華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年09月02日(月)

過ぎし夏のmemories。 『写真』


先ごろの盆前。
実家に帰るべく、荷物の整理をしていた時のことだ。


普段触はらない本棚から、実家で暇を持て余す時にでも読もうと、
買っておきながら読んでいない本を探していたときに、2枚の写真を見つけた。


大学時代、図書館前で撮った写真だった。

写っていたのは、俺とカメラを持つ友人の彼女、
そして当時の悪友だった女の子の3人。

サークルの関係で撮った写真だったと思われる。
当時はまだ冬だったので、3人とも厚手の上着を着ていた。

もう1枚は俺と悪友が「お約束」でじゃれあっている写真。
俺はその子にコブラツイストを掛けられいる。

必殺技に勝ち誇った顔の彼女に、苦痛に苦悶の表情を浮かべる俺。
全てはその写真のための演技だったのだが。


そんな悪友だった女の子・藤崎と写真を撮る時は必ずまともには写らない。
どちらかがプロレスの技を掛けているか、首をしめているか、だった。



俺はこの藤崎と、きっと一生忘れられない時間を過ごした。

まだ春先だったこの写真の、約半年後の夏の終わりのこと。
数年前の、夏から秋へと移ろい行く丁度この季節だ。




藤崎との出会いは、大学のサークルだった。
俺の所属する留学生交流会にいた訳ではなく、ゲストとしての参加だ。

ゲストとは非会員の参加者のことをいう。

俺は留学生交流会では日本人代表を任されているとはいえ、
主な仕事はコンパなどの飲み会での幹事業。

やはり女子大生に参加してもらえると、留学生も日本人も喜ぶし、
男はおろか女子にも喜ばれ、華やかさも増す。

俺は女子のゲストは積極的に受け入れていた。
そんな交流会に他の女友達と共に顔を出していたのが藤崎だった。

彼女は、今から考えても個性的・・・いや、はっきり言って変わった奴だった。


顔立ちの整った美人だったが、髪はボーイッシュにカットしていた。
そして化粧もほとんどせず、髪も染めず、ピアスの穴も無い。
160cm足らずで小柄だったが、いつもビンテージのジーンズで決めていた。

藤崎はどこから見ても少年っぽい風体の女だった。
それでも高校時代から付き合っている彼がいるそうだ。
変わった女と付き合う、変わった男もいるものだ。


俺と藤崎はサークルの飲み会で初めて出逢った時から意気投合した。

しかし藤崎という女は、どうも普通の女の子と違う感性を持っているのか、
話の内容が突飛だった。


彼女は熱狂的なプロレスファン。
当時の新日本プロレスの看板選手だった『闘魂三銃士』のファンだと言う。


 「蝶野もいいけど、武藤だよね・・・技もだけど、あの気取り方がまた良いよ」
「そうかぁ、俺は全日が良いんだけどなぁ」

 「やっぱり新日だって!観てても闘いが熱いもん」
「そういやぁ、この前FMW観てきたよ。大仁田負けちゃったけど」

 「大仁田?!観てきたの?なんで誘ってくれないんだよぉ!」


俺はその後、藤崎に怒りのチョーク(喉の気管締め)攻撃に遭う。
初対面だったのにも関わらずだ。


また藤崎はAVや風俗にも興味があると俺に言った。
俺は当時、まだ風俗の世界を知らなかったこともあり、驚いたものだ。


 「男って羨ましいよね、そういうところ(風俗)に遊びにいけるじゃん」
「いいじゃん、藤崎も金持っていけば。見た目なら男と分からないから」

 「馬鹿、服脱いだら分かるでしょ?股座に付いていないんだから」
「AVだって分からないって、借りるくらいなら」

 「だって実家の近所のレンタル屋には友達がバイトしているんだよ」
「いいじゃん、彼に借りて来いって言えば」

 「言えるわけ無いじゃん!平良だから言えるんでしょうが!」


俺はその後、藤崎に怒りの逆水平チョップを数発喰らう。
生中のジョッキを持っていたのにも関わらずだ。
度重なる乱行に幾度もビールがこぼれるが、隣りで奴はニコニコと笑っている。


俺と藤崎は大学の同級生なので、授業や講義でも顔を合わせている。

俺は意識していなかったので気付かなかったが、
向こうは俺を知っているという。

 「だって、平良いつも俯いてさぁ、舟漕いで寝てるじゃん!」
「高倉(教授)が壇上で眠たくなる講義やってるんだから仕方ない」

 「この前、身体をビクつかせて起きたよね。あれ笑った!」
「藤崎なぁ、俺を見てるんじゃなくて授業に集中しろよ!」

 「いやぁ、面白い奴だなぁって思ってさ」
「俺に惚れてるの?正直に言ってみな?」

 「馬鹿!平良に惚れてるわけないでしょう?!」


俺と藤崎との一連の様子は、他の人たちから見ると一種異様だったそうだ。
延々と盛り上がる二人を残して帰ろうかと相談していたくらいだという。



それから藤崎はよく俺に話し掛けてくるようになった。

朝の挨拶代わりのキックやエルボー(肘打ち)に始まり、
空き教室で延々と雑談したり、互いのレポートを邪魔しあったり・・・と。


しかし俺と藤崎には、いわゆる男女の関係は一切無い。
会話も大抵は雑談にプロレス談義、たまに猥談も。

俺も男友達と同様に接していたし、彼女もそれを望んでいた様子だった。

そして藤崎には長く付き合っている彼もいることだし、
それによってあまり彼女の周囲の女友達に誤解されるのも良くはない。


藤崎は交流会の飲み会には欠かさず参加し、酒に酔っては俺に狼藉を仕掛ける。
やられっ放しでは済まさない俺も手荒い逆襲。
当然、相手は女性なのでそれなりの手加減はしているが。


 「平良君って、みゆき(藤崎の名前)と本当に仲良いよねぇ」
 「でも、何だか違う・・・みたいな」
 「どちらかと言うと、恋人関係って感じじゃないよね」
 「いつも兄弟喧嘩している感じだもんね」


サークルのかしましい女性連中が何かと俺と藤崎の関係を詮索するが、
どうにも当てはまる形容詞が無い様子だ。


何時の間にか、俺の隣りに移って来ていた藤崎は熱燗の猪口を片手に
必死にスルメをかじり、ホッケに喰らいつく。


本当に色気の無い奴だ。

呆れ半分で藤崎を見遣ると、頬を酒で真っ赤にした虚ろな目の奴は、
俺に二合徳利をぬっと差し出す。

この野郎、もっと飲め!というのだ。

こいつとは絶対に付き合うことも、寝ることも無いな・・・心からそう思った。



交流会の飲み会の後は、これも定番のカラオケ。
駅近くのカラオケボックスに移動する。

特に女の子は終電の関係で遅い時間まで付き合えないので、
短時間でかつ高いテンションで突っ走る。

終電で帰る藤崎も少々古めの歌を次々と歌いまくる。

彼女の大学の友達は大人しい娘が多く、あまり羽目を外す機会がない。
俺達の飲み会が、今や彼女の数少ない「爆発の機会」なのだ。


そんな関係のまま迎えた春休み前。
図書館で仲間と会い、たまたま持っていた使い切りカメラで俺と藤崎は
先ほどのふざけた写真を撮ったのだ。

今思い出しても、頬がニヤリと緩むほど楽しい時間だった。



<以下次号>







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