2003年11月23日(日)  通帳で伝える愛 『まばたき』『父帰る2003』

昨日と今日で舞台を2本観る。昨日は中野のテレプシコールで劇団フルーチョの『まばたき』。客演しているヤニーズの大蔵省君が招待してくれた。「役者になる」と上京したきり音信不通だった男が亡くなり、唯一の肉親である妹が通夜を執り行う。大蔵省君はその兄妹の幼馴染みという設定。先日のヤニーズ公演での秋田弁台詞が強烈だったので、今回はおとなしい印象を受けたけれど、重要な役どころを演じていた。死んだ兄は妹だけに見える幽霊となって現れるが、妹は心配ばかりかけていた兄を「何を今さら」となじる。だが、兄は帰りたくても帰れなかった、ということが通夜に駆け付けた役者仲間の話でわかる。その証拠に、家族のためにアルバイト代をためた預金通帳が遺されていた、という話だった。


今日オペラシティの近江楽堂で観た『父帰る2003』にも預金通帳が登場。菊池寛の名作を現代版にアレンジしたもので、ひょっこり帰ってきた行方不明の父が、家族のことを片時も忘れなかった証に差し出したのが、通帳だった。刻まれた数字の履歴には生き様や愛情やいろんな思いを込められるのだと発見。NHKのオーディオドラマ関係者の集まりで知り合った脚本家・吉村ゆうさんの脚色・演出がすばらしく、父役の蛍雪次朗さんはじめ役者さんの体当たりの熱演もあいまって、ボロボロ泣けた。最前列で観たのだが、足を伸ばせば舞台に当たる距離で、喧嘩のシーンでは物やら人やら飛んできて、すごい迫力だった。

『父帰る2003』は同じく菊池寛の『温泉郷』との2本立てで、『J.THEATER 』という企画公演のプログラムのひとつ。吉村さんからの案内で公演を知ったのだが、先日ストレイドッグ公演の打ち上げで人柄に惚れた蛍さんの芝居を見られたのは、うれしい巡り合わせ。さらに今夜の打ち上げで、思いがけないオマケ。同席した女優さん、見覚えあるなと思ったら、一年前にSOUPという会社のパーティーで知り合ったきりごぶさただった鈴木薫さんだった。別プログラムの『トイレはこちら』に出演していたそう。舞台の面白さに目覚めた鈴木さんに「役者として一作品一作品をどう生きるかで10年後、20年後に差がつく」と吉村さん。作品の積み重ねが将来への預金になるのは、脚本家も同じ。吉村さんはいい預金をされてきたのでは、と大先輩の最新作を見て思う。

さて、通帳といえば、学生時代の仕送りを思い出す。しっかり者の大阪の母は「振り込み手数料がもったいないやん」と、わたしの口座の通帳を持ち、(わたしにはキャッシュカードだけ持たせた)、「口座入金」することで京都にいる娘に金を送る知恵を働かせた。自動送金にすれば楽だったろうに、毎月きっちり、4年間で約50回、銀行に足を運んだわけだ。当時は当たり前だと思っていたけれど、親でなければできないこと。まだ見ぬその通帳には、母からの月に一度の入金と、娘がちょこちょこ引き出した跡が文通のように残っているのだろう。通帳で母と娘はつながり、会話していたのだった。

2002年11月23日(土)  MAKOTO〜ゆく年くる年〜

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