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2008年04月03日(木)
白い光に吸い込まれそうな
目が覚めたら、縁側に人がいた。何故、と考える前に思い出す。旅の道連れ。老いた、細い身体。腹が立つほど気楽な鼻歌。やたらと元気な朝。清々しい、気配。 寝坊した。その事実に内心愕然とする。 朝っぱらから不愉快だった。 「あれ、曽良くん、やっと起きた?」 「・・・・・・芭蕉さん」 「んー?」 「そこから蹴り倒していいですか」 「あ、朝からいきなり乱暴だなー!?やだよ!?ていうかそれ許可求めてるんじゃなくて宣告だよね絶対!?」 「寝起きに癇に障る鼻歌を聴いたので・・・」 「五月蝿かったなら謝るからそうやたらゆっくり起き上がらないでー!恐怖煽らないでー!蹴る気満々じゃないの、曽良くん!?」 「蹴る気満々というか、蹴りますけど」 「遂に言い切りやがったよこのヤロー!」 縁ギリギリに座り込んでガタガタと震え始めた芭蕉を一瞥し、曽良は長い息を吐き出した。縁側に面した庭から雀の鳴き声が聞こえてくる。全てが馬鹿らしくなってきた。 とりあえず布団の上で上体を起こしたものの、いつもの起床時間よりは高い太陽に、それ以上動くのが憂鬱だった。頭を抱えギュッと目を瞑ってしまった師をどうしようか、一瞬だけ考える。 「・・・・・・あれ、蹴らないの曽良くん?」 「後で蹴ります。それより今日はどうしますか、芭蕉さん」 一向にそれ以上動く気配のない弟子を不思議に思ったのか、芭蕉がそろそろと目を開けて尋ねた。それに対して一応宣告の続行を伝え、今日の予定を問い返す。この旅はあくまで芭蕉の旅であり、曽良はただそれに付き添っているという形だった。 「そうだねぇ・・・天気も良いし、近場の観光にでも行こうかな」 「そうですか・・・・・・支度します」 「あ、曽良くんは眠かったら寝ててもいいよ?何か今日は調子悪そうだし・・・」 「・・・・・・は?」 調子が悪い?誰が? 無言で繰り返し、自分のことを言っているのだと知る。 何故か無性に腹が立ったので、布団を求める身体を無理矢理動かして芭蕉の傍に寄ると、予告通りに蹴飛ばした。足元で情けない悲鳴が聞こえるが、寝起きの頭には五月蝿い以外の何物でもない。 「せめて脈絡!脈絡をつけて曽良くん!いきなりこられると準備出来ないから・・・!」 「それで、観光というのは何処に行くつもりですか?」 「・・・え?曽良くんも行くの?大丈夫?」 痛みを忘れたかのように身体を乗り出し聞き返した芭蕉を、有無を言わさない眼差しで見下ろして黙らせる。こんなオッサンにまで心配されてはお仕舞いだ。 と、暫く不服そうに曽良を見上げていた芭蕉が唐突に表情を変えた。何かを思い付いたかのようなその表情の変化に、曽良は僅かに眉を顰める。 芭蕉がこうゆう顔をする時は、大抵碌なことを考えてはいないのだ。 「曽良くん、予定は変更だ」 「はい?」 「私はだるい!ちょーだるい!もうこれ以上は動けない!というわけで今日は寝る!」 「はぁ?」 やることを決めたら行動は速い芭蕉である、そう言うとさっさと部屋に戻り、敷いたままだった布団に潜り込んだ。この人の思考は相変わらず突飛だと呆れながら、そのあまりの速さに突っ込みを入れることも出来ず、曽良は仕方無しに自分の布団の上に腰を下ろした。 ふと外を見る。良い天気だ。太陽は白い。目眩がしそうなくらいだった。 隣の布団には、その中で丸まっている芭蕉がいる。 久し振りに、することが無かった。 ぐらり、と視界が揺れた。力を抜いて身体を倒すと、木の天井が目に入る。十分に寝たはずなのに、何となく寝足りない。 目が覚めたらどんな礼をしてやろうか。 そんなことを考えながら曽良はゆっくり目を閉じた。 目が覚めたら、縁側に人がいた。 白い光の中に、人がいた。 軽い目眩を覚えながら、光に吸い込まれそうなその人に、行くな、と言いそうになってしまったのだ。 +++ まともに書くのは初めてかもしれない細道。気持ち的には蕎麦。 小話にするには長かったやも。日和キャラに会話させたら延々に続けられるから危険です(笑) |