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■ 暴走、錯乱、融合
勉強会が終わって、図書館の1階に降りたとき ばったりと写真部の後輩に出会った。 僕は照れ隠しにプリントで顔を隠してこう言った。
「こんな真面目な俺を見ると眼が腐るで」
別に顔を隠す必要も無かったが、何故かしてしまった。 後輩ははにかんでいた。
僕は部室に行った。 後輩がケイタイで遊んでいた。 僕は彼に、暇なときに考えている下らないことを話した。 そしたら彼はこう言ったんだ。
「キッシンさんはほんまに暇なんですねえ。そこまでいったら病気ですよ」
そうね。その通りよ。
帝王切開した後にセックスしてもええのか
とか
女性がセックス時にエクスタシーを感じたときの方が男の子が生まれやすい
とか
世の中には妹と近親相姦する男性が本当にいる
とか
ほんまくだらないよな。
その後僕は、寒空の中原付で梅田に向かった。 梅田新道付近で渋滞に巻き込まれた。 進行方向を臨むと赤ランプがクルクル回っていた。
『チッ、検問か?』
僕は心の中で舌打ちした。
こんなとこで大規模な検問なんかすんじゃねえ!!
しかし直後、僕の予想は覆された。 よく見るとパトカーだけではない。 赤い車体。 消防車だった。 しかもハンパな数じゃない。 ゆうに10台は超えている。 すごい。 いわゆる
「大惨事」
だ。
横を見ると煙が濛々と上がっていた。 もの凄い勢いだ。 道はその煙と野次馬で溢れ返っていた。 信号待ちの横で、中学生くらいの女のコが友達に嬉しそうに電話している。 人の不幸を喜んでいる。 僕も負けじと友達十数人にメールした。
「火事だー」
友達の返信におもしろいのがあった。
「らも逮捕」 「大麻」
ついに、ついに、来るべき時が来たのだ。 僕はメールで叫んだ。
「いやっほーい!」
俺は、奴の死んだ魚のような目が大好きだったよ。
駅前ビルで念願のウッドジッポを買った。 それから閉店間際の大丸に行ってトレーナーみたいな服を購入。 一気に福沢諭吉が何枚か飛んでいった…
嬉しくなって、堪らず兎我野町のバーへ行った。 約3ヶ月ぶりだ。 店のドアを開けた。
「いらっしゃい!?…おう、久しぶりやな!!」
いつものチーフの声だ。
「明けましておめでとうございます!」
と、僕は返した。
なんか幸せだった。
その日は何故か、平日にはやっていないはずのジャズセッションが行われていた。
『なんかパーティーか?』
横を見ると大きなホットプレートがある。
?
と、奥からなにやら笊に入って出てきた。 ピンときた。
『お好み焼きだ』
マスターの目の色が変わった。
「この人はお好み焼きとたこ焼きになるとうるさいで〜」
と、チーフ。 焼き上がったお好み焼きは旨かった。 久々に食うお好み焼き。 それをこんなとこで食えるなんて、幸せだなあ。
ほろ酔い気分で石橋へ直行。 いつものバーへ突進した。 気付いたらかなり酔いが回っていた。 気分良く僕はさらに酒をあおった。 さらに酔った。 意識が、感覚が、薄らいでいく。
『そろそろ帰るか…』
店を出たのがいつかは覚えていない。 外はもう凍えるほどの寒さに覆われていた。 店の近くに止めていた原付へ向かった。 シートで挟んでとめていたヘルメットに手をかけた。 おかしい。 ゴーグルがない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんな良い気分の日の最後に、このオチかよ。 僕はあきらめてそのヘルメットを被り、原付をスタートさせた。 ヘッドホンからは、フィッシュマンズの心地良い歌声が聴こえていた。
このときから、ボクの暴走は始まった…
中央環状線を原付で時速50�船�ーバーで走っていた。 『BABY BLUE』を鼻歌交じりに聴いていた。 車は僕の横を音を立てて通りすぎていく。あっという間に。 とある場所で異変に気付いた。 フロントに何かひっついている。 手で弄る。 グローブ越しに伝わってきた感触。
・・・・・ゴーグルじゃあないですかあ・・・・・・あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっぁああぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおっぉおぉおぉぉぉおおぉぉぉおおぉおおぉぉぉおおぉぉぉぉおぉおぉぉおぉおぉぉぉぉぉおっぉおおおっぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・
これ以上運転するのは無理だ。 笑いが堪え切れない。 僕はモノレールの駅前に原付を止めた。 原付を降りるなり、ヘルメットを被ったままダストボックスに飛び蹴りをかました。 プラスチックの弾力によって、僕はでく人形のように地面に弾き返された。 笑いながら冷たいアスファルトの上を転げまわった。
ははははははははははははははははははははははははははははっっっっっうっくくくくくくくくくっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっくっくっくっくっくっくっくっくっくっくっひひひひひひっひひひひひひひひひひひひひいいいひいいいひひひいいひひひひひひひいはははははははははっはっはっはははは
立ちあがってもなお、笑い続けた。 涎が垂れても拭くなんてしなかった。 そのうちなんだか涙が出てきた。 笑い声もいつしか喘ぎ声に変わっていた。 気が付いたらその辺に響くくらいの声で、僕が、泣いていた。 泣きながら、何台かの自転車をなぎ倒した。 がしゃん、がしゃん、がしゃん… 植え込みの上から、なぎ倒した自転車達を見下ろした。 一本の大きな街灯が僕を見下ろした。
…まだだ。まだ、足らない。…
僕は傍に転がる一台の自転車を持ち上げた。 それは思ったより重かった。 それでも僕は持ち上げた。 柵の向こうは10メートル程の段差がある。 僕は柵の向こう側まで自転車を押し上げた。 最後に後輪を一気に上に押した。 空中に投げ出されたその自転車は万有引力に逆らうことなく、10メートル下方のアスファルトへ向かって正確に落下していった。
…ぐしゃっ…
乾いた音がした。 人間が落ちればもっと潤った音がすることだろう。 とりあえず自転車は無事地面に辿りついたってわけだ。
僕はその場にへたり込んで、糞餓鬼のように泣きじゃくった。 わけがわからなかった。 何でゴーグルごときで笑ってんのか。 何で自転車を放り落としてんのか。 何でフィッシュマンズはこんなに哀しい曲を作ってしまったのか。 何で中島らもは大麻なんかで捕まったのか。 何で僕は泣いているのか。 何で僕は錯乱しているのか。
まだ濡れている顔のまま、いつもの駐車場を通りかかった。 いつもセルフポートレートを撮る場所で煙草をふかした。
…横に、僕がいた。
憂鬱そうに、空を見上げていた。 何か、確信めいたものが心にこみ上げてきて、僕は再びむせび泣いた。
僕は、僕を、いつも、待ってた。 待って、待って、待って、待って… ずっとここで、待ってた。 初めてここで写真を撮った日から、ずっと。 盲目的な僕は、それに気付いていなかった。 世界に束縛されていたのは、僕のほうだった。 長く暗いトンネルをさ迷っていたのは、そいつの方だった。
僕は僕に、一本煙草を渡して、一緒に吸った。 そんな気分になりたくて、火をつけた煙草をその場所に置いた。 ひとしきり独白した後、僕は顔を上げた。 僕を見ようとした。
…でもそこには、もう何もいなかった。
それを確認して、僕は再度原付に跨った。 いつしか涙は止まっていた。 原付をキックスタートさせる。 ふかす。 ブゥーン…!!
家まであとちょっと。
頑張ってくれ、俺の愛するセピア号!
2003年02月05日(水)
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