくない」

「でも・・・」

「だから、携帯買い与えたんだろ」



あわせないけど、声だけならって事か。

そう言う意味だったのか。




「退職金」はかなり入ってて。

それ見たとき、悲しくなった。


あたしはきっと、値してない。

12年間妻として母として暮らしてきたその退職金の額がこれだったとしたら。

あたしは、そんなにもらえるほどの事をしてない。




時間は夜の10時過ぎてて。

あたしは家で一人、ボーっとしてた。

電話がなって。

相手はあいつで。



あたしは、子供と別れてから、始めてあいつの前で(電話口で)大泣きした。

「どうした???」

「苦しいよ・・・」

「何で???なんかあったの???どっか痛いの???」

「違う・・・」



あたしは泣きながら、「わかんないけど、苦しいの」と言った。

あいつはいろいろどうしたの?とか、いっぱい聞いて来てた。


「下見てみ」

家のドアを開けると、あいつが車の中にいた。

電話しながら、向かってくれてたらしい。




あたしは、泣いてるまま、あいつの所に行った。




あいつは最初は頭をよしよししてくれて。

背中をぽんぽん叩いてくれて。

あたしの手を引いて車に乗せてくれて。



「どうした?」

「なんか、悲しくなっちゃって」

「なんで?」

「子供たちに、会いたいなぁって」

「そか・・・」



あいつも、きっと、苦しんでいる。

自分のせいであたしと子供たちを引き離したと思っている。

だから、苦しんでいる。



ただ、好きだったらいいと言う時期は終わった。





「りりかさん、一緒に悩んで、考えさせて。一人で何でも抱えこまないで。関係ないとかいわないで。関係なくないんだから」


寄りかかっていいんだろうか。

今までどおり、この人に寄りかかっていいの?



そんな風に考えた。



2002年10月04日(金) 罪悪感

何で「ライラ」なの?

ってメールを頂きました。

普通こう言う公開日記では、偽名ですが(もちろんりりかもそうです)、ライラは本当に実際使っています。

本当の名前は全く「ライラ」とは関係ないんですけど、普段家族や親戚や周りの人(保育園の先生とかお友達)はみんな「ライラ」って呼びます。

それは、まだライラが赤ちゃんのとき、泣いている声が「ライラーライラー」って聞こえる。と、次女が言い出した事からでした。

そのとき、ちょうどB'zの「Liar! Liar!」って曲が出た時期で、テレビで聞いた次女が「これもライラーって言ってるよね」とか言っていました。

嘘つきって言う意味なんですけどね。

それ以来、みんながライラって呼ぶようになり、ライラ自身も2歳くらいまでは自分の名前は「○○(苗字)らいら」と言っていました。

いまだに自分の事を「ライラねー」といいます。

英語の意味では嫌な言葉だけど、あたしも家族もライラも、みんな気に入ってそう呼んでいます。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



今日、夕方次女から電話があった。

ライラの幼稚園が決まったこととか学校の事とか聞いた。



ライラにかわった。


「ママー。なんで、ママは来ないの?」



ライラはまだ5歳。

ママはいずれ来ると思っていたのかな?

とにかく、その言葉に、あたしはものすごく苦しくなった。



「ごめんね。会いに行くから。ね」

「ライラの一番好きなの、誰か知ってる?」

「・・・誰?」

「ママなんだよ。ママと一緒に寝たいなぁ」





あたしは、涙が出た。


「ママも、ライラが大好きだよ・・・」







夜、あいつと会う約束してた。

約束どおり迎えに来てくれた。

久しぶりに会うからか、あいつはとても優しかった。

いつも優しい人なんだけど、今日は特別に優しかった。

それとも、あたしがそう感じただけなのかな。



「綺麗な夜景が見える場所を探したんです」



そう言って、連れて行ってくれた。

いつものあたしなら、大喜びなんだろうけど。

素直に「嬉しい」とか「楽しい」と言う気分になれず。





坂の上にあった公園だった。

車は入れない場所だったから、下の方に路駐して、20分ほど上って来た。

歩くのが嫌いなあたしに気を使ってくれて、カバンを持ってくれて、背中を押してくれる。



あいつは、いつも優しい。

優しさを100あったら、100、全部あたしに使ってくれようとする。

あたしは、そんな優しさをくれるたび、凄く幸せな、女に生まれてよかったなぁと言う気分になってた。



夜景は綺麗だった。

近くにこんなに綺麗な場所があるんだね。

とか話して。

「りりかさんがこう言うキラキラ好きじゃん?で、友達が話してたから来て見たんだ。しかも、場所が分からないで、迷ったらりりかさんをあちこち歩かせなきゃいけなくなっちゃうから、昼間下見までしちゃった(笑)」




