僕らの日常
 mirin



  月によせて@謡

そこは 冷たいせかいなの
暗くて 何もない

しずかな世界なの?

月と太陽
月は暗い世界に閉じ込められて
太陽はとても明るい世界にいるのかしら

けして、出会わないふたつのソラボシ?

ウタは、黒い空を見上げて思うの
見知らぬ明るい太陽を思う白い月のことを...

猫の爪の月の晩 それでも尚、白い明かりを失わない
あなたのことをウタは知っているのよ。


「センセイも、お勉強してるの?」
夜は更けて琥珀と宙は眠ってしまった。外来の自動販売
機前、先生は机に積まれた書いてあるタイトルさえ解ら
ない難しそうな本とにらめっこをしている。

「・・・? おっと、きみはもう眠る時間だろう」
ウタが先生の後ろからノートを覗き込むと驚いた声をあげ
て顔を上げた。そのノートの中はやっぱり難しい漢字の
羅列が沢山でウタにはとても理解できないものだ。

「色々考えてたら、眠れなくなったの。だからお散歩」
パジャマの上から、お気に入りのワンピースを被った
ウタを見て、先生は苦笑して、めっと言った。
ウタはもう子供じゃないわ。

「それで、何を考えてたんだい?」
先生が仕方ないなあ少しだけだよ、と引いてくれた隣の
椅子に腰掛けて、ウタは口を開く
「月のことを考えてたの」
先生は難しい本もノートも閉じて、ウタの言葉の先を促して
聞いてくれる。
「空の月よ」
「空の月か、どんなことを?」

「月は、いつも暗い世界から太陽の姿を見てるのねって
太陽は、月のことなんて知らないかもしれないって」
言ってから、ウタは自分の両手を握って、下を向いた。
先生の顔は見えない、子供の戯言だと思われるのが少し
恐かったから

「そうかな」
「え…」

「琥珀くんにあげた写真は全部見た?」
きょとんとした顔をウタは上げる。
にこりと笑った先生が、自販機のボタンを押して何かを
買っていた。

「写真?」
「今日はもう遅いし、それを飲んだらもう眠りなさい」
そのつづきはまた明日。そう呟いた。

受け取った、はちみつレモンはとても甘くて
でも、酸っぱくて、あたたかくておいしくて

どきどきした。
ドキドキして、ウタはゆっくりと病室に戻ったの。
琥珀の貼り付けた部屋中の空のフィルム
天井に貼られた青い空のフィルム

朝が来て、電気が点いた。
ウタの心配ごとなんて、とても小さいのだと気づいたの。
真っ青な綺麗な空の中、薄く白くぼんやり見えた。



  それは、真昼の月


2009年11月14日(土)
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