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| 2010年01月06日(水) お父さん。 |
| 父はいつも仕事から帰ってくると、職場でもらったお菓子やジュースを何も言わずにテーブルに置いていた。 僕と妹2人。疲れた顔して着替えている父に「ありがとうお父さん」と言うと、何も言わず、頷きもせず。父は無口な人だった。 父は不器用な人だった。幼き僕がプロ野球見に行きたいと行った数ヵ月後に、「明日、福岡ドームに野球見に行くから」と、突然言い出す人だった。僕は、本当に野球が見に行きたかったわけではない。プロ野球が好きな父と、ただ一緒にいたかったのだ。僕は小さな頃から器用な人間だった。 父は無口で不器用な人だった。いろんな人に騙され、裏切られ、見放され、最後には、妻と子供を失った。独りになって、どこかへ消えた。 「ヨシミさん、飲まないんですか?」 「あ、あぁ、いいよ。あとで飲むから」 職場でもらった缶ジュースを白衣のポケットに入れる。 僕はいつも仕事から帰ってくると、職場でもらったお菓子やジュースを御ハナに渡す。 「ひゃー疲れた。うはぁ家に帰ってきた。帰ってこれた。帰ってこれねぇと思った。うひゃあ疲れた」と、何だかんだ喚きながら着替える僕に、「パパありがとー」と、缶ジュースを抱えて御ハナは言う。「このジュースはねー。パパのねー、お仕事してるとこの血と汗と涙が入ってるんだよー」と、御ハナを抱きかかえながら言うと、「気持ち悪いからやめて」と、妻が笑いながら言う。 僕は冗舌で器用な人間になった。いろんな人を信じ、手を差し延べ、見守り、毎日、今ここに、この場所に家族がいることを切実に感謝している。 父はまだ元気にしているだろうか。大好きな焼酎のお湯割りを飲みながら、家庭を持った僕の顔を見て、あの小さな声で、きっと呟くだろう。 「やっぱり俺には似てないな」 |
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