終わりなき戯言
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2005年11月07日(月)
思い出したらしい
思い出した時に続けるオリジナル連載小説、何日振りだよと自分ツッコミしつつ進めたいと思います。しかし100題終わったら書かないと思ってたのに書いてる辺り、愛着あったんだなと今更に再確認。



【Arcadia 6】



「・・・桂って、清音のことが好きなの?」
「ッ・・・!!」
 突然の質問に飲みかけていた水を噴出し、ゴホゴホと盛大に噎せる桂を、冬夜は何やってんだかと呆れた様子で眺めた。ここまで判りやすい反応をされると逆にこっちが悪いことを聞いたみたいだ。
「おま・・・っ・・・いきなり何・・・っ」
「お約束な反応・・・だったね」
「何の脈絡もなくあんな質問されたら誰でも噎せるっつーの!」
 がなり立てた後、桂は自身を落ち着けるために大きく息を吐き出す。それから暫く考えるように沈黙して、気まずそうに冬夜を横目で見た。
「・・・もしかして、俺ってバレバレ?」
「少なくとも僕みたいな子供にも判る程度には」
「マジで?やぺぇ、向こうにもバレてたらどーしよー」
「バレたらマズイの?」
 別にパートナー同士の恋愛なんて禁止されてはいないし、極稀だが実際に結婚した男女だっている。彼らは夫婦で仕事を続けることもあるし、子供を理由に引退することもある。ただその場合は引退後も厳しい監視と秘密厳守が強制されるのだが。
 不思議そうに尋ねた冬夜に、甲斐は答えを迷うように軽く頭を掻いた。
「まぁ、なんつーか・・・向こうの方が年上だし・・・色々と考えるんだよ」
 彼女はいつも冷静で、どう考えても自分を男として見てくれていないような気がする。それに仕事に真面目な彼女は自分のこんな感情などきっと迷惑がるだろう。最悪パートナーを解消されるかもしれない。
 そう考えると、今の状態を続けた方がいいと思う。例えそれが他者から見れば格好悪いものでしかない『逃げ』だとしても、傍にいられるのなら、それだけでいい。
 だから。
「今のままで、充分」
 そう言って照れ臭そうに笑った彼の笑顔は、いつもと同じくどこか寂しそうで、しかしやっと見つけたほんの僅かな幸せを丁寧に噛み締めているようでもあった。そしてそこにはやはり諦めがあるのだ。
 冬夜はそれを酷く眩しく感じながら、それでも共感はできなかった。
「・・・・・・僕にはわからないよ・・・」
 こんな世界で見つかるものなんて、本当にあるのだろうか。
 呟いた冬夜に桂は、だろうな、と頷く。
「ま、そのうちお前にも好きな奴ができたらわかるだろうさ。お前が惚れる相手っていうのも全然想像できないが」
 クツクツと噛み殺すような苦笑いを漏らして桂が言った言葉を、冬夜は全く信じることができなかった。人に愛されたことも、愛したこともない自分が、誰かを好きになることなんてあるのだろうか。それ以前に、そういったものが欲しいとも思わない。
 だから、羨ましいとも思わなかった。



 夜が過ぎて朝が来た。事前に言っていた時間通りに迎えにきた甲斐は、玄関を出てきた冬夜を見て僅かに眉を寄せた。
「悪夢でも見た?」
「・・・何でそんなこと訊くのさ?」
「なーんか、いつも以上に不機嫌そう」
 そうかい、とどうでもよさそうに受け流して冬夜は甲斐と共にマンションを出る。
「司はどうだった?」
「ん?まあ、納得してもらったさ」
 何かを思い出したのかどこか楽しそうな甲斐を冬夜は横目に見る。おそらく碌な説明もしなかったのだろうが、冬夜にはどうでもいいことだ。
 それよりも今朝見た夢が冬夜を苛立たせた。

 悪夢。そう言われればそうなのかもしれない。
 過去なんか思い出しても煩わしいだけで、感傷になど浸ったりはしない。
 生前の彼に良い印象を抱いていたわけでもなければ、彼の死が悲しかったわけでもない。

 だけど、彼の死に顔がいつまでも頭の中に残っていた。
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