終わりなき戯言
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2005年08月01日(月)
小話のみ
思い出した時に続けるオリジナル連載小説。
最大の疑問は読んでいる方がいるのかどうか。でも所詮は自己満足の代物です。
当面の目標は終わらせること=途中で放り出さないこと。



【Arcadia 4】



「でもさ、僕は別の仕事が入ってるんだけど、そっちはどうするの?」
 一通りの話を終えた後、甲斐が思い出したように尋ねた。静流もまた言い忘れていたことにたった今気付いたかのように、ああ、と声を上げる。
「それは他に回すから司にも言っておいて」
「・・・極秘ってことは司に仕事内容は言っちゃいけない?」
 だとしたら少し面倒なんだけど、と小さく首を傾げた甲斐に静流は軽く息を吐く。
「その辺はあなたの判断に任せるわ。司が必要だと思うなら言いなさい」
「・・・・・・わかった」
 一瞬だけ沈黙して甲斐は頷いた。注意しなければそれとは判らないような間だったが、冬夜には察せられただろうなと内心思う。しかし冬夜はそれに関して特に何を言うでもなく、眺めていたファイルを閉じて席を立った。資料の内容は大方覚えたのでファイルは机の上に置いていく。
「終わったなら行くよ」
「はいはい。さて、どこからあたりますかね」
「それならまず屋上に行くことをお勧めするわ」
 冬夜に続いて立ち上がった甲斐が何となしに零すと、静流が二人を呼び止めた。そしてどうしてかと言葉に出さずに問う二人ににこりと微笑みを返す。
「現場は見ておいた方がいいわよ。と言っても、もう何も残っていないでしょうけど」



「現場は0区5−32か・・・確かに厄介かも」
 吹き付ける風に髪を弄ばれながら甲斐は溜息混じりに呟いた。先程まで静流と話していた部屋の真上、聳え立つビルの屋上は太陽を近く感じて日差しが強かった。周囲には同じくらいか、あるいはもっと高いビルが至るところに乱立している。
 『0区』とはこの国の政治経済の中心部でもあった。
「本部の真上で殺されるってありえなくない?」
 そう言った甲斐に冬夜は振り向かずに沈黙する。桂の遺体が発見されたという屋上は既に何もなくなっていて、本当にそこで殺人が起きたのかさえ疑わしくなるほど綺麗に片付いていた。
「毎度の事ながら見事に消してくれるよ、全く。この様子だと家の方も全部無くなってそうだね」
 これでは現場に来た意味がないではないかと愚痴を零しながら甲斐はその場に座り込んだ。どこから吹いているのかこの乱立するビル群の中ではわからないが、それでも真っ直ぐな風が気持ちいい。冬夜も同じなのか、目を細めて風の吹く方に顔を向けていた。
 どれほどの時間が経っただろうか、暫くの沈黙が続いた後に冬夜がポツリと言葉を漏らした。
「・・・・・・見当、付いてるんじゃないの?」
 何をとは言わず、それでも甲斐にはそれが判っていた。だから甲斐もそれを言わなかった。
「証拠はないよ」
「写真、見ただろ?」
 冬夜は甲斐を見ない。しかし声が僅かに大きくなったのを甲斐は聞き逃さなかった。
「桂にあんな顔をさせることができる人間なんて、この世に一人しかいないじゃないか」
 薄く目を開けたまま天を仰いで、桂は微かに笑っていた。それは他の人から見れば気のせいで片付けられそうな些細な表情。だけど桂のそれは、あまりにも穏やかで。
「彼女しか、いないじゃないか」
「・・・まだ決まったわけじゃないよ」
 言って甲斐は立ち上がり服の汚れを払う。そして何を思ったのか、冬夜の隣に立つと程よく力を抜いてその頭を叩いた。
「何する・・・っ」
「何そんなに苛々してんの。らしくない」
 文句を言おうとした冬夜の言葉を、甲斐の言葉が遮った。睨み上げる紺碧の瞳を暗い金色の瞳で一度見返すと、ふと冬夜から顔を逸らす。黒髪が何度も風に揺れては舞った。
「さっき、思い出してたんだけどさ・・・僕が前のところを抜けて、さぁこれからどうしよう、って時に迎えに来たのが桂だったんだよね。今にして思えば、僕にとっての死神であり案内人だったわけだよ、彼は」
 突然そんなことを話し出した甲斐に冬夜は思わず眉を顰めた。その冬夜には構わず、甲斐はいつもの真面目なのかそうでないのか判断がつかないような調子で続ける。
「つまり、彼は僕の人生において結構重要な位置にいたりするわけ。迎えに来たのが桂じゃなかったついて行こうなんて思わなかったかもしれないし」
 第一印象は『派手な男』。少しの会話の後では『嫌いじゃないタイプ』。
 未来を決めかねていた甲斐にとって、この男について行くのも悪くないと思えた相手だった。
「だから桂が死んだのは正直キツイし、驚いた。でも死に顔が穏やかだったから、ちょっと救われた気もするんだ。僕達みたいなのでも笑って死ねるんだな、なんて」
 そんなことを思う僕はおかしいだろうか。
 最後は苦笑混じりに呟いた甲斐に、冬夜は何も言えなかった。

 甲斐はスッキリしたように小さく息を吐き出すと、何事も無かったかのように口を開いた。
「さてと、今日はこの辺にしといて帰ろうかな。詳しいことは明日にでも話せばいいさ・・・・・・そういえば冬夜と組むのは久し振りで懐かしいよ。何年振りだっけ」
「・・・司はどうするつもり?」
 これ以上は此処にいても無意味だと屋上の出入口に歩き出した甲斐に冬夜はそう尋ねた。甲斐は足を止めて冬夜を振り返る。
「冬夜はどうしてほしい?」
「甲斐の好きにすれば?」
 そうか、と甲斐は考えるように小さく頷いて、当然のようにそれを口にした。
「司には言わない」
 にこりと笑って告げた甲斐は、再び冬夜に背を向けて歩き出す。
「一応、極秘扱だしね。相棒だからって何でも喋っていいわけじゃない」
「でも、好きなんだろ?」
「好きと信頼は別物だよ」
 あっさりと言い放って甲斐は屋上から姿を消した。バタンと重そうな扉が閉まる音を背後に聞くと、そのまま扉に背を預ける。そして口の端を吊り上げてコンクリートの天井を見上げた。
「司を必要だと思うなら、か・・・キツイことを言ってくれるね、静流さんも」
 それが自嘲なのかは甲斐自身にもわからない。
 ただ、静流にそう言われた瞬間、反射的に答えは出ていた。
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