散歩主義

2004年09月12日(日) N‘s jazz house  vol.8




●ゴザンスに投稿した文章です。デヴィッド・ダーリングはジャズのアーティストではありません。チェロ奏者で、アンビエントな音楽を創り出す人です。今回は他に区別のしようがなくて、ジャズ・ハウスに入れました。



【CD】 Dark Wood/David Darling

 音楽は鏡に似ている。このDark Woodを聴くたびに思うことである。聞き
手の状態が音楽をとおしてくっきりとフィードバックされるからである。落ちこんで
いる時ならば、樹海のような森に迷い込んでいるようにも感じるし、逆に深い森の水
と影に守られていると感じることもある。興奮している時は清涼剤になり、軽薄に浮
かれている時はまずこのCDを聴こうとも思わないだろうけれど、これを聴けば正常
にもどる。ぼく自身を振り返れば、自身に深く沈潜したい時によく聴いてきた。

 1993年の録音。ぼくがこのCDを手にしたのが1994年。およそ10年間、
鏡を覗き込むようにしてこの音楽を聴いてきたことになる。ある時はあまりに暗く感
じて、聴き続けることができなかった時もある。それでも聴いた。これは「鏡」だ、
という確信が最初に聴いた時からずっとあったから。
 ただし、例外がある。最初と最後の曲である。この同じ旋律をもつ二つの曲はそれ
ぞれ「Dawn」「New Morning」という。「夜明け」と「新しい朝」。ま
さにこの曲はその名のとおり、ぼくがどんな状態の時でも、ぼくの「駆動装置」だっ
た。何の気負いもなく、すっと立ち上がっていける。そう「させてくれる」曲だった。

 全編、チェロの独奏である。といっても何層にも多重録音されていて、分厚いチェ
ロのサウンドが展開されている。楽曲はすべてダーリングのオリジナル。エレクトリ
ツク8弦チェロも使用していた前作と違い、アコースティックのみである。その前作
にクレジットされていたように、この音楽はグレゴリアン・チャント、聖歌、哀歌に
インスパイアーされている。もちろんインプロヴィゼーションの部分もある。これで
ピンとくる方も多いのではないだろうか。
 また、ジャン・リュック・ゴダールやヴィム・ベンダースといった映画監督に強い
インスピレーションを与え、彼らの作品内で使用されてもいる。さらにダーリングの
ソロ作品を世に送り出しているのがキース・ジャレットのソロ作品で名をはせたEC
Mレーベルときけば、ご存知の方ならば彼の音楽のアウトラインはかなりはっきりと
みえてくるのではないだろうか。イメージが浮かびやすい、アンビエントともいえる
音楽だ。

 アルバムはダーク・ウッドの�犬�ら�擦泙任料閥雰措阿砲覆辰討い董吻気�ら�靴倭�
作「チェロ」に収められている)、そのなかに「Dawn」「Journey」「B
eginning」「New Morning」といった「始まり」を予感させる曲
が散りばめられている。アルバムそのものが、暗い幻想的な森へ旅に赴き、そして帰
ってくるというようにトータライズされているけれど、全体を覆う感覚は「夜明け前」
だ。
 美しい混沌、あるいは動き以前、言葉以前のなにか、というような感覚である。

 何かが終わり、何かが始まるとき、いちど鏡をのぞきこんでみるのもいいかもしれ
ない。そんな思いでこの音楽を紹介します。

 ■ ダーク・ウッド/デヴィッド・ダーリング  (ECM  pocj−127
5)



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