僕らの日常
 mirin



  彼のキャンパス2@卓

『きみ、止まって』

冷たい風の吹く街の中

バイクを飛ばして、ふと立ち寄った公園のミラーハウスの前
すぐ後ろから俺を呼んだ相手と鏡越しに目が合った。
一瞬、振り向いて誰に言ってるんだと問おうとしたところで

「動かないでくれ」

そう制止の声がかかって、俺は思わず動きを止めた。

とりあえず、俺に言っていることなのだとはわかった。
ただ、初対面だ。鏡越しに相手の顔を見てみても
記憶の中の人物達とは全く一致しない。

相手の男は絵を描いている。
俺は根っからの体育会系だ。
こういう絵とか、文化系の知人に思い当たる節はない。
ひとつ思い当たるとすれば、兄の明くらいのものだろう。

それにしても、長い。
男が待てとか動くなと言った辺りから
軽く10分は経っている。

凍死するかな、俺…

「……」

鏡越しに再度、男の方へと視線を流せば
キャンパスと俺を見比べながら黙々と筆を躍らせている。

軽くため息を吐き、デカい図体の割に寒がりな身を
幾分か縮こまらせた頃

「どうかした?」

そう、不思議を含ませた声が聞こえた。

「いや、もう何言いたいかっていうと寒いんスけど」

どうして、俺がここで止まらなくてはいけないのか
俺を描いているのか、もうそんなことはどうでもよかった。

とりあえず、そこは寒かった。

2005年10月29日(土)
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