un capodoglio d'avorio
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2003年02月13日(木) 大人計画「ニンゲン御破算」

タナボタで手に入ったチケ、でも、ややあって開演時間に入場できず。初めてじゃないかな、演劇観始めてから。緞帳が上がるときに間に合わなかったのんて。一部、青年団みたいな例外を除くと、芝居において開演直後というのはストーリーの下ごしらえをするきわめて重要な時間だし、不安。でもなんとかついていけて、ホ。

松尾スズキがコクーンに進出したのは二度目。一度目は奥菜恵をヒロインに迎えた三年前のミュージカル「キレイ」。今回はなんと、歌舞伎役者の中村勘九郎を迎えての時代劇。今年上半期の演劇界の話題を、三谷幸喜の「オケピ!(再演)」と二分する超話題作。中村屋以外にも、すっごい豪華な役者たち。松尾自身はもちろん、大人計画の二大スター、宮藤官九郎と阿部サダヲも出演した!

頃は幕末、中村勘九郎演ずる戯曲作家を目指す男が、密命による偽金造りや幼なじみとの祝言、吉原でのドタバタや攘夷運動への巻き込まれつつ、桜田門外の変を「野外劇」として演出していき・・・みたいな話。プロットは良く練られていて、三幕三時間半という長尺を、できるだけ負担にしないよう細心の注意がほどこされている。

<嘘とハッタリの復権>という、松尾スズキの永遠のテーマの変奏曲。たとえば幕府に仕える武士や、アメリカに仕えるハリス、自分の操に仕える女といった一途さへの嫌悪感の表明。それはその「一途さ」自体を標的にした毒ではなく、「一途さ」がどれほどの悪をはらんでいるのか知らないでいる無知への毒。一途ということで言えば純一郎だってサダムだってジョージだって一途には違いなく、それを同じ視線で眺めていてもラチがあくはずなく・・・という風に考えていくと、松尾スズキの毒というのは、依然、その効果は落ちていない。

ハズであるのに・・・。というのは、今回、その毒が若干緩く感じるのだ。去年どかが観た松尾スズキの「業音」は、主役に荻野目慶子を迎えた。そしてその元・アイドルを徹底的になぶりいたぶり愚弄することを通じて、松尾スズキのアイデンティティであるその「毒」の純度を高めていった。しかし今回、さすがさしもの松尾サンも、歌舞伎役者の大御所、中村屋をなぶりいたぶり愚弄することには、遠慮が見えたのね。むしろ逆に、官九郎と一緒に勘九郎をよいしょして、引き立ててあげるという「やさしい」構図。はー、そうなのか、松尾スズキ?もちろん自らの出刃包丁の切れ味を敢えて落としていても先に述べたプロットにそって分かりやすくテーマは開示されていくし、初めて大人計画を観た人でも、それなりに楽しめるものになっているのだけれど。エンターテイメント度は、高い。

役者、特に良かった人
:吹越満(さすがッス。身体のキレで勝負する、古き良き小劇場役者!)
 秋山菜津子(やっすーいフェロモン、色っぽいゲス、いいなー)
 小松和重(サモ・アリナンズ主宰、初見、うまいなあ、声、好き)
 宮藤官九郎(伝説の「身体障害者」演技、最高。間の取り方最高)
 中村勘九郎(さすが。市川右近とはやはりレベルが違う柔軟さ。
       うまくて、すごい。終盤の歌舞伎風の口立て、痺れたすげー)

役者、普通に良かった人
:阿部サダヲ(相も変わらずハスキーボイスとハイテンション)
 田畑智子(写真で見るとそうでもないのに、案外舞台ではキレイ)
 片桐はいり(もはや大人計画劇団員か。不条理な性)
 荒川良々(おいしすぎる、ワンポイントリリーフ)
 村杉蝉之介(同上)

まー今回は、大人計画的には緩すぎるのだけれど、その分、普通の芝居に少し近づいているとも言える。宮沢章夫の段でも書いたけど、大人計画は「価値の転覆」に命をかけていて、たとえばつか芝居を徹底的に馬鹿にしたりしてきたのだけれど、でも今回、実は中村屋という足かせのせいか、「破壊」よりも「構成」に重心が移動。結果、後味がかなりつか芝居に近い気がする。そもそも戯曲的にも「河原乞食至上主義」はつかにも共通する部分だし、さらにこれだけ贅沢な役者を揃えたことで松尾も色気が出て役者芝居を目指してしまったことが、さらに大人計画<つか化>を推し進めている。ということはイコールどか的に、楽しめるということなんだけど、ある意味。でも、このベクトルでは、自分でさんざんけなしてきたつかこうへいに、適うはずもない松尾サン、やっぱり中途半端な印象だよねー、全体的に。

そもそも、大人計画がコクーンに進出すること自体、おかしいもの。大人計画はそんなでかいハコに出てきちゃ、ダメ。「価値の転覆」という道を「ハッタリと毒」というガソリンで突き進んできたんのに、渋谷に来ちゃうとそれは<自己否定>になっちゃうじゃん、結局。まあー、名声も手に入れて、立場も手に入れて、お金も手に入れて、必然としてここに来ちゃうのは分からないではないが、でもダメ。もし、コクーンや青山劇場やパルコで芝居やりたいんだったら、まず、つかこうへいに謝罪しなさいという感じ、どか的には。全共闘風に言うと、「自ら総括しろ」って。



普通に面白かったし、楽しめたエンターテイメント。僅かな毒が絶妙なトッピング。大人計画と松尾スズキの才能の余技だが、余技にしてこの完成度。だからどかはそこそこ評価する。でも。大人計画は、ど真ん中ストレートの毒に対して、トッピングのエンターテイメントという配分こそ黄金律。その配分が、逆のこの舞台は合格点でも満点では、無いッス。

おなじみのこの垂れ幕も、セレブな雰囲気を醸すbunkamura。似合わないでしょお・・・


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