デイドリーム ビリーバー
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2003年07月09日(水) 携帯事件その2 浮気?

一枚目の写真は、たいしたことなかった。
会社のロビーで、自販機の紙コップ持って
恥ずかしそうに笑っている、制服姿の女の子。
会社の子なんだろうな。
ムッとはしたけど、それだけでした。

心臓が、ドキンとなったのは、次の写真。

さっきの女の子が、今度は車に、
彼の車の、見慣れた助手席に、座っていました。

ここでやめておくべきだったのかもしれません。
だけど私は、次の画面へ、スクロールさせてしまいました。

次の画面にも、何枚かの女の子の写真。

これが今までのものと違ったのは、普通の写真ではなく
エッチな写真だったということです。

ただのエッチな写真じゃないですよ。
彼のプライバシーと名誉のために、ぼかして言うと
いわゆる、モザイクなしっていうやつでした。
別にカマトトぶるわけじゃないけど、かなりの衝撃写真でした。
ちなみに、顔はうつっていません。体だけ。

早鐘、っていうのは、こういう時の心臓のことを言うんだと思う。
ドキドキなんてものじゃなかった。超ハイスピードの、ドックンドックン。
重くて、熱くて、痛くて、苦しくて
心臓が壊れると思いました。

一瞬で、
今までのすべてが、信じられなくなってしまいました。
彼のやさしい言葉も
ぬくもりだとか、笑顔だとか、そういうものもすべて。

普段、私に、あんなにやさしい彼が
まさか、会社の女の子と、ホテルで遊んでいるなんて。



私だって、彼が、エロエロ星のエロエロ星人だっていうことぐらいは
知っています。だけど、正直、「口だけ」って思っていました。

私達がつきあうことになったとき、飲み会のメンバー達が
「そうなると思った」とか、いろいろ嬉しいことを言ってくれて
中には「宙ちゃんが、とうとう、○○のエロのえじきにー」
なんてふざけて言う、酔っ払いもいたんだけど
(つまり、その時点ですでに彼は、エロで通っていたってことです)

その時、私の周りにいた女の子達が、ひそひそと
「でも、○○君みたいに、エロいこと言う人って
 実際の時はそうでもなかったりするよね」
「そうそう、普段何も言わないムッツリ君の方が、結構、
 とんでもない浮気とかするよね。意外と風俗好きだったり…」
なんて言っているのが聞こえて。

別に、それを信じていたわけじゃないんだけど
でもやっぱり、気にしていたのかな。
こういう時になって、思い出すっていうことは。

私とつきあっていて、
それでも、他に、どうしても好きな女の人ができたのなら
まだ、いいんです。いや、よくはない。決してよくはないけど
私との時だって、結局そうだったわけだし。
それに関しては、何も言えないって、自分でも思っているんです。
でもこれは、そういうのとは違いますよね。
エッチな写真を撮ったり、そういうのって
何ていうか、楽しんでいますよね。

彼って、遊びのセックスはOKって考えの人だったの?
浮気は男の甲斐性とか、下半身は別人格とか言っちゃうわけ?
それに、一年半も気付かなかったなんて!

私はどうしたらいいの?
許せるほど、寛容じゃないし
そういう男って、やめてって言って、やめるものじゃないだろうし
やめたとして、許せるわけじゃないし、
これからのことが信じられるわけでもない。
どうするの?別れるの?続けるの?
ていうか、言うの?これ見つけたこと、彼に。
何て言うの?

