窓のそと(Diary by 久野那美)

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2000年10月11日(水) 風船おじさんについて  

風船おじさんが風船に囲まれて空へ出ていった時。私は彼がいつか戻ってくる日のことを考えていたような気がします。
何年も何年も経って誰もがすっかり忘れた頃に、同じ風船に囲まれて故郷へ帰ってくる風船おじさん。飛び立った時彼を笑ったひとたちも、もう誰も彼のことを覚えていない。無視したひとたちは、もちろん覚えていない。
時代はすっかり変わっていて、同じ乗り物を高校生が乗り回していたりする。もしかしたら、空は同じような風船でいっぱいで、渋滞の中誰もおじさんに注意すらむけないかもしれない。
それは(多くのひとの想像通り)海の藻屑と消えてしまうことより、ずっと哀しい結末のような気がしました。
それからときどきなんとなくそんなことを考えていて、去年の夏。港に戻ってこない船のお芝居を作りました。
風船おじさんのことを書きたかったわけではないのですが、風船おじさんが風船で出発しなかったら、違うお芝居を作っていたのかも知れません。

私は何かを見たとき、それを見ている自分を見ている遠くの誰かのことを考えてしまう癖があります。遠くというのは過去だったり未来だったり、地平線の向こうだったりします。遠くの誰かというのも、自分自身だったり、何かの物だったりすることもあります。他の人のこともあります。そういう遠くの誰かのことを考えていられる間は、「まだ大丈夫だ」という気持ちになります。

風船おじさんは何を考えて海を越えていったのか。「まだ大丈夫」と永遠に思いたかったからなんじゃないか…。

わたしたちは、いつまで彼のことを思えてるのでしょう?
意外といつまでも覚えてるのかもしれません。
風船おじさんの勝利なのかも。


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