デイドリーム ビリーバー
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2003年07月27日(日) 携帯事件その4 解決

何からどう話せばいいのか、混乱していたけど
言うからには、出来るだけ早く、ストレートにって思いました。

言い訳やごまかしを考える余裕、もたせないように。
とっさの表情も見逃さず、本心を知ろうと思いました。

覚悟は決まった。
まずは、疑惑の写真のことから、と、声を出そうとした瞬間、

言おうとして開いたその口に
なぜだか知らないけど、気持ちとは逆に、大量の空気が入ってきて

口をぱくぱくさせるんだけど、それでも空気はどんどん入ってきて
ひきつけみたいな情けない声を出すのが、精一杯。

もう苦しくて、これ以上息を吸えないのに
吐きたいのに、体が勝手に、どんどん息を吸い込んで
苦しくて苦しくて、やっと無理して、食べ物を吐く時みたいにゲホッって吐いたら
その時には、私はもう泣いていました。



覚悟なんか、本当は、いくらしたって意味がなかった。

言おうとしたあの瞬間、
私、「本心を知る」っていうことが、恐くなったんです。
本心を知って、彼と別れることが、リアルになったら
ものすごく、恐くなってしまったんです。

人前で泣くことのないはずの私が、この一年半、
彼の前で何度か泣いてしまったけど、その中でも、今回はちょっと違う
しゃくりあげて泣くというのか、嗚咽をあげて泣くというのか
とにかく派手な泣き方で

彼は動揺して
おそるおそる、私のほうに手をのばして
それでも、振り払われないのがわかると、少しだけホッとしたみたいで
私の肩を、必死にさすっていました。

「どうしたん」
「俺、なんか変なこと言った?」

彼の友人との食事で、昔の話も、多少は話題にのぼって
前の彼女の具体的な話はなかったけど、
前の彼女との日々を、少し想像させるような
彼女と付き合っていた頃の、彼の仕事のことだとか
あと、もうひとり前の彼女の話だとかは、出てきていたのです。

彼は、私が、その辺りのことでヤキモチを妬いていると思ったらしく

「心配せんでええからな」
「俺は宙ちゃんのこと、ちゃんと好きやからな」

って言うから、
そのことと違うって、首を左右に振ったら

「じゃあ何?」
「何でも言っていいねんで」
「ごめんな、俺、宙ちゃんを傷つけるようなこと、言ってしまってんな」
「不安に思うことなんか、何もないねんで」
「宙ちゃん、元気出して」
「宙ちゃんー」
「宙ちゃん…」



一方、私は、あいかわらずハデに泣きじゃくりながらも
少しだけ、冷静さを取り戻し始めていました。
涙って浄化作用があるっていうけど、本当みたい。

そしたら、ぱたぱたぱたっと音がして
サイドブレーキのあたりに、数滴の水が落ちたと思ったら

彼も、泣いてしまったみたいでした。

私がまだ泣いていたから、彼の涙に気付かなかったと思ったのか
とっさに、その上に手をおいて、落ちた涙をかくして
もう一方の手で、頭をかく振りをしながら
Tシャツの肩で、涙をふいているみたいでした。


私はまずいって、思いました。

彼が、浮気を悪いと思っていないような人なら
これって嘘泣きだし
いや、わざわざ隠してるから、多分、嘘泣きじゃないんだろうけど

だとしたら、考えられるのは

あれは、つい出来心の浮気で
私が話したら、このまんま、泣きながら謝られて

それを許すか、許さないかの次元の問題になってしまうのが
いやでした。
なんか、そんな、三流ドラマみたいな関係はいやだと思いました。



私は、ようやく、なんとか冷静さを取り戻して
ハンカチで、ぐちゃぐちゃの顔をぬぐって
「ごめんね」って、言いました。

「宙ちゃんは何も悪いことしてないやろ。悪いのは俺なんやろ」
「ううん」
私は、呼吸を整えて、彼の、まだ少しうるうるしている目を見つめました。
泣きはらしたひどい顔見られるけど、しかたない。
一瞬の変化も見逃すまいと、思いました。

「悪いこと、した」
って言ったら、彼は、少しびくっとしました。
「なに」
「…ケイタイ見ちゃったの」



そう言うと、今にも泣きそうだった彼の顔が
急に、ホッとしたみたいな、笑顔に変わりました。

「何や、そんなことか。そんなん、気にせんでええのに。
 宙ちゃんは、いつでも見ていいねんで。俺、見るなとは言ってないやろ?
 ていうか、いつも見せてるやん!もー、何かと思ってびっくりしたわ」

おい。この笑顔は、一体なんなんだ。
完璧に嘘をつきとおせる、極悪人なのか
もしかして、携帯にそういうの残しているのを忘れているのか。

「あやしいのも、なかったやろ?」って自信満々に言うから
ううんって、首を横に振ったら
「え?あった?どれどれ?」って、メールの履歴を開く。

ていうか、なんでそんな嬉しそうに、愉快そうにしてるんですか。

こりゃ、前の彼女のメールのことも
「黙っててごめんな、でも返事してないからな」
とかなんとか言われておしまいだと思って

「違う、写真…」

と言いかけて、ここで私、あることを思い出しました。
ロビーでコーヒー飲んでた女の子の髪が、濡れていたことに。
そして、車に乗った同一人物の髪は、濡れていませんでした。

そうです、例の、写真の順番に、やっと気付いたんです。

会社のロビーでコーヒー飲んでた女の子を→車に乗せて→エッチなことした
のではなく、
エッチなことして→車にのせて→会社のロビーでコーヒー飲んでた。

更に、次のことにも気付きました。
車の女の子を、会社の女の子だと思ったのは、OLらしい制服を着ていたからです。
だけど、エッチな写真の女の人は、制服じゃありませんでした。もっとも、
ほとんど着てなかったけど。

ホテルでエッチなことしてる時は私服で
そこから車で会社に行く時は制服?
ちょっとありえません。

数枚のエッチな写真と、車と会社の2枚の写真は、多分別の日です。
ていうか
エッチなことした人と、会社の女の子も、別人かも。

そこまでわかったら

ああ!そうだったのか!ていうことは、そうか!あれか!
そういえばそうだ!あっつまり、これはあれなんだ!

