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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2003年01月12日(日)
「学園祭」編(高二)  その4 <ヒロイン登場>

「ところでっ!ウチの白雪姫って、ほんっとに往生際が悪くってー実は僕ら男子連中まだ白雪姫の晴れ姿見てないんだよねー」

 女子ばっかズルイー!と叫ぶ『ナレーション』。
 既にナレーションではなくなっているが、最初からという話もあるのでそれはさておき。
 なるべくなら第三者の目に晒される時間を最小限で済ませたいという、『白雪姫』の気持ちも判らなくはない。
 そんな白雪姫の気持ちを知ってか知らずか(いや、多分知らない)ナレーションは再び叫んだ。

「ここはひとつ!みんなに協力してもらおーと!」

 待てこら、と舞台袖で誰かが呟いた。
 が、そんなこと山本の知ったことではない。
 某所で見たような勢いで、ナレーションは突っ走る。

「それじゃーみんなーっ!白雪姫に会いたいかー!」
「おーっ!!」
「白雪姫の怒りは怖くないかーっ!」

 白雪姫の怒り?と会場を一瞬疑問符の嵐が走り抜けるが、すぐさま「おーっ!!」と理事長を筆頭にノリの良い大きな声が返ってくる。
 山本のノリについていけるとは、さすが「自由」な校風をウリにしているだけは(?)ある。

「それじゃあもしもの時はみんな一蓮托生だよー。ウチのちーさくて可愛い白雪姫はこんな姫様でしたー!」

 ナレーションが不吉な一言を吐いた後、継母を照らしているのとは別のライトがパッと舞台袖近くを照らし出す。
「・・・・・・?」
 すぐに姿を見せないヒロインに観客が首を傾げた時、
「うわあっ!」
 という声とともに、二拍遅れて舞台にひとつの影が転がり出てきた。
 まるで蹴りだされる勢いで表れた姿に、会場から静かなどよめきが生じた。

 艶やかな長い黒髪、目鼻立ちのはっきりとした面立ちに上品なメイク、細い身体に映えるドレス姿。
 ライトと観衆の視線を一身に浴びて、カーッと顔を真っ赤にしたまま、フイと目を逸らす『美少女』がそこにいた。
 誰だアレ、あんな女子がウチにいたか?!
 そんなやや本気の呟きがあちらこちらで上がる中、山本までが「おーっ!」と歓声を上げている。

「白雪姫、かーわいー!やーホントに『ちーさくて可愛い』んだもんなービックリビックリ!」
 頷く継母。
 そして継母は、いつものごとく ―― さらりと爆弾を投下した。


さすがだな、佐藤
「テメェ、ばらしてんじゃねぇ!!」
「あはははははは、ていうか、今のでバレたしー」
「うっ・・・!!」


 切実な絶叫を含むステージ上のやりとりに、観客が再び大きくどよめいた。
「佐藤?!」
「佐藤ってあの佐藤か?!」
「佐藤にドレス着せたらあんなになるのか?!」
「ていうか、さすがってどういう・・・?」
 大抵の者からは驚愕と好奇の声が、本気でヨロメキかかっていた者からは悲痛な叫びが、一風変わったところからは冷静な指摘がそれぞれから飛びだす。
 そんな観衆を置き去りに話は進む。
 というか、話を進めるつもりらしい、この面子。

「てことでー、こんなかわいー姫サマじゃー、おきさきサマが敵うわけないありません。ねー」
「同意を求められても、ふむ、それはそうだな、としか言えないな」
「でしょーやっぱりー。
 でも、このおきさきサマは、ウチの白雪姫とは別の意味で往生際が悪かったらしいですよー」
「往生際が悪いというか、私が負ける相手が目の前にいるというのもつまらない話。ここはひとつ・・・暇つぶしを兼ねて暗殺などしてみようか、とな」
「えーヒマつぶしー?ていうか、ホントに往生際が悪いなーもー、素直に認めちゃえばラクなのにー」

 暇つぶしで暗殺を計画してたなんて、初耳だぞ。
 ていうか、そこで継母が「素直に認め」たら話が終るだろうがオイ。

 舞台の上の白雪姫は、アドリブどころか台本すら軒並み無視した二人の会話に、遠い目でそんなことをポツリと呟いていた。

 (容赦なく、続く)