窓のそと(Diary by 久野那美)

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2012年09月03日(月) 20パーセント増量。

コメンタリーとか、アフタートークとかどうも苦手で。
小説のあとがきで、作品の成立について作者がいろいろ書いてるのも苦手。
映画もお芝居も小説も好きなんだけど、本編と別におまけがついてると、
どっちに集中すればいいのかわからなくなって、見るのが面倒になってしまう。DVDの特典映像とかも、あんまり見ない。

作者の意図とか制作過程とか、背景とか、基本的には興味がない。
すごく興味をひかれるものも中にはあるけど、それは興味をひかれる理由がきっと、その作品か創り手の中にあるのだ。
そのときは、見た後に自分でいろいろ探すのが楽しい。最初から、「知りたいでしょ?この作品をより深く楽しむには・・・」と言われるとげんなりする。

その作品だけ、一人で「勝手に」見たり聞いたりしたいのだ。
正解があるような感じがするとものすごく嫌なのだ。
私が正しく鑑賞しないと誰かに迷惑がかかりますか?と思う。
かからないものを「作品」というんでしょと思ってしまう。

作家本人が作品と並行して語る言葉というのがどうにもしっくりこない。
言いたいことがあるなら全部入れたものを創ればいいじゃないかと思ってしまう。全部入ってないのなら、じゃあ、その作品は何なんだ?と思ってしまう。その解説付きで見る人となしで見る人との関係はどうなるのだ?と思ってしまう。

この気持は、20パーセント増量のクリープの詰め替え袋を買ってしまったときの納得いかなさに少し似ている。多い方がいいかもしれないけど、でも、もとのびんには100パーセントしか入らないのだから、20パーセントは袋に入れたまま輪ゴムでとめて冷蔵庫にしまわなくてはいけないのだ。これが意外と面倒くさい。クリ―プも情報も、多い方がお得だと云われればそんな気もするけど、なんか納得いかない気持でいつも輪ゴムを探すのだ。
全然違うような気もするけど、他に適切なたとえが浮かばないので。

私は昔からそう思ってるんだけど、あまり多数派の意見ではないみたいで、コメンタリーもアフタートークも作家本人の解説も、ますます充実してきているような気がする。

単に嗜好の問題なのかもしれない。

美術館や博物館で、展示物の横にある白い四角いボードを読む人はしっかり読むし、最近では音声ガイドのサービスを利用するひともいる。
私はほとんど読まないし聞かない。

学ぶのが嫌いなだけかもしれない。

公演のパンフレットに作演出家の言葉、とか書くのも嫌で、書いたことがない。それくらいはサービスで書けばと言われるけど、クリープの袋に輪ゴムをかけている自分のことを思い浮かべるとできなくなる。それがすごく良いことだとは思わないけど、なんだかしっくりこなくて。

でも、このあいだもっとすごい人に会った。
公演終了後に観客と演者が作品を批評し合う場を設けている企画に参加したお客さん。「合評会は失礼します。歌声喫茶みたいで苦手なので。ひとりで酒を飲みながら舞台のことを思い出したいと思います。」と言ってさくっと帰って行かれた。「おお。」と思った。


楽しめるコンテンツが増えるのは悪いことじゃない。
創り手や紹介者が、作品について論理的に説明する言葉を持っていることも、悪いことでじゃないと思う。その方が、背景を異にする社会に紹介するのが容易になると思うから。ただ、なんだかうまく言えない理由でこの流行についていけない人ももしかしたらいるかもしれなくて、そういうひとが「自分だけじゃないんだ」と思ってほっとするといいなと思って書いてみた。なんかうまくまとまらないんだけど。

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スサンネ・ビア というデンマーク出身の女性の映画監督がいる。こっくりした作品を創る人で、映像もとても奇麗で私は彼女の作品がとても好きだった。手に入る限り全部見て、でもそんなにたくさんないのですぐ見終わってしまって、あるとき、ふとDVDの付録についていた監督インタビューを見てしまった。後悔した。なんて感じの悪い、なんてつまらないことばかり話すひとなんだと思った。見てる間に腹が立ってきた。映画はこんなに素敵なのに。あのインタビューは少なくとも、制作サイドでカットするべきだったんじゃないかと思った。できないんだろうか。監督だから?監督ってなんなんだ?監督というのは映画の「中」を創るひとなんじゃないのか。それ以来、いっそう用心深くなった。面白かったときほど、付録に用心してしまう。

信じられないほどつまらなかったときの方が逆に、ちょっと付録の方も見てみようかなと思ったりする。解説やインタビューも同じような感じだと、なるほどと腑に落ちてすっきりしたりするので。

困るのは、解説やインタビューは抜群に面白いのに作品に全く魅力を感じない組み合わせに出会ったとき。見てはいけないものを見てしまったような、どうしたらいいのかわからない気持になる。


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