パラダイムチェンジ

2004年07月04日(日) Number605号 山本KID徳郁、須藤元気

現在発売中のNumber605号は、格闘技特集。
この特集に出てくる3人の日本人の語る内容が面白い。

山本"KID"徳郁は、父がレスリングオリンピック金メダリストの、
山本郁栄、姉に今回惜しくもアテネ代表を逃した女子レスリングの
山本美優、聖子の姉妹がいる、レスリング一家の末っ子である。

今年の2月にK-1 WORLD MAXで、初出場ながら第一戦で見事KO勝ちを
おさめ、その後骨折により惜しくも棄権をしたが、一躍脚光を浴びた。

その山本"KID"がインタビューにこたえる内容が、朴訥ながらとても
興味深いのだ。
詳しくは雑誌で読んでもらうとして、一部引用すると、


―カリスマ性、オーラのような何か、ありますよね。相手も会場も
飲み込むような。

「自信だけ」

―絶対に自分は勝つと。

「試合になっちゃったら一緒じゃないですか。戦うことは戦うんだか
ら。その日だけでいいから、もう自分を信じ切っちゃう」

―信じ切る根拠は、やはり、これまでの経験ですか。

「そう。それに、いちど試合前に緊張して負けたことがある。カーン
とやられた」


「魔裟斗くん、有名になった。頑張ってる。それは認める。あの体で、
あの才能で、あそこまでいった」

淡々とした調子だった。
人気の王者を「あの体で」と評した当人の肉体にぎこちなさは皆無で
ある。つまりナチュラル。

「サプリメントも摂らないし、器具もほとんど使わない。2ヶ月に1回、
ちょっと動かす程度。器具だと、こういう体にならない。やっぱり人間
相手。タックルして持ち上げる。ペタッと這った体を引っこ抜く。
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上げるほうがしんどい」

以下、解説。
器具は「カチカチ」であり動かない。だから一方向にしか負荷はかから
ない。しかし、人間は動くので「1回ずつが、その時にしかない、おお
げさに言えば一生に一度の角度」。さまざまな方向から筋力を鍛えると
結果としてケガも少ない。

薬品・サプリメントもしかり。短期間で効果は出るが一過性に過ぎず
「あとで必ず弱くなる」。ナチュラルな肉体をつくりあげられれば
「ルールの変化にも対応できる」。そもそも「器具と戦うわけじゃ
ない」のだ。

ちなみに「ミルコ(クロコップ)は、いい体してる。柔軟な」。


「ノールール、何でもアリはキツイけど逃げ道がある。立って弱い
なら倒して寝る。キック弱かったらパンチ。でもボクシングは両腕で
顔と腹を打つだけ。その中に何百個も技術がある。フェイント、コン
ビネーション、当てる角度、タイミング。だから芸術。ボクシング、
いちばんスポーツで凄い」

アマレスは。
「たまにジムの後輩たちとレスリングの練習すると、みんなハーハー
息上がって。アマレスの人、あれ、毎日やってる。最高にリスペクト。
オリンピックめざして国を背負ってる競技は強い。個人(として生きる
プロ)も強いけど」

続けて。
「俺、そのふたつ重なっちゃったから完璧」


―プロとして「相手の長所を引き出す」なんて考えたことありますか。

「そんな」

―そんな余裕はない。
「余裕あるけど、そんな人間できちゃいない。あくまでも潰す。心まで
潰す。二度と俺とやりたくないと。俺のこと倒してカネもらいたいわけ
じゃないですか。そんなやつに情けはいらない」

―相手によって動かないと。
「動かない。体、たぶん、みんな一緒。力が強い人もいる。それは
筋肉。問題は脳味噌。脳味噌の中は宇宙。無限大。いいことしか考え
ない。頭、ぴっと動けば体も動く。相手、関係ない。自分のことだけ」



と、長々と引用したんだけど、私がそこから感じるのは、「頭の回転の
よさ」だと思う。ちゃんと自分の立つ位置がわかっていて、軸がぶれて
いない印象があるのだ。

そしてその語り口調は(インタビュー記事だからそのままではないと
思うが)、どこか辰吉丈一郎を感じさせる気がする。

そして頭の回転のよさ、と言う意味ではもう一人、須藤元気の場合も
同様である。

こちらは本当に一部分の引用にとどめておく。


「『闘うことって無意味』と発言したい。本当の強さは経験ではなく、
意志から生まれる。闘いから何を得られるのかという問題を突き詰めて
いくと、経験より意志の方が強い。

極端な話、先に意志を持ってしまえば、経験は必要ない。引退したら、
どんなにすごい格闘家だって"ただの人"ですからね。そうなったら
誰もチヤホヤしなくなる。だから格闘家にかぎらず復帰するパターン
が多いんですよ」

憧れの有名人は非暴力主義者のガンジーやキング牧師。こんな格闘家は
本当に珍しい。

「本当に強い人たちって、暴力を振るわれてもやりかえさない。かと
いって相手に屈しないし、跪かない。これって、なかなかできないもの
ですよ。

実際にそうやって暴力を振るう人間に対して暗にその行為の愚かさを
気づかせる。いずれは自分もそういう境地に達したい。目指せ、達人
ですよ。まだ闘っているということは、全然そうじゃないんですけど
ね」

非暴力主義と暴力的な攻防が満載のMMAの狭間で揺れる須藤元気という
振り子。試合で相手を殴る行為はどうやって正当化するのかと水を向
けると、須藤は理路整然と答えた。

「人間は誰でも闘争本能を持っている。よく『格闘技を見たら、スッ
キリした』といってくれるファンがいるじゃないですか。我々の闘い
を見ることによって闘争本能を燃焼してくれたら、自分が闘っている
理由を正当化できる。見ても満足できない人がいたら、自分でやれば
いい。そこが格闘技の健全な部分だと思うんですよ」



普段の試合では、トリッキーな動作で対戦相手に躊躇させたり、観客
を楽しませてくれる須藤元気の、その行動が何に裏づけられているの
か、ちょっとわかったような気がする。
やっぱり、屈折してるわけじゃないけど、アンビバレンツで複雑な何か
があるからこそ、ああいう行動ができるんだろうなあ、と思うのだ。

でも、今まではただの当て馬と言うか、キワモノ扱いだった須藤元気も
この前のK-1 ROMANEXで、ホイラーグレイシーを瞬殺してからは、一躍
スターダムに上ってきたような気がする。

これからもリングで、そしてTV番組でその存在を主張し続けるんだろう
なあ、と思うのだ。

この二人、今後の活躍が楽しみである。
という事で続く、かも。


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