華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年01月17日(金)

年下の男の子。 〜面会〜




<前号より続く>



その電話からしばらく経ったある日。
もう電話をしない、と言っていた真知子から電話があった。
やはり本意ではなかったようだ。

先日の騒動から立ち直ったのか、話し声は元気で体温がこもっているようだった。


 「だって私、独りじゃないし・・・ほら、娘も親もいるからね」


何時までも落ち込んでいる暇なんてないわよ、と笑っている。
母となった女は強いものだ。


そこで俺は、会話が進むうちに今までの真知子からは考えられない言葉を聞く。


 「平良君、一度逢ってみようか?」
「え?俺は嬉しいけど・・・いいの?」

 「うん、ここまで色々と関わってもらったし・・・」
「そんな、別に構わないのに」

 「今度、泰之が友達と一泊で旅行に行くって言うから時間が取れるの」
「そうかぁ。そりゃチャンスだね〜(笑)」

 「一度ね、娘の事見て欲しいし・・・すごく可愛いんだからぁ」
「(笑)よし、じゃ会おうよ。どこにする?」



12月23日。
天皇誕生日の夕方4時過ぎ。
夕日も傾きかける、肌寒くなる時間だ。


俺は地下鉄鶴舞(つるまい)線・平針(ひらばり)駅前にあるミスタードーナツの店頭で待っていた。

平針は名古屋市でも片隅の住宅街だが、愛知県の運転免許更新センターがあり
駅前は何かと人通りや車の通行量が多い。

バイクを駐輪場に停めて、店の前に立つ。

冷たく乾いた風が遠慮なく吹き付けてくる。
バイク用の防寒具を身に付けていても、寒い程だ。

待ち合わせ時間を5分ほど過ぎた時、
平針駅からベビーカーを押してやってくる一組の親子連れを見つけた。


俺は手を振る。
向こうも小さく手を上げて、こちらに近付いてきた。

間違いない、真知子だ。



 「お待たせ・・・寒かったでしょ?」


俺は自分の目を疑った。
声や話し方は電話で話した通りだったが、容姿はまるで別人だった。

真知子はあの写真よりも明らかに痩せこけている。
頬や額、目尻にも深い皺が何重にも入っていた。


ドーナツやドリンクをトレーに置き、俺たちはテーブルについた。
俺はホットコーヒーをミルクだけを入れてすする。
紅茶で喉を潤す真知子は微笑みながら、俺の戸惑いの確信を突いた。


 「平良君、私を見てびっくりしてたね」
「あ?ああ・・・」

 「私、あの写真と大分違うでしょ?・・・12〜3�疏蕕擦燭�な」


決して昔の写真を送りつけてきた訳ではないはずだ。
幼い娘の容姿は大差なかったから。

真知子は短い期間でやつれ果てていたのだ。
泰之に翻弄されつづけていたのが良く分かる。


「まあね・・・色々聞いてると苦労しているみたいだし」
 「平良君も写真とは違っているよね」


真知子は悪戯っぽく微笑んでみせた。


「どこが?」
 「写真の頃よりだいぶ太ったでしょ?」


俺の送った写真は相当以前のものだったので、体型は変わっていた。
俺も自堕落な生活を送っていたので、太ってしまった。


「それを言われると・・・ねぇ(苦笑)」
 「いいよ、健康な証拠だもん・・・私みたいに痩せちゃう方が心配よ」

「ところでさ・・・なぜ足を引き摺っていたの?」


真知子は左足を引き摺っていた。


 「実はね・・・」


泰之とケンカした際、逆上した彼が膝の上に娘のオモチャ箱を投げ落とした。
それ以来、膝の痛みがとれずに足を引き摺っていると言う。

膝は細かい軟骨や筋肉が入り組む複雑な関節だ。
シップを貼っているとはいえ、痛みが取れないのは危険だ。


「ダメじゃん、病院に行かなきゃ!」
 「でも、これでまた医者通いが増えるのも大変なのよ(笑)」

「でも、膝でしょ?場所が場所じゃん・・・」
 「国民保険は3割負担だから、家計への負担が大きいの」

「結局彼とは付き合っているんだ・・・大丈夫なの?」
 「うん、向こうのご両親にはまだ挨拶してないけど」

「挨拶?」


うふふっ・・・と真知子は微笑む。

そんな会話の中、口中いっぱいにドーナツの粉砂糖をつけた娘もコロコロ笑う。
いかにも嬉しそうに、そして美味しそうにかじりつく。

やつれ果てた母とは違い、肉つきの良いピンクの頬が可愛らしい。
真知子はバッグから取り出したハンドタオルで、娘の口の周りを拭いてやる。
痛いのか、むずかりながら顔を反らす。


 「とにかく、みらいをしっかり育てないとね・・・」
「そうだな。お母さんだもんね」

 「うち、子どもが二人居るみたいなものだよね(笑)」
「二人?」

 「ヤスも出来の悪い息子みたいなものよ(笑)」
「その出来の悪い息子みたいな男と付き合っているんでしょ?」

 「うん、だって・・・」
「私が付いてなきゃ彼はダメになる、でしょ?(笑)」


小一時間程雑談し、店を出る際に俺は真知子に言われた。


 「平良君、電話と違って紳士だね(笑)」
「そんな事ないって・・・何なら今からホテル行く?」

 「もうっ(笑)・・・痩せちゃったからもう身体には自信ないよ・・・」
「そんな事ないって、その気になったら口説くからさ(笑)」

 「ホテルじゃないんだけど・・・付き合って欲しい場所があるの」


真知子は近所の雑貨屋へと向かい、店の外で待つように言われた。
北風が吹き付ける中、待つ時間がやけに長く感じた。

およそ15分後。
店から出てきた真知子は小さな紙袋を俺に差し出す。


 「何?これ」
「明日はイブでしょ?クリスマスプレゼント!」

 「あれ?いいの・・・ありがとう」
「でも、家に帰ってから開いてね」


俺は真知子と娘を平針駅まで送り、俺はバイクで帰途に付いた。


部屋に帰った俺は、早速真知子のくれたプレゼントの袋を開いた。
中身は3足の靴下と2枚のハンカチ。

そして一枚の絵葉書。
一組の男女が抱き合っている金が映える肖像画。

以前、真知子が大好きな絵だと話してくれた、クリムトの『the KISS〜接吻』だった。


そのカードを返して、裏面を見た。


『 今まで、本当に心配ばかりかけちゃったね。ごめんね。
  思ったより汗かきだからハンカチも一緒にプレゼントします。
  ドーナツおいしかったね、また一緒に食べに行こうね! まちこ 』


暖房が効いていたミスドの店内で、俺は確かに額に汗を浮かべていた。


このカードを俺に渡すために、わざわざ準備してくれていたのだろうか。
メッセージをしたためるのに時間が掛かったのだろうか。

彼女の一番好きな絵に込められた、短くて温かいメッセージ。


真知子の小憎い演出に、なぜか嬉しさで胸が詰まった。




<以下次号>









↑エンピツ投票ボタンです。次回は真知子とのエレヂィ番外編です。



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