掛川奮闘記

2007年01月04日(木) 070104_塩野七生さんのインタビュー記事

 仕事始めの一日も穏やかに過ぎました。職場も全員元気な顔を見せ、今年度の残り三ヶ月への決意を新たにしました。

【日経で塩野七生さん語る】
 常々コメントを書いている「ローマ人の物語」の著者である塩野七生さんのインタビュー記事が今日1月4日付の日経新聞に出ていました。

 塩野さんは「ローマ人の物語」全15巻を書き上げるまでは、インタビューを避けてきたのだそうですが、昨年12月にローマから一時帰国したときにこれを解禁し、メディアに露出するようになったとのこと。

 お正月のテレビにも登場していましたが、多くはローマ人に関する話題が多いものでした。しかしこの日経記事ではローマ時代の政治家を何人も見つづけてきた塩野さんが、現代日本の政治家にコメントしているのが面白い。
 そしてそのコメントがまた出色なのです。


記者「『ローマ人の物語』では、優れた指導者の資質として、知性、説得力、肉体上の耐久力、持続する意志、自己制御の五点をカエサルを例示して挙げています。安倍首相をどう評価しますか?」
塩野「人間的にはとてもいい人なんだろう、だんな様にするにはいいタイプだろうと思います。指導者としていいかどうかは別問題です」

「在任中の小泉氏には自己制御も感じました」
「それはありますよ。知力はどうかなあ。説得力に関して言えば、小泉さんは起承転結の『起』しか言わない。我々は彼が改革してくれるだろうと期待して『承転結』まで考えてあげていた。だから彼は言葉が少なくてもうまくいきました」

「安倍首相には説得力がありますか」
「誠意はあります。安倍さんは答えればいいことの十倍の量、誠心誠意答えている。普通の人なら飽きてしまう。芥川龍之介の言葉ではないが『ときにはうそでしか表現出来ない真実もある』のです。実を超えるために、実に近づくために、嘘のやり方がいい場合もある。彼は変化球を投げない人ですね」

「小泉氏は選挙の結果で説得力を示しました」
「マキャヴェッリは『民衆は抽象的な問いかけをされると間違える場合があるけれども、具体的に示されれば相当な程度に正確な判断を下す』と言っています。小泉さんはそれをしました。安倍さんは誠実に答弁しているが、言っていることがだんだんわからなくなってしまう」

 読んでいると、小泉さんには高いポイントを与え、安倍さんにはなかなか厳しい評を下しています。
 なにしろローマ帝国千年の政治家という政治家をことごとく評してきた塩野さんのこと、政治家を見る眼力が違います。


「小泉政権時代は政治がドラマ化しすぎていると言われました」
「私は以前『国会の予算委員会か顔見世歌舞伎かと言われるようになれば日本の民主主義は安泰だ』と書きました。このごとはちっとも面白くない。安倍さんは理性に訴えているのでしょう。小泉さんは感性に訴えたのです」

 私はこのブログでかつて、「行政は感情ではなく理性に訴えなくては行けない」と書いたことがありますが、この塩野さんの発言は政治というものを極めて現実的に捉えた表現で目からウロコが落ちました。

    *   *   *   * 

 塩野さんは返す刀で民主党の小沢代表も評しています。

記者「小沢代表は政治家にとって手段であるはずの政権交代が目的になっています。その先が見えません」
塩野「私はある時期、小沢さんを面白いと思っていました。しかし、彼は勝負しない人ですね。勝負するときに逃げてしまう。高級なバラの花には花屋さんがいろいろな細工をするが、しばしば満開にならないで枯れてしまう。どうせ枯れるのだから、満開にならなければね」

 いやなかなか手厳しい。また日本人の政治の見方にも厳しい評を下します。

「民主主義的な仕組みの中で、理想的な政治指導者は選ばれるのでしょうか。民主主義は絶対的な善なのか、という気になりませんか」
「私が日本人に少しだけ違和感を感じるのは『信じすぎ』だということです。民主主義も万全ではない。民主主義はしばしばデマゴーグに左右されるのです」

「政治家は善人には出来ませんね」
「だんな様はできますがね。私は一度だけ小泉さんにお会いしたことがあります。彼は私が書いた『マキャヴェッリ語録』の最後の『天国へ行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである』という言葉が一番好きだと言いました。私は『政治家は地獄へ行く道を熟知していて、国民を天国になるべく連れて行こうとしているが、自分は地獄へ行ってしまうのですよ。大丈夫ですか』と言いました。私が好きでないのは天国に行く道ばかり言う人です。一歩間違えば地獄に行く可能性があるから我々は注意する必要があるのに『天国にお手々つないでいきましょう』と言って、地獄を忘れさせてしまう。これがいけないと思います」

 うーん、面白い。政治という現実を心底分かっている人の発言です。

    *   *   *   * 

 イラク戦争に関連しては
記者「米国人は自分たちの大義を、世界の人たちと共有すべきだと思っているのでしょう」
塩野「そう思うなら、犠牲があっても突き進まなければなりません」

「大英帝国ならどうでしょう」
「歯を食いしばってやったでしょう」

「その違いはどこに」
「英国人は自分たちのためだと思っているが、米国人はイラク人のためだと思っている。ローマは他民族のためではなく、自分たちの防衛を考えて周辺を征服したのだと思います」

    *   *   *   * 
最後に
「安倍さんは『美しい国』を掲げています。塩川正十郎元財務相は『正直な国』を目指すべきだと言っていました」
「日本は嘘も言えないし、演出もできないからですね。口べたで結構だが、言ったことは必ず、実行しましょうと。『美しい国』とまでは言わなくても『いい国』にはなったほうがいい。そのためには具体的で小さな事を一つずつ解決していくべきです。我々はそういうことは意外にうまいのですが、ときに狂ったように抽象的なことを言い出すから困るのです」

 インタビューは2時間に及んだというが、掲載されたのはほんの一部とのこと。

 掲載された記事も、いろいろな部分をカットされた後のエッセンスだけになってしまっているのでしょうけれど、やはり言っていることが新鮮です。

 我々も現実を厳しい目で見る視点を忘れてはなりませぬ。


 < 過去  INDEX  未来 >


こままさ