たそがれまで
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2004年11月17日(水) 望郷




最近、どうも調子が悪かった。
体調もだけど、精神的にも滅入っていた。

ほんのちょっと誰かに愚痴れば気が済む程度のものを
少しずつ少しずつ溜め込んでしまったようで
一気に爆発してしまった。


人間というのは身勝手なもので
いつでも心の中で不満を作り上げてしまうようだ。
人間という大きな括りは大袈裟かもしれないけれど、
少なくとも私はその中の一人だ。

苦しい生活の中では苦しいなりの
ぬるま湯の生活の中ではぬるま湯なりの
そんな不満。

昔、シングルマザーで髪振り乱して生活していた頃には
「ど〜ってことないよ」と笑いとばせたような些細なことが
今の私には笑い飛ばせない。
気持ちが負の方向へ進んでしまうのが分かる。



ある夜、どうしても寝付けなくて夜更けに部屋着のまま車で家を出た。
そして少し走ったところで気が付いた。
私には行きたい場所が無い。

少し行けば車で走るには最適な海沿いの道はある。
車を止めれば星もたくさん見られるはずだ。
だけど行く気にならなくて、山に向かって走り出した。

だからと言って何の目的も目的地も無い。
ふと、思った。
このままずっと走れば、故郷に帰れる。
このまま4時間も走れば故郷に帰れる。

そうだ、私が見たいのは故郷のあの海だ。
湾の向こう岸に街の夜景が見えるあの海だ。
往復のことも考えれば、気が済むだけドライブできるはず。

帰りたい
帰りたい
帰りたい



このままの帰ろうか
明日は休日
ガソリンは満タン
高速代も何とかなる。
いや高速になど乗らなくも良い。
着替えも姉の家に行きさえすれば何とかなる。

そんな気持ちがだんだん膨らんで
すっかり帰る気持ちになった。

だけどあの海を見るには欠かせないCDが無い。
あの海沿いを走る時には必ず聴く曲が無い。

ただそれだけを取りに、一度家に戻ることにした。
ついでだから着替えとお金も取ってこよう。
そう思って家のドアをあけると
寝ていた筈の夫がリビングのソファーに座っていた。

突然里帰りすると言い出した妻に、ひとしきりの動揺。
とにかく話せ。何があったか話せ。
なんでもいいから話せ。思っていることを話してみて。

と言われても、これといって明確なことはない。
職場での人間関係のゴタゴタは前々からあったこと、
それに随分改善されたと思う。
確かに人が減って負担が大きくなったことはあるけれど・・・

そうだ。
仕事をスタートした時から一緒に頑張ってきた相棒が
今月半ばで辞めた。
体調不良が原因だから無理に引き留めることは出来なかった。
女性特有の病気で、来月入院して手術を受けることも決まっている。
同じ年代だから彼女の離脱の原因は確かに堪えた。

だけどそれだけが理由じゃない。


ほかは?

そう訊かれたところで現在の私には、
家と職場にしか日常的な人間関係は存在しない。
実はそれが一番の原因かもしれない。


そしてきっと、
故郷に帰ったとしても何かが大きく変わることはない。
本当に帰りたいのはただの故郷ではなくて
楽しくて笑い転げた時代の故郷だ。
時間を遡ることは不可能で、
つまり本当に帰りたい場所には戻れないのだ。





結局、夫と話し込んで時間を消費してしまったので
その夜は帰らなかった。
もう寝ようとベッドに入ったのは午前3時を過ぎていた。

翌日にも翌々日にも私は帰らなかった。
「いつでも帰っていいんだよ」と
夫のその言葉だけで良かったのかもしれない。



まだまだ本調子ではないけれど、
少しずつ「元気」に向かって前進中。
冬が来るまでには・・・




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