「全部持って行きますか?」 そう彼は言う。 「全部なんていりませんよ。 これだって私には大きすぎる額です」
彼の財産のことだ。 すべてを受け取ってしまったら彼を引き止める理由がなくなってしまう。
『いなくなる時には全財産を譲って下さいね』
ひとつだけの約束。 彼はわたしに黙って消えることはできない。 そしてきっと彼は言い出せない。 だから
「これからもせっせと働いて溜め込んでくださいね。 いずれ全部いただくんですから」 「酷いですね」 彼が笑う。 「酷くないですよ。夫の努めです」 繋ぎ止める。
次にそのドアが開くのはいつだろう。
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