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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年08月24日(土)
とある朝。

 ある朝。
 佐藤は教室に入ってきた友人になにげなく視線を投げて――ひとつ瞬いた。
「よぅ」
「・・・うす」
 いつものように挨拶をかわし、そしておもむろに鈴木の背中を指差す。
「で、その背中のはなんだ」
「ああ。家を出て三本目の路地で遭遇してな。そのままついてきた。
 ――ちょっと座りにくいな」
 バフッと机の上に鞄を投げ、椅子を引きつつ淡々と返す鈴木少年の背中にあったのは、赤いランドセルだった。
 正確には、どうやら赤いランドセル形の宇宙人らしいが・・・。
「ふーん、またか」
 なにげなく相槌を打って――佐藤はある事実を思い出す。
「なぁ・・・そういや、お前ってバス通じゃなかったっけ?」
「ああ。今日はなんだか乗るのが楽だったぞ」
 平然と言ってのける鈴木少年。
 夏服の男子学生が、赤いランドセルを背負い涼しい顔をしてバスに乗り込んできたら・・・。
 今朝の鈴木に遭遇してしまった不運な一般乗客に、佐藤は心の中で静かに合掌したのであった。


 さて、翌朝。
「・・・なんだ、今日はもういないのか」
 登校してきた鈴木の背中を眺め、佐藤はつまらなさそうに呟いた。
「ああ。昨日の夜に迎えが来たんだ。どうやら迷子だったらしい」
「あっそ」
「さすがに一日あのままだと、背中が蒸れてたまらんかったからな。体育の時間にできることも限られるし。
 今日は身軽でいい。着替えも楽だ」
「ま、だろうな」
 ちなみに昨日、鈴木は赤いランドセル(型の宇宙人)を背負ったまま――教師陣の激しい戸惑いをものともせず――全科目に参加していた。さすがに、彼?を背負ったままでの着替えは無理だったため、体育の授業は制服で受けたのだが。
 赤いランドセルを背負った男子生徒がグラウンドでサッカーをする姿は、一種独特なものがあったことは確かだが、「鈴木だから」の一言で全ては片付いた。

「帰り際に記念撮影をしたんだ」
 噂の鈴木は、そう言いながら学生鞄からミニアルバムを取り出している。
 どうやら、知り合いの写真屋で現像してもらったらしい。
 ひょい、と覗き込んで佐藤は顔をしかめた。
「・・・・・・記念撮影ね」
「ちなみに、これが父親でこれが母親らしい。あとは船のクルーとのことだったが」
「区別付かねぇよ」
 写真に写っていたのは――極彩色のランドセルの群れだった。
 その中に埋もれるようにして、友人は平然とVサインなどをしている。
「ていうか、お前よく父親だの母親だの判ったな」
「親子愛をみたからな。感動の対面だった」
 思い出したようにそっと目頭を押さえる友人の姿に、付き合いの長さと相互理解は決して比例しないことを、佐藤は改めてシミジミと感じていたのであった。