2008年02月14日(木)  火事と水回りクリーニングの木曜日

出産前にお風呂掃除をお願いしたハウスクリーニング会社から営業の電話があり、2月中は10%オフキャンペーン中だというので、今日の午前中に来てもらうことにした。10時15分頃チャイムが鳴り、姿を見せたハウスクリーニング氏の最初の一言は、「あのー、火事みたいなんですけど」。見ると、わが家の前の通路まで煙が押し寄せている。道路を挟んだ向かいのビルから火が出ているらしい。話しているうちにマンションの火災報知機がけたたましく鳴りだした。「ここまでは来ませんかねえ」。水回りクリーニングと火事って正反対だなあと思いながら言うと、「じゃあ車停めてきます」とハウスクリーニング氏。

その直後、サイレン音とともに消防車が到着。そして、なんと、消火器のような黄色いボンベを背負った消防士がダダダっとわがマンションの階段を駆け上り、わたしの住む階の道路側の通路へとなだれ込んだ。そこから向かい側のビルへ消火活動をするのだろうか。「早く!」「そっちはいいから!」と勇ましい怒号が飛び交う。消防士の一人がドアをノックし、「何人お住まいですか」と聞く。「三人です」「三人おそろいですぁ」「いえ、二人は出かけていますけど」。そんなやりとりをしながら、本物だあと興奮。

ダンナに「「今すごいことに」と実況のメールを打ち、はたと思いだした。ハウスクリーニング氏はどうなったのか。マンション前は通行止めになり、車を停めるどころではなさそうだ。どこかで消火が終わるのを待っているのだろうかと心配するが、連絡がない。しばらくかかりそうだし、その間に部屋を片付けることにする。出産前、子どもを迎えるにはあまりにも家が汚すぎるというので、初めてハウスクリーニングを頼んだのだが、そのときにわかったのは、「家が二段階できれいになる」ことだった。ハウスクリーニングに来てもらう前に、まず足の踏み場を確保するために掃除が必要になる。いくら業者の方とはいえ、人目に触れても恥ずかしくない程度にその辺も片づけるので、ハウスクリーニングを迎える時点で、部屋はすでにビフォアアフター的な変身を遂げているのだった。

脱ぎっぱなしの服をたたみ、ペットボトルをつぶし、おもちゃをネット収納に納め、古新聞をまとめる。掃除機をかけてはときどき止め、インターホンを気にするが、鳴る気配はない。火災報知機は鳴りやみ、火は消し止められたよう。「10時53分撤収」とハンドマイクの声がする。窓の下を見ると、白い消火ホースをくるくると丸める消防士さんの姿。しかし、ハウスクリーニング氏からは音沙汰がない。まだ通行止めが続いているのだろうか。それにしても、間が悪いといおうか、良すぎるといおうか。あと十分早く到着していれば、この騒ぎをよそに掃除に取りかかれたのにとも思うが、マンション前に車を停めていたらどっちみち移動することになっただろう。

だいぶ部屋がきれいになり、床面積が当社比200%ほどになったところで時計を見ると、12時半。ハウスクリーニング氏がいなくなってから2時間以上も経っている。いくらなんでも時間つぶすには長すぎるし、次の依頼もつかえているだろう。フリーダイヤルで本社に電話しようと固定電話の受話器を持ち上げたら、線が抜けていた。わたしはてっきり携帯に連絡があると思っていたのだが、固定電話にかけていたとしたら……! 案の定、応対に出た女性が「火事で建物に入れなくなったそうで。お伺いした者が何度も電話したそうですが、電話も止まってしまっていたようで……」と恐縮しきり。いえ、電話は火事のせいではなく、うちの娘が電話線を引き抜いたものと思われ……と説明は省略したが、こちらも申し訳なくて、お互い「すみません」を連呼しながら電話を切った。無駄足になってしまった業者さんは気の毒だが、わが家はお金をかけずにきれいになった。

今夜の子守話の舞台は、ハウスクリーニング屋さんに掃除してもらいそびれたお風呂。湯船にキラキラ光るものが浮かんでいるのを見つけて、娘のたまが「キラキラ」と両手を小刻みに動かしてお星様の仕草をした。その正体は、七色に光るセロファンをリボン状にしたプレゼント用の梱包材。くっつきやすい素材なので、手か足にはりついたままお風呂までついてきてしまったのだろう。ひらひらした長細い体が揺らめくさまは、お湯の気持ちよさに骨抜きになってお星様が伸びている姿にも見える。お風呂をピカピカにする代わりに、お星様がピカピカになる話をつくった。

お風呂に おっこちた お星さま

たまちゃんがお風呂に入ったら、お星さまがプカプカうかんでいました。
「あれ? お星さまもお風呂に入るの?」とたまちゃんはびっくり。
「すいーっと流れてきたら まどがあいていて 
 ぽちょんと おっこちてしまったんですよお」
お星さまが きもちよさそうに言いました。
だらんと体がのびているのは 流れ星だからでしょうか。
それとも ぬくぬくのおゆに うっとりしているからでしょうか。
「お風呂はいいですねえ。体がきれいになる気がします」
お星さまは長くなった体をゆらゆらさせながら言いました。
「お星さまは、とってもきれいよ」
「こう見えて、けっこうよごれているんですよ。
 空にはチリやゴミがたくさんただよっていていますから」
「じゃあ、お星さまをあらってあげる」とたまちゃん。
せっけんをたっぷりつけて タオルでごしごしみがくと
お星さまはツルツルのピカピカになりました。
「ああすっきりした。なんだか生きかえった気分です。
 体の中からげんきが出てきましたよ」
お星さまは のびきっていた体をしゃきっとちぢめて
ギザギザの角っこがついたお星さまらしい形になって
キラキラと手をふりながら空へかえっていきました。
「あ、いた!」
たまちゃんが空をゆびさしました。
ひときわピカピカと光っているお星さまが、ひとつ。
お風呂におっこちたお星さまにちがいありません。

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