『密やかな結晶』 講談社文庫 小川洋子著
物語の世界に引き込まれた。
モノが1つずつひっそりと消滅していく島のお話。 「消滅」したものは、人々の心から消えてしまうので、 実体があっても何の意味ももたないのだ。
主人公の女性は小説家なのだけれど、 消滅が進むうち、小説までも消滅してしまう。 理由もわからず、秩序立っているわけでもなく、 不定期に、しかし確実にモノが消えていくのだ。
ただもう、その設定が魅力的だ。 1頁目で魅了されてしまった。
でも、難を言えば、消滅するものの単位と消え方が不明瞭なのと、 秘密警察の存在価値がよくわからない部分が、ひっかかった。 もちろん、小説世界の中のことなので、矛盾があっても構わないのだけれど。
秘密警察の恐怖は、物語に明らかな緊張感を与えているし、 「消滅」の影響を受けない人間が地下にもぐる必要性も出てくるとはいえ、 そういう権力の存在なしに、ただ不条理に消滅を受け入れていく人々、 という流れも読んでみたかったなぁなんて思ったりもした。
当たり本でした。
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