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2005年09月11日(日)
夕暮れの丘
ふと気付いた時に彼はいなかった。いつも風のようにふらりと現れては、雲のように理由もなく去って行く。何処にも属さず、誰の上にも下にも立たず、己の思惑にのみ従う男。しかし彼はいつも去る前には必ず一言くれたから、セツナはその時だけは言い様のない不安を覚えた。 「・・・・・・なぁ、フェイ何処行った?」 仲間に聞いて回ってみても、皆一様に首を傾げるばかりで。 一瞬、本気で見放されたのかと思った。 「・・・そう思った俺が馬鹿だった」 「それは・・・ご苦労様と言うべき・・・?」 項垂れて脱力するセツナにフェイが不思議そうに尋ねる。因みにセツナが彼を発見した時、フェイは炎の運び手が現在本拠としている場所より少し離れた高台の上に座り込んでぼんやりと何処かを見ていた。既に日が暮れかけている時刻であるが、何時間そうしていたのかは知らない。 セツナはフェイのどこか間の抜けた問い掛けに首を振って答えた。 「いきなり消えると心配するだろーが」 「・・・セツナが、僕を?・・・へぇ、意外・・・」 「友達を心配するのは当り前だ」 「友達・・・?」 その言葉にフェイはクスリと笑う。口の端を吊り上げただけの微笑みにセツナは眉を顰めた。 「その友達の忠告を無視したのは、誰?」 「・・・・・・」 険を帯びた声にセツナは思わず口を噤む。それから数秒して口を開いた。 「俺が真の紋章を持ってることが、そんなに気に入らないのか?」 「・・・・・・」 今度はフェイが沈黙する。膝を抱える腕の力が僅かに強まった。 「俺だってお前の言いたいことはわかる。真の紋章が力を与えるだけのモノじゃないってことも、わかってる。だけど俺には守る為の力が必要だ」 「・・・・・・」 「お前の左手のそれも・・・守る為の力じゃないのか?」 「・・・違う」 フェイはハッキリと否定した。そして左手の手袋を外すとセツナに手の甲を見せるように掲げてみせる。そこには渦を巻いたような紋章が痣のように、しかし明瞭に浮かび上がっていた。 セツナはそれに息を呑む。フェイが真の紋章の所有者であることは知っていたが、実際にそれを見るのは初めてだった。 「確かに、コレで守るものもあった・・・だけどコレは、奪う力だ・・・宿主の命を食い尽くして、その力で人を殺す。紋章自身が戦う為に・・・ね・・・。君のソレも人を殺すよ。敵も味方も関係なく焼き尽くすよ。だって、ソレは・・・戦いの果てに、戦う為に生まれた力だから・・・」 淡々とした起伏のない口調は、それでも威圧を帯びていた。フェイがこれほど真剣に、そして饒舌に語る姿をセツナは見たことがなかった。 しかしセツナはフェイに臆することなく、彼の瞳を真っ直ぐに見返すと、右手の拳を胸の前に掲げる。それは確かな決意。揺らぐことのない意志。 「それでも俺はこの力を使う。大切なものを守る為に」 真っ直ぐな眼差しに見つめられ、フェイは僅かに目を細めた。一瞬ピリッとした緊張が二人の間に走ったが、すぐにフェイは諦めたように目を伏せ、溜息を吐く。 「わかった・・・もう何も言わない・・・」 「引く時は意外とアッサリと引くんだな」 「だって、一応忠告はしたし・・・」 君は聞かなかったけど、と不貞腐れたように顔を顰めたフェイにセツナは笑う。その笑顔を眩しそうに眺めて、フェイは沈みかけている太陽に目を向けた。夕焼けの空は燃えているように赤かった。 「・・・・・・負けないでよ?」 「ま、頑張るさ。コレも含めて、色々とな。つーか、そう言うならいっそ仲間に入っちまえよ」 「嫌だ」 「あ、そ。残念だ」 そう言いながらも大して残念がる様子もなく軽く肩を竦めたセツナは、フェイと同じように赤く染まった地平線を見る。世界が燃えている。そう思うと、右手が少し疼いた気がした。 フェイはただ夕陽を見ている。しかしその瞳はそれよりもずっと遠くを見ていた。 だけど君はまだ知らない。 燃え続ける炎の中に再生の火はないということを。 --------------------------------------------------------------------- 久し振りに炎の英雄+4主。 |