パラダイムチェンジ

2003年05月10日(土) 日本は本当に、不景気なのか

という事で今回は前回の続き。
日本経済の不景気はどこから来るのだろうか。

色々と今の日本の経済状態を考えてみると、実はそんなに思ったほど、
悪くはないんじゃないかな、って気がするのだ。

いや、もちろん前回も触れたように、失業率は高いは、平均年収も下がっ
て来ているは、経済成長率だって、この2、3年は実質ゼロかマイナス
成長だわ。
これらの指数のどこに明るい兆しを感じろというのか、という人がほと
んどだろうと思う。

うん、でもね、この一連の流れ、資産デフレは別にして、一種の調整局
面になっているという考え方もあるんじゃないかなあ、と思うのである。

失業率に関して言えば、アメリカやドイツなどの失業率と比べて、そん
なに飛びぬけて高いわけではないし、平均年収に関して言えば、まあ、
これはあくまで平均で言えば、だけれどEU各国やアメリカに比べても
日本の平均年収は高いほうだったのが、段々と各国並みになってきてい
るという見方もできる。

いや、もちろん失業率は低いに越したことはないし、年収だって年々
増えていくに越したことはないんだけど、それらについて言えば、
今までの日本の状態が異常なんであって、今の状態が飛びぬけて悪い
訳ではなく、日本もようやく各国並みになってきたと言えなくもない。

そして同じ事はもう一つの指標、経済成長率にも現れていると思う。
すなわち、実質的経済成長率がゼロのまま推移したことのある国は、
おそらく日本だけではなく、例えばイギリスやイタリアだって、長年そ
んな時期を過ごしてきたと思うのだ。
<この辺は資料にあたってはいないんで、勝手な思い込みかもしれない
けど。
ついでに言えば、イタリアの場合は地下経済が実質経済と同じ位の規模
であるらしいから一概には言えないらしいけれど。

むしろ問題になるのは、今までがそうだったからって、今後も日本経済
は高い経済成長率を維持しなきゃいけない、という思い込みと、今の低
調な日本の経済成長率に対して、アメリカや中国の経済成長率が高いこ
とへのやっかみに似た気持ちなんじゃないだろうか。

すなわち中国やアメリカに比べて日本の経済成長率が落ち込んでいるか
ら、だから日本はダメなんだと必要以上に落ち込んでいたり、より不景
気感があおられているような気もするのだ。

これは例えば今までずーっと学年トップの成績を続けてきた優等生が、
1位の座を他人に明け渡したことでガックリと落ち込み、勉強する意欲
をなくしてしまい、実力以上に順位を下げてしまっているようなものか
もしれない。

でね、ここで日本が負けたとされる、アメリカと中国の高度経済成長の
内幕を見てみると、アメリカに関して言えば、以前に触れたように、
借金に借金を重ねた個人消費でその成長率を無理して維持している側面
はあるし、中国に関して言えば、いくら経済成長が著しいとはいっても、
まだその経済の規模やGDPは、まだアメリカや日本には及ばない。

逆に言えば、日本ほど連続した経済成長を遂げ続けた国というのは、
珍しい存在なんだと思うのだ。
そして、その実質ゼロの経済成長率にしたって、これだけの土地及び
株式の資産デフレがあるにもかかわらず、実質ゼロという事は、もちろん
国の多額の財政出動に支えられているという側面はあるにせよ、その
不良債権問題とデフレ状況がなければ、実質的には経済の規模、パイは
そこそこ成長し続けているといえるんじゃないのかな。

だから、マスコミが煽り立てるほど、今の状況は悲観的ではない、
と思ったほうがいいような気もするのだ。

毎日新聞の経済欄に「経済観測」という小さなコラムがある。
ちょっと前の4月24日、その欄にこんな記事が載っていた。


デフレは極悪か

インフレターゲット論は福井俊彦日銀総裁の就任を機に下火となったが、
デフレ脱出のためには手段を選ばず、という発想はまだ根強い。ノーベ
ル賞をもらった米国の学者でも、日銀の超緩和で効果がないなら、政府
紙幣をバラまいたら良いという噴飯ものの説をなす人がある。しかし、
経済の実体が弱い時にインフレになったら、適切な範囲に制御などでき
るわけない。国債の暴落、金融システムの崩壊、産業・経済の混乱で
収拾不能となる。
 
真逆に、デフレはそれほど極悪なのか、を吟味する必要はないか。株価
や地価の下落は銀行や企業の資産を目減りさせ、売り値が下がってコス
ト割れの企業は行き詰まり、失業が増える。株価のように、売り要因だ
けが増幅する市場構造のゆがみを放置しているのは無策だが、デフレ自
体は悪いことばかりではない。

世界全体として見れば、経済のグローバル化や価格革命を通じて、所得
の平準化が進んでいる。国内でも年金生活者をはじめ、物価が下がって
暮らしやすくなったと思う人は意外に多い。失業が増え、当事者の苦痛
は察してもあまりあるが、社会全体としてはまだ緩衝力を残している。
この状況の中で確実に産業の構造変化が進んでいる。銀行の不良債権処
理もこれ以上加速しなければ破綻にはいたらない。

