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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2003年05月05日(月)
「学園祭」編(高二)  その10<突っ走る・・・>


「ああ、小屋がある。
 ここで水をわけて貰うことにしよう」

 舞台は、高橋「王子」が小人の小屋へ姿を現す場面に入っていた。
(もうすぐ、白雪姫の出番だな・・・)
 佐藤はシナリオと段取りを頭の中で確認する。
 その時ふと彼の脳裏に、劇の始まる直前、シナリオに変更が加えられたということで最終打ち合わせをしていた山本と高橋女史の会話がよぎった。



『あのさぁ・・・イインチョーって白雪姫の王子に偏見持ってない?』
『そうね、否定はしないわ』

(・・・委員長らしいな)
 慌しい舞台裏で二人の会話を小耳に挟んだ佐藤は、そんな感想と共に苦笑しきりだった。
 なにしろ「男は雑草のごとく踏まれて強くなれ」そう握り拳で主張された記憶も生々しい。
 偏見云々という会話は、実に彼女らしい・・・と、そこまではまだ良(?)かった。
 が。
 問題はその後である。


『ふーん、でさーこれホントにやるの?』
『二言はないわ。山本君、標語の復唱』
『・・・「闘え、二年五組」』
『そう。
 やるからにはとことんやるわよ』
『まーいいけどねーおもしろそうだからさー』

 
(あの時の山本の、あの妙な目がなぁ・・・。なんか企む時、あんな感じなんだよな。
 ・・・・・・。
 まぁ、委員長のすることだから、そんなにぶっ飛んだコトじゃねぇとは思う・・・けど・・・)


 まさか。
 先ほどの吹っ切れた演技といい・・・。
 まさかまさか?!


 怒涛のように不安に襲われる佐藤を置いて、やっぱり劇は進行する。

「こちらのあるじか・・・水を分けてもらいたいのだが・・・。
 おや?」

 王子のセリフが途切れると、気配がこちらに近付いてくる。
 聞こえるほどにハッと大きく息を飲む演技の後、王子が小人を振り返った。
(ここまでは、俺が知ってる通りだよな。何を変更したんだ・・・?)

「さてー。
 オウジサマは小人の庭で横たえられている、かっわいー白雪姫を見て、目の色が変わりましたー。
 そりゃーねー、これだけかわいかったら顔色変わるよねー。
 でも、この激しく内気な小人に、オウジサマの情熱は伝わるんでしょうかー?」

 かわいいを連呼したナレーションが、のほほんとまるで他人事のように観客に問いを投げかける。
 観客の目の前ではズカズカと小人に歩み寄った王子が、小人の胸倉を締め上げん勢いで「懇願」を始めていた。


「ああ、ご主人!!
 この可愛い女性は一体・・・?!
 いや、言わなくて良い。私が推理して見せましょう。
 きっと、このいたいけな姫君は何か不幸な出来事があって、小さな胸を痛めるあまりにその儚い生を終えてしまわれるところなのでは?!」

 ・・・ブーッ!

「違うのか?!
 では・・・そうか!
 継母のお妃に狙われているという、可愛らしく健気と噂の姫では・・・?!
 ふっ、いやそんなことはどうでも良いのでしょう。
 きっと、まさしくこの女性こそが私の運命の姫に違いない!
 ああ、どうか・・・どうか私にこの女性を委ねてはくださらぬか?!」

 ・・・・・・ブーッ!

「駄目だというのか?!」


 ・・・。
 よくもまぁ「会話」が続くものである。
 というより、失神寸前になっている小林が、それでもまだ自分の役割を放棄せず、震える手で回答ボタンを押し続けているあたりが健気かもしれない。
 なにしろ、王子のなんとまあ、感心するばかりの迫真の演技である。
 小林、自分の役を果たし終えたら知恵熱でも出して倒れること請け合いであった。
 それでもまだ、王子のセリフは終らない。

 <・・・終らないねぇ>