戯言。
2005年04月11日(月)  殿のモデル3・4ウラ事情。

※言わなくてもわかるけど捏造

*****

その日、合肥に出来上がったばかりの新しい城内は一歩踏み入れただけで凍り付いてしまいそうなほどの冷気に覆われていた。

「........何だ、これは」

その発信源は、後に文帝という諡を戴く魏の君主。
姓は曹、名は丕。字は子桓という。
そして、彼の周囲皆が凍りついている中唯一動じず、笑顔を浮かべる男。
姓は張、名はコウ。字は儁乂。
曹丕の父、曹操の代から仕える将である。

「良くお似合いですよ、殿。この張儁乂が精魂込めてお選びしたご衣裳、見事に着こなしておられます。この城の美しさに加え、殿の装いの美しさに皆心を打たれることでしょう!」

にこやかに話し掛け、舞う様に移動する。
その髪は見事に結い上げられ美しい髪飾りで留められており、身にまとう衣装も色とりどりの薄布を重ね、何処ぞの舞姫と間違えられそうな出で立ちであった。

そして、その目の前で表情を消し去った曹丕の普段は低い位置で無造作に纏められている髪も、張コウ同様高い位置で結い上げられ豪奢な髪飾りで留められていた。
身にまとう衣装も、青を基調とした普段のものと比べると格段に色使いが派手で、周囲の者も正直かなりの違和感を感じていた。

「....と言っているがどうだ?仲達」

絶対零度の笑みで問い掛けられれば、いかな歴戦の軍師といえども怯まずにはいられない。
未だかつてこれほどの苦境に立たされたことがあるだろうか、と半ば自らの不運を呪いつつ、司馬懿は覚悟を決めて口を開いた。

「ふ、普段とはまた違った装いも、新城の落成記念という晴れの舞台に相応しいかと....」
「そうか。張コウに私の衣装選びを一任したお前がそう言うのならこれで良いのだろうな」

そう言う曹丕の瞳は笑っていない。
「違う、私はこの男にその様な事を言いつけたりはしていない!それどころか、半ば脅されてこの役目を渡す羽目になったのだ!」この真実を声高に叫びたかった。
だが身分差に関わらず普段から思ったことを口にするこの軍師でさえ、更に口の端を上げ、笑みを深めるこの君主に反論するなどという無謀なことはできなかった。

何も言えず固まる家臣たちをその場に残し、曹丕は相変わらず冷気を振りまきながら群集の待つ広場へと移動した。
張コウに自分の衣装を任せることになってしまったた司馬懿には勿論責任がある。
だがしかし、最たる責任は張コウを焚きつけた奴にあることを彼は知っていた。
そして、唯一その人物には自分も頭が上がらないことも。
だからこそ余計腹立たしい。
そして、そういう時に限って張本人と出くわすのだった。

「ほう、なかなか豪勢な衣装じゃないか」

声のした方向に視線をやると、予想通りの人物が腕を組み、口許を緩めて立っている。

「お褒めのお言葉を賜り、光栄だ」

嫌味のつもりで軽く頭を下げると、結い上げられた髪が揺れて首元に当たり、正直気持ち悪い。
更に全身をまじまじと眺められ、不快感が募った。

「まあそう怒るな。いいじゃないか、魏王が新城の落成式典に纏う衣装だ、それくらい派手にいかないと示しがつかん」
「どの様な示しか分かりかねる。だいたいこの様な派手な衣装には向き不向きというものがあるだろうに」

亡き父、曹操は派手な色使いの衣装を好んで身につけていた。
そう、丁度今自分が着ているような。

「大丈夫だ、悪くない。だいたいお前は普段から地味なものばかり好みすぎだ。たまには君主らしく、豪奢に装え。あの世で孟徳が泣いているぞ」
「あの父がこれしきのことで泣くか」
「いーや、分からんぞ。孟徳もお前のその自分への無頓着ぶりには手を焼いていたからな」
「....それで張コウに何やら吹き込んだのか、元譲殿」
「さて、何のことだか」

あらぬ方向を見ながら空とぼける、この育ての父にかかるといつもこれだ。
ほんの少しも悪びれずに、逆に言いくるめられてしまう。
世間では猛将だとか何だとか言われているが、自分にとってはいつまでたっても底の読めないクソジジイだ。
だが、少しくらいはやり返しても罰はあたらないだろう。

「まあいい、民が待っている。元譲殿も来られよ」
「何ぃ!?」
「せっかくの式典だ、父の代からの将であり私の親代わりでもあるあなたが来なくてどうする」

そのまま嫌がる夏候惇を引き摺り、広場に連れ出した。
豪奢に装った若き魏王と共に現れた歴戦の将軍に、広場に集まった群衆は歓喜した。
表向きにこやかに相対していたが、夏候惇がこの手の華やかな場を苦手としているのを曹丕は知っていたので、少しばかり溜飲が下がる思いがした。
今の自分の状況からすれば、このくらいの意趣返しは許されるべきだと思う。
微妙に引き攣る笑顔を見せながら隣に立つ育ての父をチラリと見やり、曹丕はほくそ笑んだのだった。

そして式典も無事終了し、自分では派手だと思っていた衣装も概ね好評だったらしい。
慣れない場に連れ出されて疲れた、と文句を言う夏候惇を尻目に、たまにはこういうのも悪くない、そう思う曹丕であった。

だが彼は知らない。
来るべき即位式に向けて張コウが心血注いで更なる豪勢な衣装を発注しているという、彼にとっては恐ろしい事実を....


*****

史実とは異なるけどムソ世界だからまあいいや。
つまり、あの殿のアリエッタな装いは張コウプロデュースだったと言いたいワケ。
更にウラには夏候惇という黒幕が....ってね。
ムソ界では惇兄は殿の育ての父だと勝手に思ってるので、自然とこうなる。
でもって結局殿も司馬さんもヘタレ....なんか書いてて和んだので良し(ぉ

つーか遂に千石CDを発注してしまった。このダメ大人め....


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