華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年10月18日(金)

籠の中の貞淑な小鳥。 〜問屋〜

<前号より続く>



俺と敏子はあれこれと話しながら名古屋駅から北東に15分程歩いた。
俺たちは西区・新道という場所に出た。
そこは、東へ500mも行けば名古屋城という場所だ。


そこに目当ての駄菓子問屋がある。
平屋で20軒ほどの駄菓子の卸しが入り、
狭い通路と狭い敷地に所狭しと駄菓子やおもちゃが並ぶ。

問屋だが個人客相手でも箱単位、大袋単位で駄菓子を買う事が出来る。


古くて狭い木造の造り。
目の前に広がる駄菓子の数々。


ここだけは昭和40〜50年代にタイムスリップしたかのような感覚だ。


幼い頃・・・
100円玉を握り締めて駄菓子屋に入り、
あれこれと幼い頭脳を悩ませながら駄菓子を買い求めた甘い記憶が蘇る。

子供にとって、まるでお菓子の家、宝の山だった駄菓子屋。


粗いグラニュー糖がまぶしてある、色とりどりの大玉の飴。
掌に乗るほど小さいカップに入った、ヨーグルト味のクリーム。
鱈の身を薄く切って揚げた、歯ごたえのある薄い串カツ。
夏場に凍らせて吸い付いた、チューブ入りの人工着色料のジュース。
悩みながらも目当てのミニカーを狙って何度も引いた籤。
多めにお小遣いを持っている時に買った、50円玉の形をしたチョコレート。

その他にも米菓子、おかき、酢イカ、発泡スチロールのプロペラ飛行機・・・


大手スーパーやコンビニの登場で消え去ったと思われた駄菓子の数々が、
ここでは数え切れないほどの種類が目に飛び込んでくる。


 「知らないかな・・・こっちには色々とお菓子が活躍する機会があるのよ」


結婚や新築などの祝い事があったときに「菓子撒き」の風習がある。
菓子を袋に詰めて、近所に配ったり屋根に登ってばら撒いたりするのだという。

大量の菓子が必要な時に、こういう問屋があるのは心強い。

関西出身の俺は、まだそういう光景を見た事が無いものの、
この中部地方にはまだまだ駄菓子が活躍する機会がある。


様々な宝の山に目移りしていた俺を尻目に、
旅行当日の菓子の手配をテキパキこなす敏子。


 「何だか付き合わせちゃって・・・ゴメンね」
「いやぁ、俺もこんな問屋があるなんて知らなかったし、楽しかったよ!」


時間はすでに午後3時半。

敏子は夕飯の支度もあるので、というと名鉄新名古屋駅へと向かった。

切符を買い自動改札を抜けると、
振り向いて俺に一礼して地下のホームへと消えた。


あっけない初対面は次回のデートの約束無しに終わった。
あまり気に入られなかったようだ。


寂しさはあるが、追いすがっても仕方が無い。
俺は敏子との時間をさっさと忘れるために、俺も帰宅する。




その夜、午後7時前だ。
電話が鳴った。

敏子からだった。

こちらから受付に電話してコレクトコールで掛ってくるテレコミなので、
俺の部屋の電話番号を知っているのは不思議ではない。

彼女の方から自分で電話を掛けてきたのは初めてだ。
敏子に気に入られなかったのだとばかり思っていた俺は驚いた。



 「あの、敏子です。今日は本当にありがとう・・・」
「いや、こちらこそ!でもどうしたの、こんな時間に」

 「あのね・・・あのね・・・会いたいの」
「俺でいいの?実はあまり気に入られなかったんだと思ってて・・・」

 「ううん、違うの・・・」
「俺は構わないけど、いつがいいの?」

 「・・・今夜、ダメ?」
「今夜?!」


先程名駅から帰ってきたばかりの俺は、敏子の言葉に驚いた。

どこか思いつめた、切羽詰った話し方。
今までの敏子とは、何か違う。


「さっき会ったばかりなのに?」
 「うん、どうしても会いたいの・・・ダメ?」
 
「どこへ行けばいい?」
 「・・・一宮まで来て欲しいの」


俺の住む街は三河方面にある。
一宮市や稲沢市は名古屋市を挟んで、ほぼ正反対になる。


「本当はあなたの街まで行きたいけど・・・あまり長い時間が取れないから」
 「・・・いいよ、分かった」


俺は部屋をそのまま飛び出す。

駅に丁度滑り込んだ電車に乗って名古屋まで行き、
今度は名鉄新名古屋駅から名古屋本線で一宮へと向かった。

最寄の稲沢市にある国府宮駅だと誰に会うか分からないから、
その次の新一宮駅に来て、と敏子は言った。



午後9時前。
俺は名鉄名古屋本線の新一宮駅にいた。


そこには、カローラ�兇之泙┐僕茲討い辛匯劼�いた。

数時間前、名古屋の駄菓子問屋をデートした彼女とは違う、
どこか元気なさげな敏子が運転席に座っていた。

俺は車の助手席に乗り込む。


「驚いたよ、いきなり呼び出されて・・・」
 「本当にごめんなさい・・・」


敏子の車は小牧市の名古屋空港へと向っていた。

この時間の名古屋空港は営業を終わっており、
翼を休める各社のジェット機が港内の黄色い水銀灯に照らされていた。


空港の敷地を区切るフェンス脇の小道に車を停めた。
この小道は夜、カップル達の溜まり場になるようで他にも数台が停車していた。


途中のコンビニで買った缶コーヒーのプルタブを引き開ける。
一口飲んで喉を潤した時、敏子が謝ってきた。


 「平良クン、本当にごめんね・・・こんな時間にまた呼び出して・・・」


敏子が普段からこんな我が侭な女でない事は、
俺も今までの会話でもよく分かっているつもりだ。

何かよっぽど思いつめた事があったのだろう。
何も責めるつもりは無い。


「ねぇ、何かあったの?」
 「・・・そういう訳じゃないよ」


先程よりも随分勿体ぶる言い方をする。


 「あのね、笑わないで聞いて・・・私ね・・・」


この次の言葉を聞くのにさらに数分間の、戸惑いの時間。
俺はただ待つしかなかった。


<以下次号>







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