ありがと・・・


そういうのが精一杯だった。

なんていうか。



素直に。


嬉しい。

この人を好きになってよかった。

この人と一緒にいれてよかった。


そんな風に思えないんだ。


それは、きっと。

罪悪感。




あたしが楽しんでいいのだろうか?

幸せに思っていいのだろうか?


ライラは、子供たちは、寂しい思いをしているのに。



きっと。

あたしみたいに、子供を捨てた人は、みんな一生背負って行くんだと思う。

自分が幸せになったらいけない。

そう言う思いを、抱えながら生きて行くんだと思う。



罰、なんだね。

苦しみながら、生きて行きなさいって。


いつもは、嬉しいあいつの優しさも。

今のあたしにとっては、苦しくなる材料でしかない。



嬉しさや、幸せな気持ちとかって、慣れて行く。

痛みも、毎日続くと痛みに慣れる。


苦しさも悲しさも、慣れるんだろうか。



2002年10月03日(木) 感謝

携帯に知らない携帯の番号で、着信があった。

仕事が終わってから、着信履歴に残っているのを確認した。

なんだろ、とは思ったけど、掛け直さなかった。



夜、お風呂から上がったら、携帯がなってた。

あいつかと思って見たら、夕方見たのと違うしらない携帯番号。

誰かな・・・と思って、出て見た。




「もしもし?」

「あ、つながったー」



次女の声だった。




「どうしたの?誰の携帯??」

「私のだよ!」

「え?」

「お姉ちゃんも買ってもらったんだよ」



夕方の番号は、長女の携帯だった。

お舅さんが買ってくれたらしい。

あたしと好きなときに電話が出来るようにって。

あたしは、感謝してもしきれなくて・・・

涙が出てしまった。



「おじいちゃんに、お礼言ったの?」

「うん、言ったー。嬉しいー」



前々から、ませている次女は携帯を欲しがってた。

でも、まだ必要ないって取り合わなかった。

長女はどっちでもいいよーって言う感じだった。

でも、今度は長女の携帯から掛けなおしてきて、そのときの声は凄く嬉しそうだった。

本当は欲しかったんだね・・・。







ありがとうございます。



本当に、ありがとうございます。

こんな、どうしようもない嫁だったあたしを、気遣ってくれて。

子供たちのためだとは言え、あたしとのつながりを作ってくれて。




「嬉しいね」

「ママも嬉しい?いっぱい電話出来るし?」

「うん、嬉しい。ママからも電話するから」

「うん!してね、絶対ね」

「でも、学校に持って行ったらだめだよ」

「うん、おじいちゃんも言ってた。約束したから平気だよ」

「あと、むやみやたらに、使わないこと。携帯って高いんだからね」

「分かってるよー。ママとパパとおじいちゃんの家の番号しか掛けられないんだってー」

「そんなのあるんだ?」

「そうみたい」





やっぱり、だんな様の実家に電話する事は気が引けた。

だから、子供たちから掛かってくるのを待つくらいしか出来なかった。

でも、こうして、あたしが気軽に電話できて、子供たちも気軽に出来るようになって。



本当にありがたい。






「夕方、出られなくてごめんね、お仕事だったんだ」

「お仕事じゃない?っておばあちゃんも言ってた。それでおばあちゃんが今なら電話したらいるんじゃない?って言ったから電話してみたの」





あたしは、驚いた。

お姑さんがそんな事を言うなんて。

驚いた。




大丈夫だ。

何も心配する事はないんだ。


あの家で育ててもらったら。

きっと、子供たちは素敵な大人になるんじゃないか。



心から、そう思える。


よかった。



2002年10月02日(水) 笑顔

あいつが電話してくる。

毎日、電話してくる。

必ず最初に、「うちに来ませんか?ドライブでも行きませんか?」

とか言う。




あたしは、連日仕事が入っているから、疲れてて「電話だけね」と言う。

金曜日、会う約束をしたから、それまでは電話だけ。

一人でいる事に慣れなきゃね。




そんな事を言ったら、あいつが。

「提案があるんだけど」

「なに?」