収集つかなくなるぐらいに、いろんなことが
頭の中、ぐるぐるまわりました。
とても醜い顔を、していたと思います。



ところで、冷静な人は、ここで気付いたでしょうか。
私の勘違いに。

一番上に、今日の、私たちの写真がありました。
そのあと、数枚の、最近の私たちの写真を経て
会社のロビーの女の子、そして車内の女の子、その次に、エッチな写真。
そのあとは、また、私たちの、春頃の写真でした。

私はこのとき、てっきり
会社のロビーの女の子を→車に乗せ→ホテルに行きエッチなことをした
と思い込んでいましたが
写真の順番から言って、時間が逆なんですね。

時間の流れから言うと、
エッチな写真→車に乗せた→ロビー
となるわけです。それがいったい、何を意味するのか。

でも、こんな、心が大荒れの時に、そんな細かいところに気付くわけもなく

彼の携帯は、私のと同機種だから、
考えるよりも先に、手がもう、使い方を知っていて。

とっさに、見てしまいました。メールの履歴。

ああ、嫉妬に狂った女って感じ。



履歴は、見たのが申し訳なくなるぐらい、私のメールだらけでした。
もちろん、時々、私以外の人の名前もありましたが。

彼の職場は、女の人が多いので、必然的に、女の人からのメールも多く。
ざっと見たのですが、これも
見たのが申し訳ないぐらい、仕事の内容ばかり。

たまに、仕事の内容にからめて、エッチな発言もあって、むかついたけど
まあ、エロエロ星人だししょうがないなあと思える程度。
私と友達だった頃にも、やりとりしていたような
冗談ぽいものだったので、まあ、いいとします。
ていうか、怪しいものではないな、と、思えたのです。
勘にすぎないのだけど。

疑惑の写真の、だいたいの時期を、見当つけていたのですが
受信歴にも送信歴にも、それらしいものがありません。

彼は、いちいちメールを消して証拠隠滅するような、マメな人じゃないし。

いや、実は、私の見る目が曇っていただけで
マメに証拠隠滅する人だったのかもしれないんだけど。

だけど、彼が、証拠隠滅などをしない人だっていうのは
意外なところで、はっきりしました。
受信歴をスクロールさせていった先に、
よくよく知っている、女の人の名前を見つけたのです。
証拠隠滅をするようなマメな人なら、絶対に消すだろう名前。

前の彼女の名前でした。


これはある意味、さっきの写真よりも、ショックです。
彼はこのことを、一言も言っていなかったから。

でも。

私は、いつだったか、彼にきいたことがあります。
「もし彼女が、会おうって言ってきたら、どうするの?」って。
彼は、「会わへんよ」って言いました。
「宙ちゃんが大事やから、会わへんよ」って。

だから、私は「会ってもいいんだよ」って言いました。
会いたい、とか、会うべき、とか思ったら、会ってもいいよって。
電話で話してもいい。
その代わり、隠さないでって。会う前でも会った後でもいいから
絶対に教えてって。
そして、どう感じたのかも、できたら教えてって。

浮気はいやだけど、本気ならいいんだよ。
だから、
前の彼女に限らず、誰かに本気になったら
できるだけ早めに教えてねって。

彼は、少し怒ったような顔をしました。
「俺は、宙ちゃんに本気やの」

私は少し嬉しくて、そして、少し切なくて
「うん、わかった、ごめんね」って言って。
運転席から身を乗り出してきた彼が、私を抱きしめて
「宙ちゃんは、そんなこと考えんでいいの」って言ったけど
「でも」って
やっぱり私は、言わずにはいられなかったんだ。

「でも、もし、もしも、誰かを好きになることが、もしも、あったら
 お願いだから教えてね」

「…わかったよ」
彼は、ため息つくみたいに、そう言って
私のことを更にギュウっと抱きしめてくれた。
「頑固者」って、小さくつぶやいて。


彼が彼女と別れて一年半経って、送られてきたメールは
すごく事務的な内容でした。
携帯の番号が変わりました、っていう、それだけの。
多分、別れて初めてか、それに近い形で送られてきたのだと思います。
根拠はないけど、そう思います。

送信履歴に、彼が返信した痕跡は、ありませんでした。



心の中が、二つに分かれたみたいでした。
いろんな感情がごちゃごちゃとうずまく、濁った泥水みたいな心と
無条件で彼のことが信じられる、澄んだ水。

泥水だけになってしまうには
あまりにも
彼から、本気の暖かい心をもらった思い出が、多すぎました。


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