きりんの脱臼
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2005年06月09日(木) 村上きわみ

晴れときどき曇り 息をする空と     なかはられいこ





裏庭は荒れ放題になっている。
丈の高い草。
ところどころに白い野の花、赤い野の花。
二階の物干台からながめていた。
均一店で購った缶の灰皿には「し」のかたちに歪んだいくつもの吸殻。
訪ねてくるのを待っていた。
いつ訪ねてくるのかはわからない。
今日なのか、来年なのか。あるいは十年後。
高い場所から眺める裏庭は、みどりいろの湖のようだ。
風の舌先にあそばれて、水面、いっせいに波立つ。
草も花も気持ちよく翻弄されている。
風の、恣意。
からだをうねらせながら竜が目の前を通りぬける。
竜の腹はおそろしく白い。



  おいで。
  わたし?
  そう、お前。おいで、ここに。
  わたしでいいの?
  お前でなくちゃできないことだよ。だから、呼ぶ。
  わたしになにができる?
  ありとあらゆること。あるいはたったひとつのこと。
  むずかしいね。
  とてもむずかしい。とてもかんたん。
  ねえ。
  なんだろう。なにを問う?
  ぜんぶ。あるいはたったひとつ。知りたい。教えて。
  お前はお利口。お前はばかだね。



草のあいだを蜘蛛が走る。
遠い林ではやわらかな蝉の幼虫が地中深く身震いする。
ぬるいものと冷たいものがいりまじる。
水のような風だ。
桔梗をかかえた男がむこうからやってくる。
裏庭がいっせいに濡れ始める。
ありとあらゆるもの。たったひとつのもの。
まだなにもはじまっていない。
なにもかもこれからはじまるのだ。





ただ一度つよく呼べ 老いた竜王のようにするどくひくく名を呼べ  村上きわみ



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