人心もバブル期の浮ついた状態から見れば、正気を取り戻してきた。確
かに一人一人にとっての痛みは出ている。しかし、それはライフスタイ
ルを見直し、人として生きる上で何が大切なのか、を自分に問い直す良
い機会にもなっている。

デフレ自体が悪いのではなく、楽を求めるのが国民で、それを満足させ
ねば、票は取れず、政策としても失敗だ、という発想の仕方に問題があ
るのではないか。



ここで一つ分けて考えなきゃいけないことがある。
資産デフレと、物価が下がるデフレーションは、与える影響が少し異な
る、という事である。
引用したコラムで言っているのは、物価の下落に関してであり、物価の
下落は、消費者には優しいが、資産デフレの場合、財産を持っている人
にとっては、自分の財産の価値が減るという事を指す。

だから消費者としてはありがたい一面もありつつも、資産家や借金をして
いる人たちにとってはありがたくなかったりする。

でも、資産デフレに関しても、例えば不動産価格の下落は、新規に家や
マンションを購入したいと思う人にとっては、手を出しやすくなったと
いう利点はあるわけで、一概に悪とは言えないかもしれない。

逆に、インフレターゲットを実行し、仮に成功したとしても、物価は
上昇するが、消費者の所得は増えないというシークエンスになった場合、
国の借金と不良債権は消えても、消費者にとってはスタグフレーション
になり、更に生活が締め付けられる可能性もなくはない。


今のデフレ状況が果たしていつまで続くのかはわからない。
なぜならこういう状況は日本が初めてで、今後世界に飛び火していく
可能性のあるものであるからである。
例えばドイツでも、デフレに対する懸念が出始めていたりする。

そういうデフレ時代に必要なことは、実質ゼロ成長でも生き残れるビジ
ネスモデルとライフスタイルを模索することだと思う。

今までの日本がとりわけよかったのは、高度成長の波に乗ることで、
経済の発展を誰もが享受でき、また中間業者のマージンなどの多少のコ
ストやロスの負担も気にしなくてもよいという、一種理想的な計画経済、
社会主義経済を実現してきたことにあると思う。

ただし、これからの日本はそうした社会をもはや維持できなくなってき
ているんだと思うのだ。

だから例えば、全てのモノが売れるわけではなく、100円ショップの
様にただひたすら安いものか、ブランド品や、大人向けのフィギュアの
ように付加価値の高いものが売れていくし、また一つのモノを売るにし
ても、一つ一つの利益率は低くならざるを得ないから、より中間マージ
ンや人件費などのコストのかからないものを取り扱う所、それだけの
実力か体力のあるところが生き残っていく形になっていく。

だからカルロスゴーンは日産で無借金経営を果たしたし、また、
一段の生産の合理化を図ったトヨタは、空前の営業利益を計上した。

すなわち、この先例え更に日本の経済成長ができたとしても、全ての
人がその富を分かち合えるわけではないかもしれない。
果たしてその格差が、例えば村上龍が心配するほど拡がるのかどうなの
かはわからないけれど。

でも、そんなふうに伸びる産業、落ち込む産業があり、淘汰される企業
が増えてくるというのも、資本主義経済、自由主義経済ではあたり前の
事のような気もするわけで。
日本はこのままでは沈没するという議論の前に我々は、その前提が果た
して正しいのかどうかを考える必要がある気もするのだ。


その上で、あえて日本の今後に関して提言すれば、今はまだ製造業を
含めて中国に脅かされている、というよりかつてほどの粗利を得られな
くなっていても、日本の生産性はおそらく世界有数の実力があると思う
けれど、例えばこの先、少子化による労働生産人口が段々と減っていく
限り、日本が更なる経済成長を望むことは、難しくなっていくと思う。

その時、日本が沈没しない為にとり得る道は、おそらくはこういう方法
なんじゃないだろうか。
それは、日本が安定した投資先になることである。

日本人の資産が海外に流出せず、そして海外からも決してバブルにはな
らない規模で流入し、そして還元し続けられる環境。
そのためには、金利が安定して数%代を維持できるような環境を、日本
の金融当局が目標にして作る工夫をするのが一番なんじゃないかな、と
思うのだ。

そういう安定した資金の供給先が存在すれば、例えばどこかの国が経済
的危機になったとしても、世界恐慌は起きにくくなるだろうし。
そしてそれは、円が今と変わらず実力を持ち続けるということでもある。

そして、そのための保障というか担保として1400兆円<だっけ?の巨
額な預貯金があれば、それが何も急激に動く必要はなく、むしろ堅調な
経済成長率がその金額を更に大きくしてくれる。

ただし、現実の動きは全然そんな風には動いてはいなさそうだし、
実際、日本の政府にそんなことができるだけの能力があるかどうかも
定かではないんだけど。
その絵が正しいかどうかは別にしても、絵に書いただけでは、餅は食え
ないよねえ。


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