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2007年11月17日(土)
格子
「・・・・・・痛い」腫れ上がった足首に触れると幼い掌に熱が広がる。 為す術も無く頭上に伸びる枝葉を見上げ、キニスンはきつく唇を引き結んだ。 どうして自分はこんな所で蹲っているのだろうかと頭の隅で思う。 伯父の後をついて歩いていた筈なのに、どこをどう間違えたのか、いつの間にかその姿を見失い森の深くに迷い込んでしまった。 数日前に初めて『森』というものに足を踏み入れたキニスンにとって其処は未知の世界に等しく、慣れない足取りで進んだ末に窪みに足が引っ掛かり挫いてしまい、身動きが取れないまま小一時間。 閉ざされた視界は不安を煽るには充分で、キニスンはぶるりと小さな身を震わせた。 今頃伯父は自分を探しているのだろうか。 緑の天蓋を仰いだまま、キニスンは自らの内にある恐怖を自覚した。 森が怖い。 生まれてから十年間、知っている景色は草原だけだった。 此処はそれとはあまりにも違い過ぎて、最初は只管に驚いた。 同時にあったのは不安と、ほんの少しの好奇心。 だけど一人きりで木々に囲まれ、初めてそれが生まれたのだ。 此処は、怖い。 まるで逃げ場の無い檻の中のような圧迫感と、常に誰かから見られているような視線を感じるのは気のせいだろうか。 そして何よりも怖いのが、その恐怖とは裏腹に、奥深くに引き寄せられる感覚。 どうして伯父の姿を見失ってしまったのだろう。 どうして、惹かれたのだろう。 こうして足を挫いて動けなくなるまでは、自分が何処に向かっているのかも、伯父と逸れたことさえ気付かなかった。 見も知らぬ木々の深みへ入り込んだら二度と戻って来れないかもしれないと、それを肌で感じていたのに、それでも行かずにはいられなかった。 この先に何があるのかなんて知りもしないのに。 ガサリ、と。 突然近くの茂みが音を立て、キニスンは反射的に身を強張らせた。 しかしそこから姿を現したものを見て、その緊張はすぐに和らいだ。 「カーナ!」 赤茶の毛を持つ雌の猟犬は、しなやかな四肢で難なく道無き道を駆け、颯爽とキニスンの元に辿り着くと何度か緑の天蓋に向かって吠えた。 彼女の主に甥の存在を教えているのだ。 伯父の相棒に見付けてもらい、キニスンはほっと安堵の息を吐く。 「アシノ・・・もうすぐ来るよね・・・?」 そのキニスンを様子を見て慰めようとしたのか、カーナはキニスンの傍らに腰を下ろすと彼の頬をペロリと舐めた。 つい最近仲間に入った人間の子供を弟のように思っているのだろう、カーナは何かとキニスンを気に掛ける。 キニスンもカーナの姿を見て安心したのか、カーナの背を撫でて小さく微笑んだ。 シン、と森が静まり返る。 伯父の迎えを待ちながらキニスンは無意識にカーナに身を寄せた。 此処は怖い。 迷路のように乱立する樹木はまるで格子だ。 この檻に捉えられたらもう二度と出られない。 しかし森は深く、この恐怖さえも呑み込んでしまいそうだった。 +++ キニスン十歳くらい。拙サイトは短編集設定を推奨しておりますのでキニスンは草原生まれの草原育ち。母親が死んで伯父に引き取られたばかりの頃。 ところでアシノの犬の名前ってカーナだったっけ?と自分の記憶力を疑ってますが、ダンボールの中から短編集を引っ張り出すのが面倒なので確認せず。間違ってたらすみません(キニスンファン失格) しかしテーブル幅の問題か、思ったよりも縦長に・・・。 **拍手お返事** (EC) >如月さん こっそりリンク貼りますとか言っときながら遅くなってしまいすみませんっ(汗) これからいそいそと通わせて頂く気満々ですv こちらこそ改めましてリンク有難う御座いました!これから宜しくお願いします(ペコリ) |