華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年10月16日(水)

籠の中の貞淑な小鳥。 〜願望〜


こんな言葉がある。


 『料理上手な女房は浮気されない』


女性の持つ魅力とは、何も料理の腕前だけではないが、
おいしい食事が待っていると、確かに男は寄り道せず家に帰ろうと思う。

よって他の女性(特に水商売)との出逢うきっかけが減り、
その結果浮気できる確率が低下する。


好きな女性に対して、どこか母性を求めてしまうのが男の性。
そんな女性が腕によりをかけた料理は、何よりのご馳走だ。


また料理とは味覚の良し悪しだけではない。

冷蔵庫の残り物で様々な料理を産み出す知恵やセンス、テクニックも大きい。
そして忙しい中でも料理を作って自分の帰宅を待っていてくれる、
そんな小さな心遣いにも「人の情」を感じる。


温かい食事が待つ家庭。


こんな感激もきっと生活を積み重ねていくうちに慣れてしまうのだろうが、
ご馳走の待つ今夜は出来るだけ早くうちに帰ろう・・・という気持ちは持ち続けたい。
食卓の前で自分の帰りを待つ人のために。


逆にいつも冷凍食品や店屋物で夕食を済ませてしまうような、
食事に無頓着な家庭では、家に帰ろうとする意欲も失せる。

共働きでも、一品でもいいから何か手作りな品が小鉢にあると嬉しいもの。


たかが食事、されど食事。

俺は料理が出来る女性を尊敬する。
そしてきっと惚れる。


花嫁修業という言葉があるが、下手な習い事をいくつもかじるよりも、
料理教室で腕を磨く事の方がよっぽど有意義だと思う。

それは結婚のための花嫁修業だけでなく、自分も楽しめるはずだから。





10年程前の秋だった。
大学生だった俺には、随分歳の離れた女性と付き合いがあった。

テレコミで知り合った稲沢市の主婦、敏子。
当時22歳だった俺よりも20歳以上も年上だった。

穏やかで上品な口調の敏子は、若さで無頓着だった俺を気に入ってくれた。


当時高校生だった娘しかいない彼女にとって、
俺の事を、一人は欲しかった『息子』としてイメージしていたのだろう。


会話の内容もどちらかと言うと真面目な話題が多かった。

そんな中で印象に残っているのが、大人しい敏子が最も楽しそうに話す料理の話。


残り物の野菜からどんな料理が作れるか、よく切れる包丁がなぜ必要なのか・・・
時折声を弾ませながら、笑いながら色々な知識を教えてくれる。


意外な事に、アウトドアも趣味だった敏子。

女性にしては珍しく屋外の料理にも進んで取り組むそうで、
バーベキューの仕込みや川魚の下準備も進んでやるの、という。


 「私ね、炊飯器よりも野外で炊いた飯盒のご飯が好きなの」


大自然で採れた魚や山の幸を駆使した豪快な料理も好きだけど、
お焦げの香りがする飯盒のご飯にふりかけを掛け、
鰯の缶詰と共に頬張るのも好きなのよ、と笑っていた。


そして敏子はガールスカウトの指導員でもあったので、
夏休みはキャンプなどで子ども達にも野外料理や炊事の方法を教えていた。


当時はあまり名前を聞かなかったダッジオーブンの使い方も熟知していた。
あの黒く重い鋳鉄の鍋一つで、同時に二つの料理を作る離れ業もこなす。


 「平良クン、ちゃんとご飯食べてる?」


この言葉が敏子の挨拶代わりだった。

男の子の一人暮らしは、食事の乱れが一番心配なんだから・・・と、
親の立場からも心配してくれる。


テレコミで知り合う女性とは思えない、健全な会話での付き合いだった。


しかしそれだけでは面白くないと思った俺。
やはり女性としての話を聞きだそうと知恵を絞った。

大人しく真面目な敏子だが、こんな話題でさえも真剣に考えて答える。


 「でもね、私、男性経験が少ないから・・・分からない事が多いの」
「経験が少ないって、でも何も知らないで結婚したわけじゃないでしょ?」


敏子は初めて付き合った男性と長年の付き合いの末に結婚し、娘を産んだ。
家事は得意で、特に料理は旦那からも絶大な支持を受けたという。

旦那の勤め先の仲間や友人を呼んでのホームパーティーやキャンプでも、
自慢の腕を振るい、もてなして来た。


誰から見ても、敏子は出来た奥さんだと思う。


 「でも何でそんな敏子さんがこんなテレコミに?」
「・・・う〜ん、なんて話せばいいのかな?」


最初は照れ隠しがてら話題をはぐらかされていたが、
俺が不思議がって何度も聞くうちに、敏子は答えてくれた。


 「家事をこなして、一息ついたときに窓を開けると・・・青空が広がっていたの。
  そこに雲が浮かんでいて、小鳥が飛んでいて。でも私はこのままかなって・・・」


何も家から見える景色の説明ではない。
ちょっぴり照れながら、敏子はこんな例え話をしてくれた。

そんな話を聞いて、俺も同じような過去を思い出した。


俺が高校生の頃。
心ならず進学率の低い高校へと進学した俺は、
その学校の窓から見える空を眺めて、同じような事を感じたことがある。


通り一辺倒のつまらない授業。
偏差値で輪切りにされた人間関係。
何事にも向上心が見られない友達。
劣等感からの閉鎖的な環境・・・


閉塞感から煮詰まり、苛立っていた俺は授業中もよく窓の外を見ていた。

窓から見える空はどこまでも高く、雲は風に身を任せて流れていく。
陽の光が燦々と注ぎ、山々は光合成で濃い緑をたたえる。


そんな中、俺は鉄筋の箱の中で何をやっているんだろう。
これからどう転がり堕ちていくんだろう・・・


例え様の無い、形にならない不安を感じつつ生きていたあの頃。
晴れた日でも薄暗い印象が強かった、高校の教室の中。

そんな毎日に圧し掛かられていた時代を、ふと思い出した。



家庭も順調で、一人娘も自分の世界を持ちつつある。
でも彼女はこのままでは、専業主婦のまま平穏に年齢を重ねていく。

きっと世間的にも幸せに違いない敏子。

そんな彼女が今まで感じなかった寂しさに気付いてしまった。
敏子は自分がどこか「籠の中の小鳥」だと思うようになったと言う。

そして今まで見る機会のなかった『外の世界』に飛び出したくなったのだ。


それは自分を未知の世界へ連れ出してくれる男性との出逢い。
家庭の外へ駆け出し、吹く風と咲く花の匂いを感じるために。


「それって・・・浮気願望?」
 「そんな嫌らしいものなのかな?でもね・・・」


妻として、母としての長い年月・・・
結婚して20年近く経って、初めて湧き立つ感情だったという。



<以下次号>








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