written by 田村 MAILHOME
#明け方の電話
2002年08月26日(月)

明け方3時、突然携帯電話が鳴る。

こんな遅い時間に一体誰だろう、半ば朦朧としたまま液晶に表示された番号を確認すると、見慣れない番号であった。

かといって最近よくあるワン切りの類でもないようだ、相手も携帯電話である。出るのを躊躇していると、そのうち切れてしまった。

こういった電話は非常に気になる。こちらから掛けてみようかとも思うが、単純な間違い電話である可能性も捨て切れない。

しかし、である。もしかしたら知り合いなのかもしれない。電話を換えたのだろうか?更にこんな時間だ、何か緊急の用事があったのかもしれない(薄幸の女友達が悪漢に騙され多額の借財を背負う羽目になり、思い悩んだ挙句私を頼ってきた、など)。

友人の危機を、黙って見過ごすことなどできない。思い切って電話を掛けてみることにする。

 

ルルルルルルル・・・チャッ

 

『もしもし?』

 

聞きなれない(男の)声であった。どうやら(女)友達ではないようである(がっかりしたわけではない)。こちらも黙っていては会話は成立しないので、取り敢えず(簡潔に)状況を説明しようと試みる。

 

田「先ほど電話かけました?」

『は?あんた誰?何時だと思ってんの?』

 

こっちのセリフである。元はといえばそっちがかけてきたのだ、随分勝手な言い草である。そもそもこんな時間に他人の家に電話をするなど、非常識にも程がある。声から推測するに、恐らく10代後半〜20代前半ぐらいであろう、こういった常識を知らない現代の若者には、一度社会の厳しさを教えてやる必要があるのだ。決して私怨ではない、彼の将来を思って、私は提言するのである。

 

田「すみませんが、先ほどはどちらにおかけでしたか?番号間違えてませんか?」

 

物腰柔らかに彼にそう伝えた。一から十まで教えてやる必要は無いのである、与えられたヒントを元に自ら考え、答えを見つけ出してこそ、意味があるのだ。後は彼にゆだねるとしよう。別に卑屈になっているわけではない。

 

『は?何言ってんの?』

 

どうやら伝わらなかったようである。こちらもいい大人だ、紳士的な態度を貫こうと考えていたが、彼の反応に大いなる失望(と若干の眠気)を覚えてしまい、「あーはいはい今度から間違えないで下さいねーはいまたー」と言って切ってしまった(後からこの態度は少々非紳士的であったと後悔した)。

軽い憤りを覚えつつも、再び床につく。彼は私が何故あのような言葉を発してしまったのか、考えてくれただろうか。自分を省みる努力を行ってくれたであろうか。気がかりなのは、そこだけである。これからの日本を背負う青少年の健やかな成長に、私は貢献できたのであろうか?

 

ルルルルルル・・・

 

彼からであった。自分の間違いを認め、素直に謝罪できなかったことを悔いて、再びかけてきたのかもしれない。良かった、私は間違えてはいなかった。

 

『どこ住んでんの?』

 

そんなことを聞いてどうするのであろうか、これから会おうとでも言うのか。思わず「そんなこと聞いてどうするんですか?」と言い返してしまった(こんな時でも紳士としての言葉遣いは忘れてはならない)。

向こうも状況を的確に把握できずに居るらしい、どうもこちらが一方的に悪者であるような口調であった。仕方ないので、少々面倒であったが事情を一から的確に説明してやることにした。

 

『あ〜そうなんですか、すみません、ボクが悪かったみたいです・・・』

 

最後には納得してくれたようである、良かった、人間は話し合えば相互に理解できると言うことがこれで証明されたのだ。争いがなくなる日も近い。

 

最初からちゃんと説明しておけば、こうはならなかったはずである。修行が足りないようだ。




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