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2008年01月09日(水)
「この手の中には何も無い」
言葉を吐く。その前に身体が動く。 本能が理性に勝っている男なのだと誰かが言った。 呆れたように言った女の顔など覚えていない。 ただ、誰かが言ったことだけは覚えている。 「同感です」 視界が消えた。 否、消えたのではなく塞がれた。 見えなくなった顔を探って手を動かすと頬の筋肉が弛緩したのを掌に感じ、イザヤが口元で笑っているのだと知る。 感情表現が希薄なこの少年が、何を笑っているのか。 それがユエには苛立たしい。 「この頭は本能しかないんですか」 「そうだな、俺は欲でしか動けねぇ」 「自分で認めないで下さい」 目の前を覆う掌が冷たい。 間近にある吐息が、溜息のように頬に掛かった。 呆れているようで、それでも「仕方ない人だ」と諦めているようで。 「そうゆう人なのか」と、納得したようで。 追い詰めたのはユエの方だった。 背後を壁に塞がれ、それでも逃れようとも抗おうともする素振りさえ見せない。それがイザヤだった。 しかも今の彼は笑ってすらいる。 それが珍しいといえば、珍しかった。 「面倒な人ですね」 「俺の台詞だ」 「その割りに、単純」 「馬鹿にしてんのか?」 「まあ、半分は」 何だそれは、と言いかけたところで手の中の感触が消えた。 その代わりに解放された視界には既にイザヤの姿はなかった。 すぐ脇を擦り抜けていった彼に手を伸ばせば簡単に掴まえられたのだろうが、何故かそれが出来なかった。 会議なんです、と。 それだけを告げて去って行った相手を振り返らず、ユエは何と無しに自身の掌を眺め、つい先程までこの手の中にあったものを思う。 思って、顔を顰めた。 「いらねぇだろ、別に」 考えるより前に身体が動いた。それだけのことだ。 自分が相手に何を求めているのか知らない。 それが『欲』なのか『情』なのかと問われれば躊躇い無く前者を答えるだろう。 後に何かを残すつもりもない。 ないのだが。 苛立ちが、募る。 +++ ユエイザ小話。 最近小説書きたいなぁと思いつつ絵を描いてしまうのは何故なのでしょうか。手が自然にシャーペン持ってるんだ・・・。 |