って、ほかのことも、どんどんわかってきました。

それなのに、彼は嬉しそうに
「わかった!この子にヤキモチ妬いてたんやろ。
 これは、大雨の日に、営業所の子を、ついでに本社に送ったときのやで」
「わかってるもん!結局、濡らしちゃったかなんかで、
 コーヒーおごってあげたんでしょ」
「お、よくわかったなあ。正面につけてあげられへんかったから
 駐車場から歩かせて…なんや?コーヒーおごったから怒ってんのか?」
「そんなんじゃないもん!」
「眉毛なしの写真、撮るぐらい仲よさそうやから、妬いたんやろー」

その人は、いつも、きっちり眉をかく人らしいです。それが雨で流れたから
おもしろがって撮ったんだそうです。
どうりで、彼女が恥ずかしそうに笑っているはずだ。

「そのくらいじゃ、妬かないもん!」
「えー?じゃあ、どれやろう」
彼が次の画面へ切り替える。

すべてがわかった今となっては、気まずい限りなので
「あーもういい!もういい!終わり!」
って言ったんだけど、もちろんやめない。

そのうち彼は、次の、エッチなやつを見つけて
さすがに、少し口ごもった。
「うわ…宙ちゃん、これ見たん?俺、てっきり消したと思ってた…。」

顔を赤くして、にゃははははって恥ずかしそうに笑って

「ごめんなあ。これはなんというか、男のサガとでもいいましょうか、
 宙ちゃんがいややったら、これからは、こういうのは残さへんし、
 でも完全に見るなと言われると、それはその、なんといいますか
 できれば許して欲しいといいますか、
 だって宙ちゃん、俺がこの携帯買ったとき
 これでアダルトサイトの写真、接写しようって言ったら、笑ってたから
 別にいいんやと思って、
 いやもちろん、宙ちゃんがどうしてもいやなら…」

「あーもうわかったから!別にいいから!見ても!接写しても!」
「え!いいの!?」
「やっぱりだめ!」
「えー!宙ちゃんは、男のロマンをわかってない!」

そうなんです。あれは彼じゃなかったんです。
今思うと
女の人をさわっていた男の人の手が、彼の手じゃありませんでした。
それに、なんと、その画像、よく見ると
写真の下の方に、WINDOWSのスタートボタンが、少しうつっているんです。
 
気付くわけないじゃないですか、だって頭に血がのぼっちゃっていたんだもん。

「じゃあ、宙ちゃん、どれにヤキモチ妬いてたん?」
彼は不思議そうに、写真を見ながら考えこんで
しばらくして、パッと顔をあげました。

「もしかして、これ、俺やと思った?」

あーばれてしまったと思ったら、急に顔が熱くなった。
おかしいんです。だって私は、あんまり顔にでないタイプのはずなのに
親にさえ、何考えてるのかわからないって、小さい頃から言われていたのに

「宙ちゃん、ゆでだこみたいになってんで」
なんて、彼に言われて
抱きしめられて
「宙ちゃんすぐ顔に出るなあ。かわいいなあ。俺が浮気したと思ったんや。
 それで、あんなに泣いてくれたんやなあ」
なんて、すごい、にやけた顔で

「あー、俺、愛されてるって感じやなあ。
 ごめんなー、宙ちゃんあんなに泣いてしんどかったのに
 俺、めっちゃ嬉しい」

って、顔じゅうに、いっぱいキスされたのでした。



ごまかされてるんでしょうか。実は彼はやっぱり浮気していて
私は上手く丸め込まれた、その可能性はゼロじゃないと思います。
これから浮気されない可能性だって、ゼロじゃない。
疑惑が生まれるたび、私はまた、じたばたしてしまうんだろう。
もっとみっともないことをしてしまうかもしれない。

だけど、今回は、ひとまず前に進もうと思います。
なんだか、一つ、大きな壁を乗り越えた気がする。彼と一緒に。

前の彼女のメールのことは、今回は言わないでおくことにします。
でも、いつか言うかもしれない。怒りながらか、ふざけながらか。
何年も経って「こんなことでヤキモチ妬いたことあったんだよ」
なんて言うのかもしれないし。一生言わないかもしれない。
それはわかりません。

言ったら、またここに書きますね。



でも実は、私、いまだに本気で思っているんですよね。
眉毛なしで、恥ずかしそうに笑っていた、会社の女の子、
あの子絶対、彼に気があるって。

彼に言ったら、どうせ、過大評価しすぎって笑われるから言わないけど。
ふだん「俺ってかっこいいから」とかふざけて言ってるけど
前に「ただのエロオヤジやし、そんなにかっこよくないし、モテへんし、足短いし」
って、ちらっと言ったことある、多分あれが本音で。

彼はわかってないんだよなー。自分がかっこいいって。

ていうか、これも、私の恋の病気なのかな。
かっこいいと思うんだけどな。


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