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2002年09月16日(月) 海辺のカフカ

村上春樹の「海辺のカフカ」を読んだ。

8月にAmazonで予約していたのに、結局今週末に届いた。
Amazonは「メール便」で届けば、勝手にポストに入れといてくれるんだけど、「ペリカン便」になってしまうと、サインが必要なので週末にしか受け取れない。「海辺のカフカ」はメール便。よって今週末にようやく手に入れた。

上下刊で約800ページ。
速攻で1日で読んだ。
毎週届いてしまう日経ビジネスと、仕事の役に立ちそうで立たないハーバードビジネスレビューとを30分ごとに切り替えながら。

内容的にはBTTB。
Back To The Basic。
「羊を巡る冒険」から「ダンスダンスダンス」に至る、クラッシックな村上春樹。
僕は正直言って、ここ10年くらいの村上作品には閉口していた。
やっぱ「やれやれ」とか言ってくれないと。

恥ずかしい話だけど、1980年代の後半、学生だった僕は村上春樹フリークだった。
文学部にいた僕はいろんな作家の文体を真似て文章を書く事をひとつの「芸」として身に付けていた。
そのなかで、最も得意としていたのが、村上春樹文体だった。
卒論の題だって「月曜日に世界は終わる」だ。
内容的には村上春樹には全く関係ないのに、文体だけ村上春樹風で書いた。
おかげで、卒論の質疑応答は村上春樹に関することばっかりだった。
村上春樹に関することは一言も書いてないのに。
一応、「優」はもらったけど。

期待の「やれやれ」というセリフは下巻の本当の最後の最後にならないと出てこない。
いつものごとく「静謐」な作品だ。

この作品で注目すべきは「ホシノちゃん」だと思う。
主人公の「僕」、「大島さん」、「佐伯さん」はいつものパターン。
「ナカタさん」もおもしろいキャラクターだけど、世界の終わりとハードボイルドワンダーランドで見たような気がする。
だけど「ホシノちゃん」のキャラクターは今までの村上作品ではあり得ないキャラクターだ。自衛隊出身の長距離トラックの運転手。
あとは、ポン引きのカーネル・サンダースとか(ユング的にはありきたりのキャラ)。
うーん。村上春樹もようやく、現実世界に目を向けたな。
図書館で本を読んで、ビールを飲んで、ドーナツの穴の形而上学的な意味に悩み、「やれやれ」とか言ってるだけの世界からようやく外の世界に出たな。

作品としてはエディプスコンプレックスをテーマとしている、ありきたりの作品なのかも知れない。あまりにも忠実過ぎるユング的世界観。
そのうえに両性具有だとか近親相姦だとかといった「文学的にはわかりやすいテーマ」が絡む。
それに初期の作品の特徴とも言える「異界」。
「現実世界」と「異界」。
そこにややこしい、哲学世界がからんでくる。
「作品」としての世界感は「ダンスダンスダンス」に近い。
そして「ひつじ」に替わって「カラス」
構成的には「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」。
ちなみに「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」は僕の保有する約4000冊の本のなかでも最も好きな本のひとつだ。

村上春樹はもはや、クラッシックなのだろう。
1970年代を引き摺った(学生運動にうまく乗り切れなかったコンプレックス?)、1980年代の作家なのかも知れない。
でも、村上春樹に替わる作家が未だ出てきていないのも事実だ。

だれか、2000年代にふさわしい面白い小説読ませろ!




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