「一緒に、暮らしませんか?実家に帰るんじゃなくて」

「は?」



あたしは、実家に帰るつもりだったけど、実家から職場まで遠い事もあって、職場の近辺にアパートを借りるつもりでいた。

友達が不動産屋で働いているので、そこでいい物件を探してもらった。

そのことを、まだ話していなかった。

実家に帰るとあいつの家からかなり遠くなるから、近くになったんだよって驚かそうかな、と思ってて。





「一緒には暮らさない」

「言うと思ったけど・・・」

「でもね、近くには住むよ。今よりちょっと近いかな、5分くらい短縮」

「そーなんだ・・・」



あんまり嬉しくなさそうだった。



「実家に帰ったら車で1時間弱掛かっちゃうようになるけど、新しいアパートは車で15分弱だよー」

「うん・・・」




一緒に暮らさない?と言ってくれた事は、素直に嬉しい。

でも、まだまだそんないきなり出来ないよ。

あたしには、出来ないよ。



だから。


「いつか、一緒に暮らそう。そう思ってるから。あたしは」



あいつは、あんまり納得してなかったみたいだったけど。


でも、まだあいつのご両親の事とか、いろいろあるわけだし。

そんな簡単に同棲だの、なんだの、出来ません。

ここまで周りを巻き込んで、自分勝手して来て。

これ以上自分勝手は出来ないから。

充分、自己中な事、してきたから。



今更、何言ってんだよ、って思うけど。




苦しい思いとか、辛い思いとか、悲しい思いとか、周りにたくさんさせた。

だから、あたしはこれからは、なるべく、そういう思いを誰かに、あたしたちのせいでさせたくないんだ。

もしかしたら、知らぬ間にさせちゃっているかもしれない。

させちゃうかもしれない。


でも、自分たちが出来る範囲では、させないように、努力したい。




強がって、生きて行きたい。

たとえ、苦しくて辛くても、自分たちの中だけで止めたい。

周りを、巻き込みたくない。









寝る前に妹からメールが来た。


「俺にとっての自信は、俺ならりりかさんを本当の笑顔に出来る。りりかさんにはいつも笑っていて欲しい。りりかさんを他の人が大事にするんじゃなく、俺が大事にして行きたい」



あいつが、妹に送ったメール。




そう言えば、あたし最近、本当の笑顔、出してない。



笑えて、ないな・・・



2002年10月01日(火) 簡単に終わる事

子供たちは新しい学校に朝から行って、給食まで食べてきたらしい。

ライラは幼稚園をお舅さんと見に行ったらしい。




だんな様が来て、一緒に離婚届を出しに行った。

係りの人は淡々と「はい、受理します」と言った。


簡単だった。



だんな様はすぐに実家に戻った。



台風が来ていて。

あたしは、家で一人でお酒を飲んだ。






明日は朝早くから仕事なのに。






あいつから電話が来て。

「一緒にいませんか?」

と言われた。

あたしは断った。

今日は、あたしは、一人でいるべきだと思った。






結婚ってなんだろう。

夫婦ってなんだろう。

親子ってなんだろう。



あたしは、何一つ満足に出来なかった。

12年間もあったのに。



あたしの12年間は、簡単に終わった。

あたしが、壊した。





メールをはずしたのは。

今回の事でいろいろな意見を聞きたいと思う反面。

あたしの考えが、いろいろな方からの意見によって左右されるのが怖かったから。

それに、返事も満足に出来ない状態で、メールを頂くのも心苦しいと思ったから。

だから、また近々メールを付けるつもりです。






いろいろな人がいて。

いろいろな道があって。

いろいろな事がある。


それは、楽しい事ばかりじゃなくて。

辛い事もあるし。

後悔だって、たくさん出てくる。



間違った選択をしてしまったり。

結果オーライだったり。



あたしは、これからどんな道に進むんだろう。



そして。

どんな道に進んだとしても。



周りを傷つけるのは、もう嫌です。


自分が苦しむのも、もう嫌です。


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